嘘で固めた(1)
その建物はやや古ぼけているものの白壁に塗られ、屹然と建っている。一番高い尖塔構造の先には下向き矢印の先に横棒を備えたシンボルが掲げられていた。開かれた扉を、少女を伴った黒髪黒瞳の男がくぐってきた。
「このように神は人を作りたもうた」
教台を前に司祭は経典を語っている。
「苦難も数あれど、神は人を見捨てたりはしない。獣と違い人は知恵を賜り、そして戦具を賜った。神は人を世界の導き手として作りだしたのだ。ゆえに、我らは敬虔な下僕として神のご意思に従って繁栄のための努力を怠ってはならない」
男は末席に腰掛け、司祭の言葉に耳を傾けていた。その口元には皮肉な笑いが張りついている。一段落したところで男は挙手した。
「司祭様、どうしても一つわからないことがあるのですが、お教えいただけますでしょうか?」
黒い瞳で見つめてくる。
「信者たるもの疑問を抱えていてはいけないな。なんでもお聞きなさい」
「神が戦具を賜ったとおっしゃられましたが、その戦具とは装鎧少女のことでありましょうか?」
「うむ、そのとおりである。人の天敵たるメタルビーストの脅威は滅亡を予感させるほどのものであった。しかし、神は人が絶えるのを良しとせず、装鎧少女を賜われた。人は神のご意思に従い、メタルビーストを駆逐し、安寧の世を育むよう定められている」
司祭は疑問を解いたと思ったが男は納得しない。もう一度手を挙げると次の疑問を投げ掛けてきた。
「だとすると、装鎧少女は人に与えられた力だから人間の似姿をしているのでしょうか?」
「よくわかっているな。そのとおりである」
鷹揚に頷いて返す。
「ですが、司祭様は妖精種が人間以外の姿になることも可能なのはご存知ですよね?」
「む? 装鎧戦士のことか? あれは人の力になるべく変化したもので……」
「そうじゃないです。妖精種は別に人でなくとも他の動物の姿にもなるという記録があるはず。まさか、ご存知ではないとでも?」
それは司祭の知識にない内容だった。デレキセント教団内でさほど地位の高くない地方司祭の彼に、古い資料に触れる機会はない。しかし、そんな事実はないはずである。
「誤解だな。そんな資料は存在しない」
言いきるが男は反論してくる。
「いえ、そんなことはないですよ。知人に古い歴史に詳しい方がいて、その方に教わりました。妖精種は古来より存在し、様々な動物とも接することで命脈を保ってきたと」
「あり得ん話だ」
「ですが、司祭様。俺の住んでたところでは、妖精種は獣やトカゲ類、果ては木々などの植物からでも精気を吸収し生活しています。まさか、それもご存知じゃないとか言いませんよね?」
無知を嘲られていると感じた。ざわめきはじめる信者たちを前に男を睨みつける。しかし、彼は堪えるふうもなかった。
「嘘をおっしゃるものではありません。神罰が下りますよ? 装鎧少女は人とともにあるよう人の似姿を持って神に生みだされたのです。人からしか精気を受け取ることができず、絶えれば壊れてしまいます」
司祭にとって当たり前のこと。
「嘘ですね。聞いた話を除けば、すべて俺がこの目で見てきた話です。装鎧少女も人無しで生きていられるのです。いえ、それが正常なんです。だって、彼女たちは人の有史以前から生きていたのだから」
「おだまりなさい! そんな嘘を並べるのでしたら出ていきなさい!」
「逆ギレですか? みっともないですよ。俺の言ってることが嘘だというのなら証明してください」
聞き分けない。司祭は教台から降りていくと、男の前に立って教会の外を指さした。
「異端の徒よ。そなたには神罰が下るでしょう。でなくとも、我らが教団戦士が自ら神罰を与えるかもしれません」
強硬に言いつのる。
「困ったな。どうして俺の疑問に誠実に答えてくださらないんです? 装鎧少女がもし戦具として賜われたのだとしたら、小妖精の形態を経る必要なんてないじゃないですか。これが人の戦具になりますか?」
「な!」
「こんな小さくてどうやって人と融合するっていうんです?」
黒髪の男の胸元から二体の小妖精が飛びだしてきた。飛行翅を広げると舞いおどり、男の両肩に留まった。
「これが本来の形態なんですよ。だから人ほどの大きさを必要としない」
男は頬ずりする二体の髪を撫でる。
「装鎧少女は繁殖形態、つまり人と共生するために選んだだけの形態です。例えば、花と蜜ヒルの関係と一緒です。花は蜜ヒルに受粉を手伝ってもらうために目立つ形に進化し蜜を生みだす。蜜ヒルは花に合わせて蜜だけで生活できるよう消化器官を進化させた。これが共生っていうものです。まだ、おわかりにならないので?」
「わけのわからないことを並べたてるのはおやめなさいと言っています!」
「やれやれ、司祭様は考える力も放棄してしまったのですね? それだと、この教会は嘘で塗り固めただけの代物だな。存在する価値もない。ビルドイン!」
光が瞬き、男は装鎧戦士へと変わる。見慣れないフォームの戦士は天井に向けて手を差しだした。
「なくなってしまえ」
「なにをするー!」
教会の屋根の一部が吹き飛んで、司祭は悲鳴をあげた。
次回『嘘で固めた(2)』 「マサキが私たちの視点で考えてくれてるのは嬉しいのよ」




