ホジダラ情報戦(1)
その日もティナレルザはマサキと一緒にホジダラの街へ麦粉を調達に来ていた。首尾よく購入した粉袋を、走りトカゲ置き場に停めてあるバイクに括りつけたらあとは食べ歩きし、昼過ぎには湖の拠点に帰る予定。
「マズいかも」
彼女はその二人連れに気づく。
「どうした?」
「マサキ、あれ」
「あ、教団戦士ですね」
白い外套を着た二人連れ。フードを被っているので年の頃はわからない。旅行用カバンのようなものを背負っている。
それぞれに、やはり白いローブをまとった背の低い連れ。その二人が装鎧少女であり、フードの二人が教団戦士だとわかる。
「バレたか?」
マサキに訊かれる。
「バレているといえばバレてるわね」
「装鎧少女はなんとなく相手がそうとわかるものです。でも、あえて告げ口はしないものなので」
「あの二人はルキも装鎧少女だって見て取ったわけだな」
チラチラと視線が投げ掛けられる。しかし、特にアクションを起こす素振りはない。マサキが親指を立てて感謝のジェスチャーを送っていた。
「暗黙の了解ってやつか」
「ええ、そう」
どれだけ苦しかろうが相互の不利益になることはしない。
「すぐにバレはしないけど足はつくかも。この街で動きまわりすぎてる」
「いろいろと調達してますからね。顔なじみの店ができるくらい」
「面白くないな。移動するしかないか」
聞き込みをされると発覚するだろう。小妖精を連れた黒髪の男などそうそうはいない。早晩、調査の網に引っ掛かると思うべきだ。
「いけない。あの麦粉屋」
何度も使った店に入ってしまった。
「しまったな。今日の今日だ」
「さっきも買いましたものね」
「すぐ出てきたらアウトかも」
予想どおり二人の教団戦士は店を出てくる。書付をすると背中のカバンを降ろして中身を出していた。連絡用の小妖精である。
「発覚を遅らせることはできる。ロナ、あの子を止めるわ」
「あい」
書付を持って飛びたった同胞を狙って目立たないように追う。一度裏路地を飛んで目眩ましを掛けるとショートカットして行く手を遮るコースへ。
「びゅー!」
ロナタルテが先行する。彼女のほうが飛ぶのは速い。一気に接近すると通せんぼした。
「ごめんなさい。それ、持って行くのやめてもらえる?」
「通さないもん」
小妖精の顔色が変わる。パチンと空間が鳴った。彼女が放った魔法をロナタルテが迎え撃ったのだ。何度もパチンパチンと音がして攻撃の応酬が行われたのがわかる。
「わかるでしょ? あなたじゃその子に勝てない」
黄色い瞳の小妖精だ。
「悪いようにはしないからこっちに来て」
「でも、これ届けないと精気がもらえなくて動けなくなっちゃう」
「どうにかなるから。信じてみない?」
突破できないのは一目瞭然。青緑の瞳を持つロナタルテはその子にとってははるかに強力なのである。あきらめて腕を垂らした。
「こっち」
連れて戻ると、マサキたちは裏路地に移動していた。
「でかした、ルーザ。ロナもごくろうさん。君もこっちおいで」
「あの人間、装鎧戦士」
「そうよ」
怯えを見せる彼女を導く。
「まずは駆けつけ三杯だな」
「なんです、それ?」
「まあ、常套句みたいなもんさ」
笑うエメルキアにも手招きされた小妖精はマサキの元へ。そっと受けとめられるとぴくりと震える。大量の精気を浴びているのだ。
「ああ……あ」
頬が紅潮してもだえる。
「どうして?」
「頼み事をしたいなら、まずお返しをってね」
「その書付、見せていただけます」
エメルキアに促された彼女は渋々といった体で手渡している。丸められたメモに目を通した装鎧少女は案の定という感じで頷いた。
「『疑いのある者を発見した。ホジダラでの調査に集中する』だそうです」
読みあげてマサキに伝えている。
「やっぱり足がついちゃったか」
「これを握りつぶしたところで続報が送られるだけです。ここの教会にも連絡用小妖精が多数いるはずですので。早めに引き払ったほうが良いかと」
「うん。まあ、待って」
マサキが考え込んでいる。
「これを改竄することは?」
「しても、続報との齟齬が生じるだけですけど。指示書も送られてくるでしょうし」
「すべてをコントロールするのは可能かな? 連絡に小妖精を飛ばせる以上、味方に引き入れるのもありじゃん」
マサキはとんでもないことを言いはじめた。彼女の発想にはないものだ。とても難しいことをしようとしている。
「君がメモを持って飛んだら指示書を持って戻ってくる?」
小妖精に尋ねている。
「ううん、別の誰かが選ばれると思う」
「ほうほう。で、君はどうにか生きる糧を得られると。そう教えられてるわけだ」
「それ以外にないもの」
管理下の妖精種の常識だ。
「そうじゃないとしたら俺の言うこと聞いてもらえる?」
「え、人間が私に頼み事するの?」
「ええ、マサキなら普通にそうするわ。だから、悪いようにはしないって言ったのよ」
その小妖精にとっては天地がひっくり返るほどの出来事だったろう。混乱して頭を抱え込んでしまった。
「俺の頼みを聞いてくれたら君が空腹で困るようなことにはならない。約束しよう」
「でも……」
「とりあえず信じてみなさい。元の生活に戻るのは簡単なこと。ただ、苦しいだけ」
ティナレルザは最後のひと押しの言葉を注ぎ込んだ。
次回『ホジダラ情報戦(2)』 「意外と策士なのね」




