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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
謎の破壊者

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ランゼの意識改革(2)

 ロナタルテの投入した餌に魚が食いつく。水トカゲの妨害を懸念したが、さすがに小妖精(リトルエルフィン)の傍には寄ってこない。正輝は順調に獲物を引き寄せた。


「と、こういう寸法だ」

「魚?」

「生きてるのは初めてか?」


 ランゼッタは夢中で観察している。跳ねる水しぶきをものともせず、顔を近づけていた。彼が針から外してエメルキアに捌くのを任せてからも真剣に見入っている。


(外身はもちろん、中身も知らないか)

 嫌な顔一つせず、内臓が取り除かれるのを観察する。


「開きにしたら、この燻製器に入れて保存用にします」

「燻製」

「やりたそうですけど、まだ刃物を扱わせるのは怖いですね」


 エメルキアの言うとおりである。捌くのはまだ彼女に任せるべきで、別のことなら経験させてあげられると思った。


「ランゼ、釣りあげるほうをやらないか?」

「やる」

「じゃあ、ルーザとペアでやってみよう。餌を掛けるのは俺がやるから」


 再び針にヒルを掛けて今度はティナレルザに持たせる。妨害もなく遠くまで運ばれた仕掛けは問題なく投入された。伸ばした糸を、大きな手袋に苦戦しているランゼッタに持たせる。


「どうするの?」

 途端に心細そうな面持ちを見せる。

「待ってたら魚が食いつくから引っ張るだけ。わかりやすい手応えあるからさ」

「これ?」

「そうだ引っ張れ」


 垂れていたワイヤーラインが跳ねあがっている。持っていかれているのだ。おぼつかない手つきで、しかし、きちんと糸を手繰りだした少女の身体を支える。しゃがんで腰を抱えていると安心したように引っ張りつづけた。


「見事だ。ランゼの初手柄だな」


 引きあげられた30cmほどの魚の口を掴んで持ちあげてみせる。すると、少女はニパッと笑った。その表情が心から楽しそうで安心する。


(この子の心はまだすり減っちゃいない)

 正輝は安堵する。


 思いだすのはジーギラ戦士団に随伴していた装鎧少女(エルフィン)たち。なにをしようがひどく反応の薄い、感情という感情が壊れてしまっている少女たちよりランゼッタは軽症で済んでいる。


(それでも、俺の想像を絶するような悲惨なものを見つづけてきたんだろうに)


 彼女のような小妖精(リトルエルフィン)を生ませられつづけてきた母体となる装鎧少女(エルフィン)。責めさいなまれつづけているであろうその妖精種(エルフィン)をまだ救えていない。申し訳ない気分になる。


(駄目だ。憐れんでいるだけじゃランゼ一人さえ救えない)


 褒める。撫でる。親しく名前を呼ぶ。したいことをさせる。言葉に耳を傾ける。その全てがランゼッタの意識改革に繋がっていくはずなのだ。


「どんどん釣ろう。保存食料だから幾らあってもいい」

「楽しい。もっとしたい」

「うんうん、餌は俺が取ってくるから好きなだけ釣っていいぜ」


 ランゼッタはロナタルテやティナレルザと笑いさざめきながら釣りに興じている。正輝は餌集めや、エメルキアに頼まれた燻製用の薪拾いとチップ作りに精を出した。


「腹減ったか?」

 いい香りが漂ってきてランゼッタの腹が鳴る。

「初めてかも」

「いい傾向だ。メインディッシュは精気だとしても、食べるのも楽しまなきゃな」

「うん、燻製食べてみたい」


 やりたいこと。欲求。そんな当たり前が増えていく。それで彼女は一人の少女に近づいていくのだ。好きを増やしていくのが先決で、今に嫌いも増えていく。それでいいと思った。


「子どもの成長を見てる感じだな」

「そのとおりですよ。ランゼはわたしと同じ体格をしていますが、生まれたばかりの子どもなんです」

「責任重大じゃないか」

「目標を掲げるならそれも背負ってくださいな」


 エメルキアは厳しい。もっと過酷な現実を知り、それ以外も飲み込んできた彼女は強い。こういうときに本当は彼より長く生きているのを思い知らされる。


「もちろんさ」

「では、今度は炙り用の薪拾いをお願いしても?」

「簡単な部類だ」


 エメルキアが念動で作った竈の傍に薪を積みあげる。火を起こしてもらって、用意した焼き網を熱していく。その上に、燻製にされたばかりの魚を並べた。


「今度は釣られたか?」

「すごくいい香りする」


 釣りをやめたランゼッタが竈の反対側にしゃがみ込んでじっと見つめる。焼けた魚から脂がじゅくじゅくと滲みでてくるのを見て、口元をもにょもにょとさせている。食欲をそそられているサインだ。


「ぼちぼちだな。冷ますからちょっと待ってな」

「うん」

 目は釘付けだ。


 身を少しむしって息を吹きかけて冷ましてやる。程よくなったところでランゼッタの口に放り込んでやった。目を丸くしたかと思うと、すぐに瞑ってしまってずっと咀嚼している。心ゆくまで味わっていた。


「もっと欲しい」

「今日の釣果はほとんどランゼのだからな。その権利がある」

「ロナタルテも欲しいー」

「私も」


 小妖精(リトルエルフィン)たちにも順番に冷まして渡していく。上機嫌で飛びまわりながら齧りついていた。ついでにとばかりに口を開けて待っているエメルキアの面倒まで見ていたら、なかなか自分の口までまわってこない。


「親って大変じゃね?」

「今さらです?」

「早くちょうだい、マサキ」


 ねだるようにまでなったランゼッタには勝てない。小気味よく鳴る腹を抱えたまま、彼は燻製魚を焼きつづける。


 そんな感じで正輝たちの夜は更けていった。

次回『ランゼの意識改革(3)』 「こう見えてもは勘弁な」

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