嘘で固めた(4)
「でも、マサキ、契ってる相手いる。新しい御主人様に使われるとしたら他に役目ない」
「そうじゃない。ランゼはこれからどうしたいか自分で決めていいんだ」
「じゃあ、マサキの子ども産む。優しそうだから、そうだといい」
会話は堂々巡りだ。それで、彼女に刷り込まれた知識の所為だと気づく。
「駄目よ、ランゼ。正妻はルキって決まってるの」
「子ども産む係もいた。だったら、ぼく、捨てられる?」
「ルキも子ども産む係じゃないし君もそうだ。話をややこしくするな、ルーザ」
小妖精は舌を出す。完全にからかわれている。
「じゃあ、ぼくはなに係?」
「それを今から相談しよう」
エメルキアが広げてくれた敷物の上に対面で座る。
「ランゼはこれから自由にしていい。どこに行くのも構わないし、そこでなにをしてもいい。自分で決めていいんだ」
「でも、なにしていいかわからないし、どこになにがあるかも知らない」
「あうち、そうか」
正輝は頭を抱えた。
「それ以前にランゼには行くところもありません。どこにいようが一人でいるかぎりは誰かに捕まってしまうだけです。抵抗することさえ知りません」
「ここでも常識が邪魔をするのか。こいつを壊すのは難儀になりそうだ」
「だから言ったではありませんか」
エメルキアが悟りきったような表情で言う。今さらなにをという視線だった。
「ランゼ、どうやら一緒に行くしかないみたいだぜ? それでいいか?」
「うん」
少女はこっくりと頷く。
「なにか係がないと不安か?」
「あるといいかも」
「じゃ、とりあえずランゼは俺の膝で精気を吸う係だ」
膝に乗せると確認するかのように見あげてきた。口角を上げてみせると安心したように彼の腕を掻き抱いた。精気を吸われる感触がする。
「腹ペコだったんだろ? 限界まで行っとけ」
そんな感じがしていた。
「でも、怒られるし」
「マサキは怒んないよー。みんなで一斉にでも大丈夫だもん」
「ほんと。嘘みたい」
だが、勢いよく吸っても彼が平然としていると知って驚いている。
「遠慮は禁物です。逆に無理してると怒られますよ?」
「じゃあ、吸う係する」
「おう、余らせないようにな」
ランゼッタは夢中になって食事をしていると思ったら、途中で完璧に相好が崩れてうとうとしはじめる。ずっと緊張して疲れていたのだろう。寝落ちしたのを確認して横に寝かせた。
「もしかして、誰かと契る前の装鎧少女となると助けだせばだすほど増えてく?」
「気づいてらっしゃらなかったんですか? 自動的にそうなります」
呆然とする。
「でもさ、これから頑張って王国の拠点とか攻略する気なんだけどさ。そこには、まだ契りを交わしてない装鎧少女が結構いたりする?」
「間違いなく。場所によっては何十人単位でいたりします」
「どする?」
頭が追いつかない。
「大所帯になってしまいますね」
「考えてなかったわけ?」
「全然。どうすればいいと思う、ルーザ?」
考えなしを細めた目で責められている。そう言われても、どうにかなると思っていたのだ。装鎧戦士から解放すれば小妖精になるのだから、全員パムール島に行ってもらえばいいと思い込んでいた。
「うむ、不測の事態だ」
「全然不測じゃありません!」
ティナレルザにツッコまれた。
「そういう子はこれからたくさん見つかると思うんです。なので、匿う拠点のことも考えておいてくださいね? 当面は良い立地を探すところからでしょうか」
「つまり、隠れ里的なものを準備しろってことだよな?」
「それ以外になくない?」
「困ってるマサキ、面白い」
ロナタルテに頬をぺちぺちと叩かれている。他二人は微笑みながらも彼に決断を求めていた。
「わかった。行き先が決まるまでは無闇な拠点攻撃は控えることにする。でも、早急に助けだしたいのもランゼみたいな子なんだよな」
「だったら、隠し拠点の設置も早急にすることね」
「ルーザさん、厳しい」
望みが大きいほど、それに伴う土台作りも大切だと教えられた正輝であった。
◇ ◇ ◇
夕方になり食事をしていたらランゼッタが目覚めた。まだ、自分の置かれた状況がすぐに飲み込めない様子で目をこすっている。
「なにか食べてみる?」
正輝が尋ねると少女は首をかしげる。
「精気?」
「それは食ったばかりだろ? 物を食ってみないかって訊いてる」
「ほんとだ。食べてる」
エメルキアたちもちょっとだけ物を口にしているのを見て不思議そうに言った。もしかしたら、経験がないのかもしれない。
「ちょっとずつだな。ルキ、見てやってくれる?」
「はい」
同族が加減するのが一番だ。
「最初は野草からがいいでしょう。でも、お肉も少しは必要ですし」
「美味しい。こんなの食べたことなかった」
「ええ、施設で出るのはスープだけですものね」
聞けば、ランゼッタが装鎧少女に形態変化したのはごく最近なのだという。瞳の色が噂になって騒ぎになる前に繁殖にまわされると決まってタンラガに送られたらしい。
「じゃあ、人間に怖いことされる前だった?」
「嫌悪を抱く前に助けられたのは僥幸です」
まずは気持ちが悪いだろうと湖水で身体を洗ってもらう。エメルキアにお願いして彼は待っていることにする。
「きれいになったらマサキと子ども産むことする?」
「しません!」
なぜかこだわりのあるランゼッタの言動に振りまわされる正輝だった。
次回『破壊者情報』 「黙って自身が討ったと上げておけばいいものを」




