嘘で固めた(3)
司祭の居住スペースだった部分は雑に吹き飛ばして瓦礫に変える。降ってきた尖塔のシンボルも丁寧に踏み潰して粉々にした。そして、奥まった最後の部屋のドアに手を掛けると鍵ごと引きちぎった。
「うわお!」
溢れだしてきたのは十人以上の小妖精である。外の騒ぎにパニックになっていた彼女たちを慌てて受けとめた。
「逃げるな逃げるな。頼むから落ち着いてくれ。俺は君たちになにもしない」
「ほえー?」
「話し掛けてきたよ?」
口々に驚いている。すぐにロナタルテとティナレルザがやってきて取りまとめてくれた。同種の姿に落ち着きを取りもどす。
「みんな、おいで。どこでもいいから触って」
急ぎ集める。
「ふわー!」
「すごいかも!」
「気にしないでいいから残らずこぼさず吸い取ってくれ。満腹になったら話をする」
まとわりついた小妖精たちに余さず精気を分けていく。喜びに小躍りするフィギアサイズの子たちは薄汚れた服をまとっていた。
「失敗したな。ちゃんと準備をしておけばよかった」
(ですが、キリがありませんよ?)
「えー、声する。どういうこと?」
「ああ、俺と融合してる装鎧少女の声さ。安心して」
事情説明して、全員が満腹になったか確認する。そのあとにパムール島へ飛んで行くよう教えた。満腹でなら届くはず。着いたら先人たちに暮らし方を教えてもらうよう言い含めた。
「自由にしていいの?」
「いいさ。本来、君たちは自由に生きて当たり前なんだ」
「ありがと」
「ありがと。でも、あの子は?」
一人の小妖精が指差す。そこにはまるで棺桶のような箱が置かれていた。正輝はぎょっとする。
「もしかして、これが司祭の言っていた装鎧少女?」
(おそらくそうだと思われます)
「なんつー扱いを。いや、今に始まったことじゃないにしてもさ」
箱をこじ開ける。中には怯えてうずくまった少女が一人。声を掛けるのも躊躇われるほど震えてしまっている。
「あの、さ?」
恐る恐る近づく。
「なにもしないから顔を上げて」
震えが止まらないままこっそりと見てくる。変身フォームの仮面を見て「ひ!」と、また顔を伏せてしまった。とはいえ、この場で不用意に変身は解けない。
「俺は正輝。お名前を教えてくれる?」
声だけできるだけ優しくする。
「……ランゼッタ」
「そうか、ランゼッタ。助けに来たよ。俺と一緒に行かないかい?」
「あなたがぼくの新しい御主人様?」
やっと横顔が垣間見える。
艶の少なめのレモンイエローの髪は傷んでぱさついている。震えるまつげの下から鮮やかな緑の瞳が覗いていた。
(貴重なって言ってたのはこれの所為か)
彼は納得した。
「ルーザ、世話を頼めるかな?」
「私? いいけど」
そう言うと、ランゼッタは目を丸くして見つめてきた。
「ぼくたちに頼み事? この人間、変」
「まあ、マサキは変よね。でも、とっても頼りになるから信じてみない?」
「はいはい、変で結構」
若干傷つく。
「わかった」
「私はティナレルザ。ルーザって呼ばれてる。この子はロナタルテ。ロナよ」
「ロナー!」
元気に挨拶を交わしている。この調子なら大丈夫かと思って連れだす。話に聞いた育成室も木っ端微塵に吹き飛ばして振り返った。
「このとおり、君たちを拘束していた場所はもうない。嫌なことをしてきた司祭はあそこに転がしてある。さあ、君たちは自由だ。島まで頑張ってくれるかい?」
「頑張る!」
「みんなで飛んでいってみる」
「じゃあ、行って。足りないって思う子は最後にひと吸いして行くといい」
屈託のない小妖精たちは近づいてくるとペタペタと触れてくる。そして、一人ひとりが律儀に頬にキスして飛びたっていった。
「よし、上出来だ。しかし、ランゼッタは飛んでいくわけに行かないよな? さて、どうしたもんか」
(連れていくしかありませんけど)
「そっか。ちょっと我慢してくれる?」
やはり粗末な服を着せられている妖精種は、今度は真っ直ぐと彼を見あげてきていた。しゃがんで目の高さを合わせる。
「ぼくにお願いするとか変。一緒に行けばいいの?」
「そうだな。とりあえず、落ち着けるとこまで一緒に行って相談しようか」
「うん」
少しながらやっと笑顔がこぼれてきた。両脇に手を差し入れて持ちあげると羽根のように軽い。バイクまで抱えていってシートに乗せた。
「走ると前から風が来るから気をつけて。苦しかったらスピードを緩めるからさ」
「この乗り物も変」
「変はやめて。格好いいと思ってるんだから」
情けない声になると、ランゼッタはニパリと笑った。本当に純粋な子供の笑顔だった。彼は嬉しくなる。
(助けられてよかった)
一つでも多くの笑顔に出会いたい。
タンラガの街には目もくれず、街道を外れていい場所を探す。あいにくと平原が続く地方で隠れ場所に困った。川に当たって遡っていくと湖水に突き当たる。近くに人の集落はないし、湖岸には木立が密集している場所もある。
「ここに隠れるか」
「隠れないと駄目?」
「なにせ、暴れちゃったもんだからな、ランゼ。そう呼んでいいか?」
「うん」
人目のないところまで行って解除する。ようやくランゼッタに人間の顔を見せられて安心させられるかと思ったのに彼女は首をかしげている。
「ぼくはマサキの子どもを産む係?」
「なんでそうなる!」
正輝は天を仰いだ。
次回『嘘で固めた(4)』 「じゃあ、ぼくはなに係?」




