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宝石のような時間をどうぞ  作者: みつまめ つぼみ
第5章:スクープ!

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45.

 早苗(さなえ)が三井さんの対応に向かい、席に案内する。


 おそるおそる香織さんの様子をに見ると、あっけに取られてるみたいだった。


 香織さんがぽつりとつぶやく。


「……カメラを壊されたのが惜しいわね」


 やっぱりたくましいな、この人!


 私は思わず尋ねてしまう。


「怖くないんですか? 香織さんは」


 香織さんは三井さんに目が釘付けになったまま応える。


「私、『危ない場所』はなんとなく肌で分かるのよ。

 ここはそんな感じがしないから、怖がる必要はないわね」


 へぇ、便利な感覚を持ってるんだな。


 私は香織さんが三井さんに気を取られてるうちに、こっそりカウンターまで戻った。





****


 秀一さんがニヤリと笑いながら私に告げる。


「お疲れ。人間相手の接客だが、随分疲れたみたいだな」


「そんな事言われても、人間の客さんは初めてですから」


 秀一さんはカウンターの中にいるマスターに尋ねる。


「どうするんだ? 辰巳(たつみ)。

 このままだと、少し面倒なことになるぞ」


 マスターが小さく息をついて応える。


「そうだな、だが彼女がこの店に辿り着くことは、二度とあるまい。

 オカルト雑誌に記事を売ろうが、大きなことにはならないだろう」


 私はきょとんとしてマスターに尋ねる。


「そうなの? どうしてそんなことわかるの?」


 マスターが私に優しい顔で微笑んだ。


「この店が彼女を迎え入れることは、もうないからね。

 それに自力でこの店に辿り着くには、高い巫(かんなぎ)の力が必要だし。

 記事を見た人間がここに辿り着くことはないはずだよ」


「香織さんの記憶を消してしまうことはできないの?」


 マスターが眉をひそめて困っていた。


「彼女は孝弘よりも巫力(ふりょく)が強い。

 完全に記憶を消すことは難しいかな」


 そういうものなのか。


 桜ちゃんが、香織さんの方を見ながら告げる。


「辰巳(たつみ)、どうする? 必要なら僕があの女を始末しちゃうけど」


「やめておけ。無駄に騒ぎを大きくするな」


「はーい」


 桜ちゃんはコーヒーを口にしてから、マスターに向き直る。


「それよりさ、今夜は久しぶりに一緒にお風呂に入ろうよ! いいでしょ?!」


 歩美(あゆみ)があわてたように声を上げる。


「あなた! なんて慎みのないこと考えてるのよ?!

 見たところ、私たちと変わらない年齢じゃないの?!

 ――そりゃあ、神様なんだろうけど!」


 桜ちゃんがにやりと笑って応える。


「僕は昔から、そうやって辰巳(たつみ)のそばにいたからね。

 君たち人間にどうこう言われる仲じゃないんだよ」


 昔から、マスターとお風呂に入ってたって言った?!


 思わず赤面しながら、マスターを見た。


 マスターは小さく息をついて告げる。


「仕方ない奴だな、今夜だけだぞ?

 明日には自分の社(やしろ)に帰れ」


「えー! つれない事言わないでよ!

 僕と辰巳(たつみ)の仲じゃんかー!」


 ――マスター、桜ちゃんとお風呂に入るの?!


 私は胸にもやもやとしたものを抱えながら、マスターに告げる。


「マスター、本気なの?

 桜ちゃんは女の子だよ?

 本当に一緒にお風呂に入るの?」


 秀一さんがきょとんとしたあと、楽しそうに笑いだした。


「ハハハ! そうか、そうだなそう見えるよな!

 ――安心しろ朝陽(あさひ)。

 桜は男神、男性だ」


「――は?!」


 私と歩美(あゆみ)、早苗(さなえ)の声がハモっていた。





****


 私はまじまじと桜ちゃんを見つめてしまった。


 可愛らしい顔つき、きゃしゃな体、見えてる部位は、どう見ても女の子だ。


「これで女子じゃなく、男子だっていうの?」


 噂に聞く、『男の娘』って奴?


