破壊者情報
戦公ウフルバ・ジーギラはヘンレケの任務を終えて王都に帰還し、王への報告の翌日となってようやく落ち着いていた。ただし、内々にもう一度王と会って詳しい報告をすることになっていて、現在向かっているところである。
(帰還中に記しておいた報告書は臣公の方々も陛下も目を通しておられるはず。どう申し開きしたものか)
本題であるメタルビーストは排除確認できたし、大量の流体金属も持ち帰った。しかし、指示書にあったマサキと接触に成功していたのに逃がしてしまっている。
(強者だと予想できるだけに叱責を受けるかもしれないな)
覚悟が必要だろう。
降格とまではいかなくとも譴責は受けると思われる。しばらくは重要任務からは外されるかもしれない。
(小競り合い以上の国境紛争がない時期でマシと思おうか。でなければ、最前線送りだったかもしれん)
配下の戦士団を危険にさらすくらいであれば自身が叱られたり嫌味を言われることなど気にならない。腹を決めて臨めば十分。
「ジーギラ戦公、御前に参上つかまつりました」
「来たか、ウフルバ。ごくろうである」
王ポストカ・センテドールは庭園の四阿で待っていた。本当に内々の話となるようだ。それくらいの信任を得ている自負はあるだけに、今回の失敗は不興を買ったかと思う。
「上級レベルの脅威の排除、そなたでなければ適わなかったであろう」
やや嫌味に聞こえる。
「内実に関しましては報告書のとおりであります、陛下。私めは働いておりません」
「そなたらしいのう。黙って自身が討ったと上げておけばいいものを」
「そうはまいりません。事実は事実。それに誰ぞの口から漏れ聞こえてしまうものでしょう」
誤魔化しても無駄だと思っている。
「であるな。しかし、惜しいことをした。それほどのツワモノであれば取りあげてもよかったものを」
「実利的にはそうかもしれません。ですが、扱いには困ったものになろうかと?」
「余をしてもか?」
非常に答えにくい質問をされてしまう。否定すれば嘘になり、肯定すれば器量を問う回答になるからだ。
「報告書に記したマサキなるもの……」
話しかけたところで近侍が耳打ちしている。
「事実か?」
「タンラガより小妖精が飛んでまいりましたので」
「ふむ」
連絡用に用いる小妖精のこと。書簡を持たせて言いつけたとおりに飛べば精気を与えるように躾けてあった。現代では最速の連絡手段である。
「聞け、ウフルガ」
王の顔が曇っている。
「タンラガの教会が何者かによって完全に破壊された。その者は装鎧戦士だったそうだ」
「破壊? ただの教会であれば教団戦士の常駐などはないので妨げるものもなく、難しくはないかと」
「しかしだ。どうやら、苗床にするつもりであった貴重な装鎧少女を送り込んだばかりだと教団は言っておる。それが奪取された模様でな」
そこまで聞いて得心した。
「マサキかもしれませぬ」
「どうしてそう思った?」
「かの戦士は装鎧少女に非常に執着しておりました。寵愛しているといっても過言ではありますまい。常々、装鎧少女の処遇についても言及がありました。奪取に及ぶのもあり得ると愚考いたします」
表現はぼかしたが、マサキは妖精種たちをまるで身内のように扱っていた。明らかにそれらを個として認めている。ならば、その処遇に不満を抱いたとしてもおかしくはない。
「どう見るか、ウフルバ」
ポストカ王も困惑している。
「やはり、我が国の弱体化を図るスパイか? 貴重な装鎧少女を国外流出させるのが目的か? あるいは売り払うか」
「どれも該当するとは。あるとすれば、どこかしかに匿うなどと思われますが」
「背後になんらかの組織が関与しているか?」
そんな気配は感じなかったが今のところ不明だ。
「あるともないとも明言いたしかねます」
「そうか。そなたに追跡を命じるべきであろうか?」
「奪われたのは教団の装鎧少女でありましょう? おそらくは躍起になって教団戦士を差しむけるものと思われます」
匂わせると王は頷いた。今は静観のときと暗示する。
「教団の手前、王国も追及の手を出さねばなるまい。ただし、そなたほどの高位の者を遣わす必要もあるまい。担当の者は追って決めよう」
「御意」
適正な判断だと感じた。
「陛下、まずはマサキの実力のほどをお計りください。そのうえで対応を見極めても遅くはないものかと」
「そなたの進言、誠に貴重であった。メタルビースト討伐、下々にはそなたの功としておく。これよりも働いてくれような?」
「ありがたき光栄にございます」
幾つかの予想を上奏して王との会談を終える。普通に考えれば教団およびその戦士団の組織力の前にマサキは抗しきれないだろう。ならば、捕縛されたとき、如何に彼をコタカッタ王国陣営に加えるかも選択肢の一つ。命を救えば、如何な彼でも王に恭順を誓うかと思われる。
「マサキ、その企みは無謀の一語でしかないぞ。死なずに、また相まみえることを願おうか」
「…………」
待たせてあったエノカリスはあいかわらず無言である。この戦具の中でどんな思考が働いているのか予想だにできない。
ウフルバは装鎧少女を戦公家の車に乗せると自らも乗車した。
次回『ランゼの意識改革(1)』 「楽しむ? 子どもできることする?」




