狩り場深部探索(2)
正輝は足元のニッケル鉄の砂鉄の量からこれまでの産出量を推測する。死亡した前任メタルハンターが持ち帰った量がどれほどかわからないが、メタルトカゲ分を差し引いてもまだ流体金属は出ているはずである。
「最大規模の埋蔵量だな。広範囲が鉱床になってる可能性が高いぜ」
エメルキアが小躍りしている。
「ここに住みましょう!」
「待て待て、本来の目的を忘れるな」
「でも」
頭の中でなにか方便をひねくっている。
「立地がいいのは確か。近場の街までほどよく遠く、興味を持たれてもいない森の奥。でもな、話に聞いた王都は遥か北のはずだろ?」
「バイクならひとっ走りです」
「嘘つけ」
「結構あるから」
デレキセント教団の支庁もある王都は車でも一週間以上掛かる距離らしい。この前潰した飛行隊なら二、三日でも地上を行くとなるとそういう距離である。
「はぁ、せっかくの宝の山を見過ごさないといけないなんて。バイクにもっと積載量があれば」
台無しなことを言ってくる。
「機動力を捨てろって言わないで。でも、ルキの期待に応える作戦は一つ考えちゃいる」
「本当です?」
「ちょっと時間食うから目処が付いてからって思ってたけどさ」
まだ素案でしかない。
「とりあえず、足元のニッケル鉄だけでも確保させて。これも、その作戦の重要な材料になるんだ」
「わかりました。では、集めましょう。とはいえ、そこら中素材ですけど」
「砂遊びしててもいい?」
「いいえ、袋詰めしてください」
思考実験だけでは飽きたランゼッタは足元に絵を描いていた。エメルキアに尻を叩かれて渋々動きだす。
「一遍には持ちだせないから少しずつな。どっちにしろ当面は近くに寝蔵がいるか」
作戦のためには必要だ。
「大賛成です」
「えー、お魚釣るとこないのに?」
「ランゼは俺の細工の手伝いしてくれないか? 結構面白いはずだぜ?」
物珍しいことをする。
「ほんと?」
「おう、見たことないもの作る」
「うん、手伝う」
なんとか言いくるめて素材集めに勤しんで外を目指す。これからの算段を頭の中で整理しながら歩き、鍾乳洞の入口までたどり着いたところで身体が反応した。
「止まれ。なんかおかしい」
目の端に光が走った気がした。
「あら、この気配は」
「マサキ、これは大丈夫なやつー」
「なんだって?」
ロナタルテが先行し、外に出る。すると、木の陰から出てきたのは小妖精だった。見えた飛行翅は隠れる間際のそれだったようだ。
「教団の追手の偵察か? 目星をつけられるようなことしてないはずだが。それなら、説得できないか?」
瞬時に判断する。
「いえ、違うと思います。身なりがきちんとしてますので」
「確かに。連絡役の子みたいに薄汚れてないな」
「なぜかはわかりません。どこの子なのでしょう?」
話しているうちにロナタルテが取って返してきた。親しげに近づいたはずなのに、半泣きになって戻ってきている。
「いじめるー。出ていけってー」
悲しそうに張りついてきた。
「話す余地はあるんだな。俺が交渉しよう」
「わたしが行ったほうがいいのでは?」
「あの子たちが警戒しているのは俺のほうだろう。誤解だと説くならそっちのほうが早い」
両手を広げて武器を持っていないとアピールする。
「このとおり敵意も悪意もない。とりあえず話をさせてくれ」
「人間と話すことなんてない。早く出ていって。さもないと攻撃する」
「喧嘩腰はよくない。お互い不利益しかない。できれば話し合いで。そうだな、一人こっちに。なにかあれば他のみんなで攻撃をしていい」
指を一本突きだす。そこに来いというジェスチャーだ。戸惑っている素振りしかなかったが、彼が頑として引く気配がないので恐る恐る近づいてくる。小妖精の手がぎりぎり指先に触れたところでソフトに精気を流してみる。
「ん……」
頬が紅潮している。
「少しずつ強くする。好きなだけどうぞ」
「ああ、そんなに」
「俺はこのまま動かない。他の子も来て吸ったらどうかな?」
続いて二人やってきて熱心に栄養補給する。それでも正輝は決して動かなかった。結果、二十人以上の小妖精が集まってきた。
「どうしてこんな?」
最初の一人が問う。
「好意の証は具体的なほうがよくない?」
「認めます。これはどういうこと? 青の方まで従えるような人間が」
「従えてない。彼女、エメルキアの同意を得て契りを結んじゃいるが、俺の感覚としては一緒にいてもらってるつもり」
説明にその子は瞠目する。
「わからない。わからないの。あなたはなに? 本当に人間?」
「いやー、最近はめっきりお前は何者だってばかり訊かれている。一つだけ確かなのは、俺は妖精種の味方だ」
「妖精種の……、味方?」
常識と合わない台詞に混乱しているのだろう。動揺を表すように漂いながら離れていっている。
「彼、マサキの言うことは本当です。まずは相互理解から始めましょう。あなたはこのあたりに住んでいる妖精種ですか?」
「ええ、そう」
「どこからか逃げだしてきたわけじゃない?」
「最初はどうだったかわからないけど、私はずっと住んでる」
面白い話が聞けた。彼女が言うのが本当なら、傍にいる二十人もの小妖精が島と同じような暮らしをしているはず。
(どこから手に入れた知識だ? それとも偶然見つけた?)
正輝は判断がつかなかった。
次回『狩り場深部探索(3)』 「察しが良すぎです」




