ランゼの意識改革(4)
どんなのを着てみたいか。ランゼッタにとっては大変な課題のようだった。服屋に行って選ばせてはみたものの、いつまでもうなっている少女に正輝は呆れた。
「そんなに難しいか?」
ランゼッタはこくこくと頷く。
「種類に圧倒されているのかもしれませんね。急すぎましたか」
「私たちのなんてこれがせいぜいだものね」
「んー? ロナは着やすくて好きだけどー」
小妖精組はエメルキアと似たような貫頭衣スタイルになっている。しかも、彼女のようなマントを肩に羽織っていない。丈も太ももまでほどで、空に舞いあがるとパンツまで丸見えである。
下着はちゃんとしたものを履かせてるが、ガードが甘いのに変わりない。ローティーンくらいの繁殖形態と違ってわりと凹凸のしっかりある体型なのだ。脇から胸当てもガッツリ見えているときもある。
「小妖精サイズの服に装飾までしようとすると、職人クラスの技術が必要です。わたしでは難しくて」
エメルキアは実用的なものを作るのが限界で、服飾にまで至っていない。
「ううん、とっても感謝してる。ちゃんとした下着まで作ってもらってるんだもの。施設だとただの布切れを確保するのも難儀したわ」
「丸出しルーザ?」
「人を露出狂みたいに言うな」
小妖精同士でじゃれている。
「しかし、教えられる人がいないの困るな。店員はじいさんだし」
「頼りになりそうにないですね」
「うー」
人目を避けて流行ってなさそうな店を選んだのが間違いか。河岸を変えてそれっぽい店で女性店員か誰かに判断を任せるべきかもしれない。
「マサキと同じでいい」
そんなことまで言いだす始末。
「いや、それはあんまりだろ?」
「そうですねえ。可愛さが皆無というのは」
「俺もファッションに関して自信があるなんてお世辞にも言えないしな」
ところが、いい思いつきだったとでも感じたか、ランゼッタは少年が着るような服のコーナーを目指してしまう。そこには彼の着ているようなシャツにあふれている。街ゆく少年もだいたいそんな格好だ。
「これ」
一つ取って差しだしてくる。
「まいったな。まったくなしではなくともさ、もう少しこうなにか」
「ですね」
「あー、俺のもそろそろなんとかすっか」
ついでに自分にも当ててみていると、ランゼッタは嬉しそうに真似をする。
「どうやらご希望らしい。当面はこれで手を打とう。じきに目覚めてくれるのを期待して」
「仕方なさそうですね」
「それとこれ」
ボトムスもズボンを示してくる。それはあまりに貧相なので、話し合ってショートパンツにした。若干は可愛めになる。
「もうひと押しか」
「せめて女の子用を」
エメルキアも無念に感じている様子。
「お? ビスチェがあるじゃん。これって下着扱い?」
「そうですね。女性が着けているのを見たことあります」
「こいつを上に重ね着してみたらどうだ?」
試着用の幕の裏でエメルキアがランゼッタを着せ替えする。無地の白シャツの上に髪色と同じ黄色いビスチェを羽織らせただけでずいぶんと印象が変わった。
「いい感じになりました」
感心している。
「よく思いつきましたね」
「俺の世界で、そんなファッションしてる娘がいたの思いだした。それでなんとかなるかってな」
「ジノグラフでは新発想です。突飛ですが悪くないかもしれません」
着せられたランゼッタは自分の格好をあちこち見まわしてニヘッと笑っている。どうやらご満足いただけたらしい。
「スポーティが好みか。俺と同じだな」
「同じ」
それが嬉しいらしい。
「む。でも、わたしは女の子っぽく悩殺するスタイルなので」
「悩殺すんな」
「のうさつ」
エメルキアが太ももをチラ見せすると、ランゼッタまでビスチェをめくって見せている。
「真似するからやめとけ」
「失敗です。すみません」
「ルキの真似ばかりしてたら正妻の座を狙ってるって排除されるかもよ」
ティナレルザまで茶化してくる。
「排除は嫌」
「余計なこと言うな。それより、生地を選んでくれば。せめて、色どりで飾るといいんじゃない?」
「そうね。行こ、ロナ」
流体金属を売った金で衣類をひと通り揃えた。これでランゼッタも粗末な衣の環境から卒業である。
「まあ、今んとこ俺が確保してやれるのは衣と食だけだけどな。住はちょっと望めない」
肩をすくめる。
「大丈夫ぅー。ロナは食が一番重要ぉー」
「俺がいれば木々からちょっとずつ分けてもらうんじゃなく、一遍に腹いっぱいにできるもんな」
「すごく良くなったー」
彼が島にやってきたときに比べてロナタルテもすごく活動的になってきている。エメルキアも然りだ。肌艶や髪の張りなど、健康的に輝きを持ってきたと思う。
「私もこんなに体調いいの生まれて以来だわ」
「ぼくもすごく元気になったよ」
ティナレルザは肩に戻ってくるし、ランゼッタも満足げに腰に張りついてきた。
「喜んでくれるなら俺も満足だ。みんなに分けられるよう、ここでいろいろと食ってから帰るか」
「当面はあそこが拠点ですね」
「不便はないかしら」
湖畔からホジダラの街まで歩けば一日仕事だろうがバイクなら一時間かそこらで着く。目立たないようにすればしばらくは通える感じだった。
(もうちょっと、ゆとりを持とう。彼女たちに心配させるようじゃ本末転倒だ)
少々反省する正輝であった。
次回『ランゼの意識改革(5)』 「やっぱり鶏肉っぽいな」




