嘘で固めた(2)
正輝がタンラガの街の教会を調べることにしたのは、ティナレルザにデレキセント教団の話を聞いたからである。
「教団はいろんな場所で妖精種を育ててるの」
「育てる? 捕らえてるの間違いだろ?」
表現の問題だ。
「そうだけども、話の腰を折らないで」
「ごめん」
「マサキが私たちの視点で考えてくれてるのは嬉しいのよ」
小妖精は彼の頬に身を寄せる。
「ともかく、各所のめぼしい教会には妖精種の育成室があるわ。そこで小妖精や装鎧少女を育成してどんな変化をするのか実験してるの」
「実験。やっぱりそうなるか」
「気候や風土はもちろん、繁殖に用いる人の栄養状態とか食事の傾向とか。様々な条件を試して、優秀な妖精種が生まれる環境を調べてる」
彼が訊いたのは妖精種が主に捕らえられている場所であって実験のことではなかった。知らない知識だ。ティナレルザが気を利かせて理由から説明してくれているだけ。
「それで結果が出るのか?」
純粋な疑問として尋ねると小妖精は首を振った。
「全ては偶然。優秀な個体から優秀な子孫が生まれるのは実証されてるわ。それは事実なの」
「ああ、優性の法則だな」
「でも、普通の装鎧少女から優秀な個体が生まれるか否かは本当に偶然でしかないわ」
彼女は言いきった。
「だけど、そこに法則性があるんじゃないかと教団は思ってるのか」
「もしかしたら、思いたいのかもしれない。そうしないと、装鎧少女先進国家の資金力に対抗できないから」
「資金力ね。そういうことか」
各王国が装鎧少女のメカニズムを把握しているわけではない。ただ、量産の体制は整備できているという。
「デレキセント教団は独自に教会戦士団を保持してるわ。建前は教義に逆らって教団に反旗をひるがえす者に対する自衛手段だけど、現実には教義に従わない者の弾圧や勢力拡大に用いられてる」
典型的な宗教武力である。
「だけど、整備するには資金力が必要。それが王国に劣るって感じだな」
「そのとおり。物量で劣るところを質で補填したい。資金力では負けるから組織力で対抗する。ってな感じね」
「そのための設備が各地の教会にあって妖精種が捕らわれてる、と」
ようやく結論に達した。
それで近場のタンラガの街の教会を調べに来たのである。外観を調査し、エメルキアに育成室が確実に存在するのも確認済み。
「なぜ私の教会を破壊する!」
司祭は取り乱しまくっている。
「壊されたくなきゃ、捕まえてる妖精種をすべて解放しろ。自分からしないなら教会ごと破壊して助けだすだけだぞ?」
「どうしてお前に強制されなければならない!」
「俺が妖精種の解放者だからさ」
そうしているうちに恐怖した信者たちは教会から逃げだしている。彼らがどうなろうと知ったことではないが、わざわざ傷つけるつもりもないので時間を与えた。
「我がデレキセント教団は神に賜った装鎧少女を育成、管理する義務がある。それに従っているだけなのに破壊するとはなにごとか!」
正輝の説明は右から左らしい。
「勘違いもはなはだしい。あんたにそんな権利はない。ただ、抵抗できない妖精種を閉じ込めて苦しめてるんだって気づけ」
「そんなわけがない」
「じゃあ、あんたは妖精種の気持ちがわかるのかよ? わかるんなら、俺の家族がなにを考えてるのか言ってみろ」
ロナタルテたちを指差す。
「お前の暴挙を憂いている」
「違うな。俺があんまり雑な対応をするから呆れてる」
「見事に言い当てないでよ」
ティナレルザは吹いている。ロナタルテもお腹を抱えてケタケタと笑っていた。エメルキアからは露骨に呆れの意識が伝わってきている。
「こんなことをして許されると思ってるのか!」
自身の常識をことごとく否定された司祭は髪を掻きむしって吠える。
「別に許してくれとは言ってない。大人しく妖精種を解放するなら壊さないし、あんたを痛めつけもしない。それと、二度とこんなことをしないってあんたの神様に誓うならな」
「できるか!」
「じゃ、壊すだけだ。そのほうが手っ取り早くていい」
約束させたところで守りはすまい。司祭など確信犯の中の確信犯であるからだ。議論の中身などすでに頭の中から飛んでいるだろう。教会そのものが無くなったほうが育成の体制を再建するのに時間が掛かって彼には都合がいい。
「やめろ!」
信者の集まっていた宣教室から念動力で破壊していく。
「やなこった。どうせもう使えそうにないからいいじゃん」
「おお、神よ。この者に直ちに天罰を!」
「ふふん、神様とやらが喧嘩売ってくるなら買うぜ」
「この罰当たりめ!」
もちろん、天罰など下らない。彼らの幻想でしかないのだから。罰が当たるならとうに当たっているだろう。
「これ以上やめてくれ!」
「っと、あれだったな」
風通しが良くなった宣教室を越えて司祭の生活スペースに踏み入っていく。最奥部に育成室があるはずだった。
「よせ! そこには届いたばかりの貴重な苗床が!」
「苗床だって? 聞き捨てならないことを」
名称から想像できる。
「気が変わった。どうしても一発喰らいたいらしいな。希望を叶えてやる」
「ひ!」
「ほらよ」
本気ではない。軽く小突いただけ。それでも司祭は瓦礫の山まで飛んでいって派手に埃を舞い散らせた。
(苗床って、とんでもないネーミングだぜ)
正輝はパワーみなぎる手を教会最奥部へと伸ばした。
次回『嘘で固めた(3)』 「今に始まったことじゃないにしてもさ」




