ホジダラ情報戦(2)
「君はこのまま連絡役として指定された場所に戻る。で、どこ?」
マサキは肝心なとこが抜けていることがある。
「デレキセント教団のコタカッタ支庁」
「じゃ、そのコタカッタ支庁で指示書を運ぶ役が決まったら、その子に今日のことを話してまずは俺たちのところへ持ってくるようにさせる。そしたら、その子もちゃんと腹いっぱいにしてあげよう」
「ほんと?」
教団支庁で利用されている小妖精も、ティナレルザがいた王国施設と変わらない状態のようだ。同胞を繋ぐ連帯の力は強い。
「それと同時に君は俺の存在のことを支庁にいるお仲間に触れてまわる」
意外と細かい。
「きっと告げ口する子はいないはず」
「そうか。その可能性もあったか。でも、大丈夫なんだろ?」
「うん、助けてくれる人間がいるなら絶対に不利になるようなことしない」
小妖精も保証する。
「できれば、一緒にいる装鎧少女にも教えられるといいんだけど」
「それはちょっと難しいかも。私たちと違って厳重に閉じ込められるから」
「そうか。まあ、無理は言わない。いずれ俺が直接乗り込んでやるから」
マサキの顔に一瞬だけ浮かんだ嫌悪。それは怒りへと転じて決意に昇華する。意識が徐々に変わっているランゼッタも期待の目を向けていた。
「それが終わったら、君は支庁を逃げだしてもう一回俺のところへ来る。またお腹いっぱいにしてあげるからさ。なんだったら、見つからないよう数人くらいは連れてきてもいい」
小妖精は花が咲いたような笑顔になる。
「私も一緒に連れてってくれる?」
「それは無理かもしれない。あまり目立つようになりたくないから。その代わり、どうすればいいか教えてあげよう。君たちの楽園となる場所がある」
「楽園! すごい! 本当?」
「本当だ。俺たちはそこから来たんだから」
限界を迎えた小妖精は喜びの涙を流す。彼の精気で活性しはじめた身体で思いきり舞い踊っていた。
「大丈夫? この子、島のことまで話しちゃうわよ?」
「それでいい。希望を抱かせるのが重要。万が一の裏切りを防止できる」
「意外と策士なのね」
ティナレルザはマサキの策略に感嘆する。周りが敵だらけで動きにくい分、考えることで対処しようとしている。
「まあまあ、落ち着こう」
小妖精を捕まえる。
「君たちに関しては管理はそれほどじゃない。どっちかっていうと緩い。精気を与えてくれる人間がいないと動けなくなるって教えられてるから」
「うん、そう」
「だったら、仲間同士しっかりと情報共有して機会を待つ。この場所は作戦が終わったら引き払うけど、そのうち俺の情報も入ってくるはず」
教団と対決姿勢を取るなら、どうあれそんな状態になる。
「そのときに逃げだして俺のところへ来るよう言い含めておいて。最終的には君たちみんなが楽園で暮らせるようにしようと考えてる」
「ああ、人間以外にも神様はいたのね。こんなに嬉しいことはない」
「いいかい? これだけは肝に銘じておくように」
マサキが真剣な眼差しで告げる。小妖精はゴクリと唾を飲み、空中で手を組んでお告げを待つように静止した。
「あまり派手にやって、支庁の管理が厳重になると誰も逃げだせなくなる。ちょっとずつ慎重に進めること。できれば、まずは力の強い子から連れてきて。一番苦しみに直面してる子を」
深く頷きかえしている。
「いい? 黄色目の子たちばかりでは人間も厳しくはしない。繁殖形態になっても需要は知れてるし、なにより数が多いから痛くも痒くもないわ。でも、露骨に数が減るようだと黄緑の子や緑の子は厳重に閉じ込められちゃう。その前に連れだしてきなさいって意味よ」
「言ったとおり。先に逃がしてあげないと」
「わかった? あなたの安全は決まってるから急がない。マサキの言うことを聞いてくれるなら優先してもらうわ」
小妖精は目を伏せる。
「私は大丈夫。緑に近い子たちを早く助けてあげて。装鎧戦士候補の人間が値踏みにやってきて、いろいろと言われてて。ほとんどノイローゼみたいになってる子も少なくないから」
「心配ない。そんな仲間思いの君だからこそ早く楽園に行ってほしいと思ってるから遠慮しない。それに、ここに案内できるのは君だけだろ?」
「うん」
建前を作ってやれば動きやすいだろう。マサキがそこまで計算しているかはわからないがいい手だ。
「じゃあ、行っておいで。今回のメモはそのまんま渡せば問題ない」
最後にまた精気を注がれた子は何度も頷く。
「またね。待ってるよ」
「ありがとう。また」
「戻ってきたら教会のシンボルのところへ来なさい。私、待ってるから」
嬉しそうに飛んでいく小妖精を見送る。気持ちを反映してか、飛行翅の光の筋も踊っていた。
「で、作戦っていうのは、コタカッタ支庁の情報撹乱以外になに?」
まだ、マサキの口から聞いていない。
「そんな難しい話じゃない。どうせここを引き払わなきゃなんないなら、ある程度の数の教団の装鎧戦士をここへおびき寄せようってこと」
「もしかして?」
「ああ、俺が撃破して装鎧少女を解放する。小妖精に戻った子はパムール島に行ってもらうだけ。とにかく敵の戦力を削ってく」
(今の頭数を増やさないよう相手にダメージを与える作戦なのね)
感心する。
「でも、敵の数を増やして大丈夫なのです?」
「俺に考えがある」
ティナレルザは計算高いマサキという意外な側面を見ることになった。
次回『ホジダラ情報戦(3)』 「それで諾々と従ってるわけか」




