ランゼの意識改革(1)
身ぎれいにしたランゼッタにはエメルキアの洗い替えを着せる。彼女たちはおしなべて同じ体型をしているので簡単だ。
「可愛いぞ」
「そう、かな」
正輝が褒めても反応が薄い。おそらく、着飾るという感性がないのだ。与えられたものをまとうだけ。服を着ることさえ押し付けと感じているかもしれない。
(変えてやらないとな)
憐れむ以前の問題である。
彼の中に焦りはある。より多くの装鎧少女を早く解放してやりたい。しかし、危険を伴う行動になるし、準備もまだまだだ。
「マサキが焦ったところですぐには変えられないの」
「人間社会はメタルビースト発生から滅亡に瀕して以降、百年掛けて今の装鎧戦士の文化を構築し、百五十年掛けて確立したのです。それを数日、数ヶ月でひっくり返すなど不可能ではありませんか?」
ティナレルザとエメルキアにそう説得された。否定する端緒さえ見いだせない主張である。無理をすれば確実に道半ばにして倒れると思わされた。
「そうだな。解放しました、あとは頑張れ、じゃ無責任だ。まずはランゼの意識を変えるくらいできなければ道筋も作れない」
「そうです」
「ぼく? 変?」
未だ言われたことはする程度の行動様式である。余計なことをするな考えるなと躾けられてきた子どものそれだ。ひどく視野が狭い。
「まずはさ、俺たちと楽しむことから始めようか」
「楽しむ? 子どもできることする?」
「どうしてそうなる」
「小妖精の頃、そうしないとみんな怒られてたの見てたから」
人間の愚劣さに頭を抱えたくなる。それが、より多くの装鎧少女を生みだす方法だとしても、半ば快楽のために利用するのなど論外だ。
「さっそく一つ憶えないと駄目だな、ランゼ。嫌なことはしない。嫌なことは嫌って言う。守れるかな?」
「やってみる。でも、マサキと子どもできることするのは嫌じゃないかも」
「なんで、そこは曲がらない!」
「マサキが優しくするからじゃない」
もっともな指摘をされた。しかし、今ランゼッタに一番必要なのは大切にされることだろう。そこから自己主張が生まれてくるものだ。
「我が儘なくらいでいい」
「そうなの?」
「ロナは我が儘得意だよー」
皆で大笑いする。その様子を見てランゼッタもニヘッと笑った。こんなことのくり返しで少しずつ変わってくれればいい。
「定位置があります」
エメルキアが主張したのは寝る位置だった。
「わたしは右脇を譲りません」
「ロナは胸の上ぇー」
「私はロナの隣でいいわ」
「ぼくは空いたとこ?」
左側に寝転んだランゼッタが腰にしがみついたのを確認して正輝は眠りについた。
◇ ◇ ◇
翌朝、目を覚ましたランゼッタはかなり肌艶が良くなっていた。やはり、継続的な精気摂取は妖精種の健康状態を良くさせる。幸い、正輝のキャパシティを超えるものではないので傍に置いても問題なさそうだ。
「今日は釣りをしようと思う」
彼は宣言する。
「いいかもしれません。燻製のストックがあとわずかです」
「その前に危険の排除をする。さあ、湖水の水トカゲを追い払え」
「ですね」
半ばトラウマになっている。大型ワニサイズの水トカゲがうろうろしているようでは身が入らない。
「いるか? いるな」
「いないと魚も望めませんし」
彼らが湖畔に姿を見せると三角形の波紋が立つ。水を飲みに来た獣と同じと思っているのだろう。エメルキアは十分に引き寄せるつもりのようだ。
「叩きます」
水際に頭を覗かせたところで念動力攻撃する。
「ランゼ、真似できる?」
「できる」
「じゃあ、やってみな」
なにもないところで突如殴られたに等しい水トカゲはもがき、慌てて向きを変えて逃げていく。ランゼッタもいろいろな角度から念動を当てているようだった。
「ワニ……、いや、トカゲトカゲパニック?」
「なんです、それ?」
「なんでもない。語呂悪いし」
モグラ叩きの要領で攻撃された水トカゲたちは数分ともたずに逃げ散っていった。これで漁場が確保される。
「さて、釣りますか」
適当な石は転がってなかったので、木立の腐葉土を掘り返して餌のヒルを捕獲。
「出番だ、ロナ」
「あいあーい」
小妖精がヒルの掛けてある針を遠くに運んでいく。ここまではいつもどおりだったのに闖入者があった。飛んでいるロナタルテを見て、木立の中から飛びトカゲが飛来した。
「おー、ここの森には小妖精がいなかったのか」
「みたいです」
40cmはある飛びトカゲだったのに、いくらも近づかないうちにガツンとやられる。ロナタルテの念動力にやられたのだ。ふらついたかと思うと湖水にぼちゃんと落ちた。そして、速攻で水トカゲに食われている。
「おー、弱肉強食」
「不運でした」
「食べられちゃった」
打ちのめされた水トカゲは決して妖精種には手を出さない。ただし、それ以外には敏感だった。格好の餌になってしまう。
「面白いかも」
「そうか。ランゼにはなにもかも新鮮か」
「うん、見たことなかった。ぼく、ほとんど部屋を出たことなかったし」
(目や髪の色は小妖精時代から固定だって言ってた。ランゼはかなり厳重に閉じ込められていただろうな)
その貴重な妖精種がやっと繁殖形態に成長したところを奪っていったのだ。結構な恨みを買ったかもしれないと思う。
(知ったことか。奪い返しに来たら返り討ちだぜ)
ランゼッタをもう家族の一員と正輝は考えていた。
次回『ランゼの意識改革(2)』 「見事だ。ランゼの初手柄だな」




