42.
四日目は、リムジンで街に繰り出してお土産屋を巡った。
とはいえ、お母さんからもらったお小遣いは少ない。
どれを買うか悩みながら、みんなであちこちの店を巡った。
お昼に入った喫茶店で、私はどさりと座ってテーブルに潰れた。
「きまらな~~~い!」
早苗が歩美とひそひそと耳打ちで相談していた。
孝弘さんがメニューを開きながら告げる。
「もう素直に、小金井さんとペアネックレスにでもすりゃーいーじゃねーか」
「恋人同士か?!」
「恋人同士だろ? 『親公認』の」
それはそうなんだけどね?!
歩美が孝弘さんにひそひそと耳打ちをした。
「……なるほど、任せてくれ。
じゃあ飯を食ったら、小金井さんと朝陽は別行動な。
俺たち三人は、行くところがあるから」
「なにそれ?! 何を企んでるの?!」
三人がニンマリと微笑んで「秘密~~~!」と応えた。
そばで待っている店員さんが、おずおずと告げる。
「お決まりでしょうか」
孝弘さんが「ああ、じゃあこれを五つ」とランチメニューを指さした。
店員さんが立ち去ってから、マスターが小さく息をついた。
「僕をからかうのは良いけど、朝陽をからかうのはやめてあげて」
――やっぱり呼び捨て?!
早苗がニンマリとマスターに告げる。
「とうとう呼び捨てする気になったの?」
マスターがニコリと微笑んだ。
「まぁ、僕らは恋人同士ってことになってるし。
もちろん、朝陽が嫌なら元に戻すけど」
私は慌てて首を横に振った。
「嫌じゃない! 大丈夫! そのままで!」
口に出してから、早苗と歩美、孝弘さんの視線に気が付いた。
ニマニマしている三人の視線を、メニューに隠れてやり過ごした。
****
食後、マスターと二人でショッピングエリアを歩いて行く。
人混みが多くて、肩がぶつかりよろけた私をマスターが支えてくれた。
「――と、大丈夫? 朝陽」
「あ、だ、大丈夫!」
離れようとすると、マスターが私の手を握った。
「ほら、離れてると危ないよ。
もっとくっついて歩こう」
「……はい」
私はのぼせながら、うつむいて歩いていた。
だって、こんな大勢の前で手をつなぐとか、それこそ恋人同士じゃん。
マスターが私に振り返って告げる。
「このお店、アクセサリーショップだって。
見ていこうか」
「え?! でもそんなに高い物は――」
「僕が買いたいんだ。
一緒に見ていこう」
おずおずとうなずき、一緒にショップに入る。
中にはいろんなアクセサリーがあったけど……。
「観光地価格、高いよ……」
「アハハ、無理はしないで」
マスターはネックレスを見つめていた。
……でもそれって。
「ねぇマスター、それペアアクセサリーだよ?」
「そうだね。だから見てるんだ」
――どういう意味で?!
戸惑う私の前で、マスターは民芸細工のペアネックレスを一組買っていた。
「あ、包装は要りません。つけていきますから」
――この上、さらなる羞恥プレイを?!
「さぁ朝陽、こっち向いて」
私は涙目になりながら恥ずかしさに耐え、ネックレスを首に受け取った。
マスターは自分でネックスレスを首につけて、大変ご満悦だ。
「行こうか、朝陽」
「煮るなり焼くなり、好きにして……」
手を握りながら、人混みを抜ける。
――もう、心臓がうるさくて仕方がない!
「マ、マスター! そろそろ手を――」
「あ、朝陽。あっちに自販機がある。
飲み物でも買っていこう」
今、私の言葉を遮ったな?!
マスターに手を握られたまま、自販機前に移動して、私はリンゴジュースを買ってもらった。
ようやく手を放してもらった私は、リンゴジュースを一気に飲み干して息をついた。
「――ぷはぁ! もう、手をつなぐのは許してよ」
「そうかい? じゃあ――」
ぐっと肩を抱かれ、私とマスターの体の距離がゼロになる。
「――?!」
混乱する私の肩を抱いたまま、マスターは孝弘さんたちとの待ち合わせ場所へと向かった。
私は恥ずかしくてうつむいたまま、黙って足を動かした。
****
孝弘さんと早苗、歩美はもう集合場所で待っていた。
「お、きたなご両人」
孝弘さんの言葉に、マスターが応える。
「悪い孝弘、待ったか?」
「いや、俺たちもさっき来たばかりだ。
それより――はいよ、小金井さん」
孝弘さんがマスターに手渡したのは、民芸細工のフォトフレームだった。
マスターはそれを見て、体を震わせていた。
「朝陽にもあるわよ?」
歩美が私にもフォトフレームを手渡してくる。
どれどれ、どんな写真を入れてるんだ、ろ……。
私の目に飛び込んできたのは、フォトフレームでしっかり固定された『酔ったマスターが私を抱きしめて眠る写真』だった。
「こういうものを入れる物じゃないでしょー?!」
孝弘さんがニヤリと笑った。
「そうか? 今回で一番記憶に残った出来事だろ?
――小金井さん。もうそれ、店に飾っちまえよ」
マスターは黙ってうなずいた――うなずくな!
「ちょっと! そんなことしたらお客さん全員にからかわれるじゃない!」
早苗が私の胸元を指さして告げる。
「なに言ってんのよ。
あからさまなペアネックレスつけておいて」
「これは……もーやだー! おうち帰るー!」
歩美がクスクスと笑いながら告げる。
「はいはい、焦らなくても明日帰るわよ」
結局、リムジンに乗るまで私の羞恥プレイは続いた。
****
お母さんたちと合流――したときも、ペアネックレスはからかわれた。
くっ! あと一日の我慢だ、私!
夕食は近くの料亭に行き、懐石料理を食べた。
大人たちは街に残り、最後に飲んで帰るらしい。
孝弘さんは私たちと一緒に、コテージに戻った。
リムジンを降りた孝弘さんに、私は尋ねる。
「お酒を飲まなくて良かったんですか?」
「今の小金井さんじゃ心配だからな。
せめて俺のフォローは必要だろ?」
マスターは私にべったりとくっつき、今も肩を抱いてゼロ距離を堪能していた。
「……マスター、どうしちゃったの?」
孝弘さんが楽しそうに笑った。
「ハハハ! 本音を隠さなくなっただけだろう、たぶん!
本当はもっと前から、そうやってくっつきたかったのさ」
「ちょっと……これ以上の羞恥プレイは許して……」
私は両手で顔を覆ってしまっていた。
そりゃ、『マスターの特別になりたいのかも』って思ったことはあったけど!
いきなりアクセル全開で距離を詰められても、どうしていいかわからないよ?!
リビングのソファに並んで座ってる間も、私は解放されなかった。
孝弘さんがマスターに告げる。
「早苗と歩美たちの温泉、今夜は俺が同伴するから。
小金井さんたちはゆっくりしてろよ」
マスターは黙ってうなずいた。
下から見上げると、とんでもなく幸せそうに微笑んでるんだけど?!
こんなとろけた顔、いつものマスターじゃないよ?!
孝弘さんが早苗たちを連れて温泉に向かった。
そして私は気が付いた。
――今、このコテージに二人きりじゃないの?!




