ホジダラ情報戦(3)
予定を変更して当日からしばらくホジダラでの逗留となる。危険性は増すが、主に小妖精二人に教団戦士の監視をお願いした。ロナタルテは連絡要員、目端の利くティナレルザが監視役となる。
「教会から出てきた?」
戻ってきたロナタルテに正輝は報告を受ける。
「午前と同じ格好のままー」
「わかった。新たに連絡を飛ばそうとしたらまた同じ段取りでな」
「うん、ルーザにも言っとくー」
部屋から飛びたっていく。彼ら二人に発着する連絡系統を完全に掌握するつもりだった。
「それと同時にコタカッタ王国領内の教団の連絡網を切り崩す。そしたら、必要以上に多勢の敵に一遍に取り囲まれるような事態も避けられる」
今後の作戦にも効果が見込める。
「びっくりしました。マサキがこんなに策略家だったなんて」
「真似事さ。俺の世界じゃ近代戦争はもっぱら情報戦が先行する。情報を制したものが有利に物事を運べる」
「わかります」
理解は得られるが、まさかエメルキアも地球が想像も絶するほど情報化社会になっているとは思うまい。ジノグラフの連絡手段だからこそ手を入れる隙間がある。
「てっきり飛びトカゲとか飼いならしてるかと思った」
鳩の代わりである。
「無理です。トカゲは言葉を解しませんし、どこへ行くのも自由すぎます」
「マサキ、変なこと言う」
「そっか、飛びトカゲは自分の住んでるとこを憶えたりしないか」
鳩は帰巣本能を利用している。
「あとは走りトカゲに乗った人を走らせるかだな」
「昔はそうだったらしいです。今は近距離しか」
「だって、小妖精ならどこに行くかもなにをするかも言えばわかるし」
便利なのは理解できる。利用したくもなろう。
「でも、それだけ高い知能と自我を持つ君たちを洗脳と精気で縛りつけて利用しているのが腹が立つ」
正輝は露骨に不機嫌になる。
「そうおっしゃらないで。そのお陰で教団の連絡網を撹乱できそうなのですから」
「ぼくは連絡で飛んだことないけど、黄色目の子たちにとったら一番楽な精気の補給機会なんだって」
「それで諾々と従ってるわけか」
よく考えられた仕組みである。
「軽い飢餓状態で拒否しづらい状況を作ってやがる」
「それはまあ」
「支庁の施設しか知らない子は逃げだせない」
知識のコントロールもしている。今はもう、ランゼッタも自然界から精気を得る方法をエメルキアに習ったが、そうでなければ生きる糧を求めて命令に従うしかない。
「精気が活動できる限界量以下になったら?」
連絡用小妖精は動けなくなると言っていたように記憶している。
「仮死状態になります。それが長期になると身体が維持できなくなって自然と昇華してしまいます」
「実質上の死か。中には無念の終わりを迎えた子もたくさんいそうだな」
「特に王国管理の子は。黄色だと価値を認められません。それなのに大量に生みだされてしまいますので」
力の強弱が確率論となると自動的にそういう仕組みになる。
「いち早く装鎧少女まで成長しないと死が待ってる。待てよ。そもそも飢餓状態だと成長できないんじゃ?」
「そのとおりです。なので、人間に反抗的な子は厳しい立場に置かれてしまいます。従順な子ほど生き延びられます」
「やってることが無茶苦茶だ。しかし、平気でそれをするのが人間だともいえる」
正輝が連想したのは中東の少年ゲリラだ。思想教育を施され、相手を油断させて攻撃する武器として純粋培養されているといってもいい。
詳しくはないが、女の子は子どもを産む道具ぐらいに扱われているのだろう。その両方のむごい仕打ちを妖精種が担わされている。
(絶対に破壊してやるんだからな。報いというものを教え込んでやる)
彼の決意は固い。
「ともあれ、楔は打ち込んだ。小妖精がちょっとずつ脱出することで、俺の流した情報は支庁内部の妖精種に広まっていく」
事実になれば信憑性も増していくはず。
「王国の小妖精とも繋がりがあったらベストなんだけどさ。情報感染を起こさせられる」
「ぼく、知らない」
「わたしもほぼ禁錮状態でしたのでそういう話は。もし、小妖精たちが憐れんで逃がしてくれなければ、今もあの部屋で優秀な子を生まされつづけていたかもしれません」
エメルキアは、誰かが精気の供給に来たタイミングで小妖精が逃げだす手立てを講じてくれて秘密裏に脱出できたのだという。束になって昏倒させられた人間は死にはしてないとは思うが、そのとき頑張ってくれた小妖精がどんな目に遭わされたか、今もときどき夢に見るらしい。
(おそらく、もういないだろうな。五十年も前のことだし)
閉じ込められて強制昇華しているだろう。
「ルーザが詳しそうだな。教団戦士たちが今日の活動を終えて帰ってきたら聞いてみよう」
現状にもっとも詳しい彼女しか情報源がない。
「当面は教団を切り崩しますか?」
「そのつもりだ。でも、装鎧少女を解放する前に保護拠点をどうにかしないと。頭が痛いな」
「島のような環境が必要です。それでも足りないかも。わたし一人が存在を維持するにも、結構な面積の森がないと無理でしたし」
非常に難しい注文だ。
「いっそのこと、車作って団体移動したほうが楽そうな気がしてくる。でも、目立つこと請け合いだもんな。なんか、根本的に考え方を変えないと」
「極めて動物の多い森とか」
「そういうとこ、人間も狩り場として目をつけやすいじゃん」
正輝は好条件の物件を探す住人の気分だった。
次回『ホジダラ情報戦(4)』 「冗談も言えるようになって嬉しいよ、ランゼ」




