ホジダラ情報戦(6)
翌朝、教会の固く閉ざされた扉には「諸般の事情により当面は閉鎖する」と但し書きが貼りだされている。無論、エメルキアが書いたものなのだが、町の人々は前日までほうぼうを調べていた教団戦士がいなくなったことで、別の場所に用ができたのだと噂していた。
疑われないかと様子を窺っているうちに、最初に送りだした子が帰ってくる。その小妖精は黄緑や、中には緑の瞳をした同胞を伴っていた。
「やあ、お帰り。お疲れさま」
歓迎すると顔にへばりついてくる。
「戻りました。言いつけどおりにして」
「うんうん、ちゃんと伝わってきてる。ちょっと語弊があるみたいだけどさ」
「ああ、本当に神様がいらっしゃった。なんて素晴らしい」
彼女たちには正輝の身体から溢れる精気が見えてるのだろう。
「神様、どうかわたしをあなた様の装鎧少女にしてください」
「わたしもお願いいたします」
「お役に立ちたいのです」
力のある子が次々と集まってくる。混乱してきたので、一気に精気を浴びせて身悶えさせる。床に落ちそうなところをどうにか受けとめてテーブルの上に座らせた。
「君たちの気持ちは嬉しい。でもな、みんなと一緒にいると俺が教団のターゲットだって一目瞭然。そいつはいただけない」
説得に掛かる。
「そうですが……」
「すまないが、匿っておく場所も確保できてない。今は教会を占拠してるけど、ここもいずれは放棄しないといけない。ましてや、教団戦士をおびき寄せて倒す気だからな」
「教団の戦士を?」
驚いた顔をする。
「じゃないと、装鎧少女を解き放ってやれないじゃん。救いたいのは小妖精だけじゃない」
「やっぱり、あなた様は妖精種の神様です」
「それも改めてくれ。マサキ、な?」
元々教会にいた子たちが彼のことを「マサキ様」と読んで示す。有力な子たちも頷いて真似をしはじめた。
「ふう。というわけで、俺にはこのエメルキアっていう装鎧少女もいることだし、今んところ間に合ってる」
少女を示す。
「ああ、すごいです、マサキ様。あなたほどとなると青をはべらせていらっしゃるのですね」
「いやいや、はべらせてない。ルキは俺の家族だ」
「やっぱり、お傍に置いていただきたいです」
それでも懇願してくる子が数名。
「聞き分けなさい。所帯が大きくなるとマサキの迷惑になるの。これから、コタカッタ支庁はもちろん、王国とも敵対しなきゃいけないんだから」
「ありがとう、ルーザ。そういうことで君たちにはパムール島に行ってもらう。そこは人間が入れない禁域になっていて、自由に本来の姿で暮らせる場所だ。なんの心配もいらない」
「そうなのですか」
喜ぶかと思えば若干しょげてしまう。妙な弊害が発生しつつあった。
「そこは俺たちの出発の場所だ。いずれ戻ろうと思ってる。それまで守っておいてくれないか?」
お願いする。
「マサキ様の仰せのままに」
「変な気をまわさないでいいから、ゆったりと暮らしておいで。状況はどう転ぶか今のところわからない」
「いつかお役に立てることも?」
「あり、だ」
小妖精は手に手を取って喜んでいる。どうにか収まりそうだった。
「だもんで、ここは危険だから緑の強い子は優先的にパムール島に向かうこと。いいね?」
念押しする。
「はい」
「で、これからの作戦のために黄色組の子は少し残ってほしい。偽装の連絡役をやってもらいたい。危ないから、クジでも作ってハズレの子に……」
「わたしが!」
一人が挙手すると、他の子も我も我もと立候補する。
「何人かで十分だ。一回支庁へ向かって、強い子を連れてくる役回りにもなる。なにがあるかわからないんだぜ?」
「お役に立てるんでしたら喜んで」
「仕方ないのでクジでアタリを引いた子にしましょう」
エメルキアが折衷案を提示してくれた。テーブルの上では大勢の小妖精が集まって使命感に燃えている。正輝はおかしなことになったもんだと脱力した。
(ほんと、苦しい目に遭いすぎて危険の意味がわからなくなってる。教団にしろ、王国にしろ、なんてことしやがる)
数日いたわってやれば気が変わることを祈った。
エメルキアとランゼッタが手分けして作ったクジの結果、アタリを引いて喜び勇む子と、羨望の眼差しを向ける子に分かれてしまう。いろんなところに弊害が生まれて、どうにかセーブできないものかと悩ましい思いをする。
「じゃあ、ここで数日休んで体調を整えたら出発な。それまでに作戦班の子のほうも段取りを付ける」
「はーい」
「ここは女子校か!」
なんとなく先生の気分になってきた正輝であった。
◇ ◇ ◇
使っている教会の客間のベッドで目を覚ました正輝は、大勢の小妖精にくるまれているような状態だった。それでも爽快な目覚めを迎えるとティナレルザが呆れる。
「普通の人がこんなことしたら、次の日足腰立たないわよ」
「絶妙な下ネタやめろ」
悪戯げな目つきで察した。
「それより、ルーザ。この子たちに持たせる地図は書いたのか?」
「書いたわよ。誰が持つかでまたひと悶着あったくらいなんだから。みんな、マサキの命令に忠実でありたいんだそうよ」
「そうか」
ほとんどの子がまだ寝こけている。これまでの苦労が疲労となって溢れでているのだろう。手近な子の髪を撫でる。まるで、フィギア性愛のように見えるが、だんだんと恥ずかしさも薄れてきた。
(とにかく、この子たちが安全に暮らせる場所を作る)
正輝はさらに気力が湧いてきた。
次回『ホジダラ迎撃戦(1)』 「マサキを泣かさないよう頑張る」