 マスターがふぅ、とため息をついた。


「桜は日本に来てから、女神として祀られて来た。

 その影響だろうな」


 桜ちゃんが頬を膨らませながら私に告げる。


「なんだよー、男が可愛くちゃいけないっていうの?!」


「いや、そんなことを言うつもりは……。

 初めてそういう人を見たから、びっくりしただけだよ」


 でもそうか、それなら一緒にお風呂に入っても、問題ないな。


 胸のもやもやが消えていって、私は不思議と安心した気分になっていた。


 早苗(さなえ)が桜ちゃんに告げる。


「日本に来て変わったってこと?」


「そうだよ。僕は中国にいた頃、もう少し男らしかったんだ。

 でも僕は今の僕も気に入ってるから、何の問題もないけどね」


 歩美(あゆみ)が三井さんの追加オーダーの対応をする。


 私はカウンターの中で洗い物をしていた。


 しばらくして三井さんがお会計を済ませてお店を出たあと、歩美(あゆみ)が告げる。


「……香織さん、まだ残ってるわよ?」


 カウンターの中から覗くと、香織さんは店内を見回しながらメモを取っていた。


 早苗(さなえ)が小さく息をつく。


「コーヒー一杯でいつまで粘るんだろう」


 私はマスターを横目で見ながら告げる。


「ねぇ、追加オーダーを取ってもいいんじゃない?」


 マスターがため息交じりで応える。


「……そうだね。朝陽(あさひ)、ちょっと行ってきてくれるかな」


「はーい」


 私は洗い物を終えると、手を拭いてから香織さんのテーブルに向かった。





****


 私は営業スマイルで尋ねる。


「香織さん、コーヒー一杯で居座られても困ります。

 追加オーダーがあれば承りますけど」


 彼女はメモから目を上げて、私に微笑んだ。


「あらそう? じゃあイチゴのタルトをお願い。

 それとブレンドのお替りね」


「かしこまりました」


 私は伝票に追記してからカウンターに告げる。


「マスター! ブレンドとイチゴのタルト、お願いしまーす!」


 カウンターに戻ろうとした私の手を、香織さんが掴んだ。


「ちょっと待って、あなたのことをもう少し教えてくれない?」


「え、それはちょっと、困るって言うか……」


 香織さんがニコリと微笑んだ。


「あらいいじゃない、ちょっとぐらい。

 あなたいくつなの?」


「えー……十五歳ですけど」


「他の子たちは?」


「クラスメートです。でも、それが何か?」


「ううん、大したことじゃないわ。

 他の子たちも求人広告を見てバイトをしてるの?」


 私は必死に後ずさりながら応える。


「いえ、私がバイトに誘ったんですけど……」


 香織さんがパッと私の手を放して微笑んだ。


「そう、それがわかればいいのよ。ありがとう」



 そのあと、香織さんはイチゴのタルトを食べてコーヒーを飲み干すと席を立った。


「ごちそうさま、おあいそよろしく」


 『おあいそ』?


 きょとんとしていると、秀一さんが私に告げる。


「『会計してくれ』ってことさ。

 飲食業やるなら、覚えておけ」


 飲食業用語なのか!


「はーい」


 香織さんがレジに行き、マスターがレジカウンターに入る。


 ポンポンとキーを叩いてマスターが告げる。


「二千二百円になります」


「キャッシュレス決済はできないの?」


「当店は現金のみです」


 香織さんが小さく息をついた。


「遅れてるわね――はい、これでいい?」


「二千二百円、丁度お預かりします」


 香織さんが背中を向けながら告げる。


「また来るわね」


 そう言い残して、ドアベルを鳴らしながら香織さんは店を出ていった。





****


 午後八時になり、マスターが「みんな、もう上がって」と告げた。


 私たちは「はーい」と応えてスタッフルームに入る。



 学生服に着替えながら、昼間の香織さんの話題になる。


「凄い人だったね。ジャーナリストとか言ってたけど、初めて見ちゃった」


 テレビの中でしか、見たことがない人種だ。


 歩美(あゆみ)が不快そうに告げる。


「図々しい人だったわね。

 『また来る』って言ってたけど、大丈夫かしら」


 早苗(さなえ)はのんきに告げる。


「マスターが『もう辿り着けない』って言ってたし。大丈夫じゃない?」



 着替え終わってスタッフルームを出ると、着流し姿のマスターに抱き着いている桜ちゃんが目に飛び込んできた。


「なんで抱き着いてるの……」


 隣の秀一さんが楽し気に笑った。


「ハハハ! 昔から桜は、辰巳(たつみ)べったりだったからな。

 元々、桜は辰巳(たつみ)と一緒に語られることが多い神だったんだ」


「あ、やっぱり神様なんだ?」


 マスターが困ったような笑顔で告げる。


「今では神というより、『あやかし』に近い存在だけどね。

 元々が中途半端な存在なんだよ、桜は」


 へぇ、なんだか難しい事情がありそうだ。


 マスターが私の背を押して告げる。


「さぁ、駅まで送るよ。行こうか」


 私たちはうなずいて、『カフェ・ド・ビジュー・セレニテ』をあとにした。


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