↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宝石のような時間をどうぞ  作者: みつまめ つぼみ
第4章:長期休暇旅行

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/60

41.

 コテージに帰った私は、リビングのソファに倒れ込んだ。


「……ご飯の味がしなかった」


「ごめん! 朝陽(あさひ)!

 お母さん、私のスマホのロック外しちゃったの!」


 私はよろよろと起き上がって早苗(さなえ)に応える。


「隠す努力はしてくれたんでしょ?

 それならもういいよ。しょうがないし」


 マスターも眉をひそめて困ってるみたいだった。


「どう言えば理解してくれるだろう」


 歩美(あゆみ)が首を横に振っていた。


「秀一さんが見えない人には、どう見てもカップルだったはずよ。

 その上に写真付きだもの。弁解の余地はないわ」


「そうか……」


 インターホンが鳴って、マスターがエントランスに向かう。


 少しして、マスターと一緒に入ってきたのは――案の定、お母さんだった。


 浜崎のお爺さんと秘書さんも同伴してるみたいだ。


「すまんが、早苗(さなえ)さんと歩美(あゆみ)さん、それに孝弘は部屋に戻っていてくれ」


 みんなはうなずいて部屋に入っていった。



 ダイニングキッチンで私とマスター、お母さんと浜崎のお爺さん、秘書さんがテーブルに着く。


 浜崎のお爺さんが口を開く。


「事情は伺った。

 今回のことを、辰巳(たつみ)はどう考えているんだ?」


 マスターはテーブルを見つめながら応える。


「……やはり、言い訳のしようがないかと」


「辰巳(たつみ)は喫茶店のマスターとして、バイトの朝陽(あさひ)さんを預かる身だ。

 それもきちんとわかっているね?」


「はい」


「では、とるべき道もわかっているね?」


「はい。朝陽(あさひ)さんとは、清く正しい交際を続けられたらと」


 お母さんが頷いて告げる。


「小金井(こがねい)さんの口からそれが聞けて、ひとまず安心しました。

 ではこれからも、朝陽(あさひ)を預けても大丈夫だと、信頼してもいいと言えますか?」


 マスターがお母さんの目を見てうなずいた。


「それにかけては、神に誓って」


 浜崎のお爺さんが小さく息をついた。


「伊勢佐木(いせざき)さん、何かあれば儂が全責任を取る。

 だからここは、儂に免じて辰巳(たつみ)を信じてやって欲しい」


 お母さんが浜崎のお爺さんを見つめた。


「それは、浜崎さんの力で『きちんと小金井(こがねい)さんに責任を取らせる』と受け取って構いませんか」


「ああ、その解釈であってるよ。

 心配はいらないと思うが、万が一の時でも安心して欲しい」


 お母さんが深くため息をついた。


「――朝陽(あさひ)、恋愛が楽しいのもわかるけど、勉強もおろそかにしないでね」


 私はうなだれて「はい……」と応えた。


 浜崎のお爺さんが立ち上がって告げる。


「もうこれで充分だろう。

 本人たちもよく理解している。

 あとは、辰巳(たつみ)と朝陽(あさひ)さんの問題だ」


 お母さんもうなずいて立ち上がった。


 マスターに見送られ、お母さんたちは自分のコテージへ帰っていった。





****


 ドゴン! とすごい音がしてコテージが揺れた。


 パラパラと天井から何かが落ちてくる音が聞こえる。


 柱に拳を叩きつけた姿勢のまま、マスターが歯ぎしりをしていた。


「――秀一め、すべて計算ずくか!」


「えっ?! これ、秀一さんの仕業なの?!」


 部屋から飛び出てきた孝弘さんが、マスターを見て驚いていた。


 体中から怒りを迸らせるマスターは、まだ怒りが収まらないみたいだ。


 孝弘さんがため息をついて告げる。


「なんだ、やっぱり葛城さんのしわざだったのか。

 九頭竜神社の神様は、縁結びの神様でもあるからな。

 トリックスターかと思いきや、小金井(こがねい)さんと朝陽(あさひ)をくっつけに来てたのか」


 私は小首をかしげて孝弘さんに尋ねる。


「なーに? そのトリックスターって」


「良くも悪くも場をかき乱す神様のことだよ。

 神話じゃ珍しくない存在だ。北欧神話のロキとかな」


 いや、北欧神話とか知らないし……。


 でも『場をかき乱す』ってのは、まさに秀一さんの特性っぽい気がするなぁ。


 早苗(さなえ)や歩美(あゆみ)も、おそるおそる階段を降りてきた。


「何? 今の音。地震?」


 孝弘さんが歩美(あゆみ)に応える。


「葛城さんに振り回された小金井(こがねい)さんが、怒って柱を殴ったんだよ。

 たぶん、朝陽(あさひ)のお母さんに交際宣言させられたんじゃないか?」


 私は黙ってうなずいた。


 早苗(さなえ)が「えー?! ずるくない?!」と声を上げる。


 私は肩を落として応える。


「あの話し合いの場にいて、『役得』とか思えるなら代わってくれないかな……」


 歩美(あゆみ)は小さくため息をついて告げる。


「ともかく、明日も予定があるのでしょう?

 温泉に行くなら、そろそろ行かないと」


 私はうなずいて、重い足取りで階段を上り、部屋に戻った。





****


 温泉に行く道すがら、私はマスターに尋ねてみる。


「あんなにマスターが怒ったのに、雨粒ひとつ降らなかったのはなんで?」


 マスターが疲れたような微笑みで応える。


「ここは秀一の領域だからね。

 僕の影響力が及ばないんだよ。

 ――それより、本当にごめんね。朝陽(あさひ)さん」


 私は首を横に振って応える。


「ああなったら、もうあれしか道はなかったし」


 早苗(さなえ)が星空を見上げてつぶやく。


「イケメンマスターと公認カップルかー。いいなー」


「よくない! ――いや、嫌って意味じゃなくて!」


 あわててフォローしたけど、マスターはしょんぼりしていた。


「本当にごめん。

 全部、僕の責任だね。

 これじゃあ朝陽(あさひ)さん、バイトをしてる間は他に恋人を作れないかもしれない。

 もしそういう人ができたら、いつでもバイトを辞めていいからね」


「――そんな! 私、恋愛の予定とかないし!

 『カフェ・ド・ビジュー・セレニテ』で働けるのが、今は一番楽しいんだよ!

 だから『辞めろ』だなんて、言わないでよ!」


 マスターが私の目を嬉しそうに見つめてきた。


「……ありがとう、朝陽(あさひ)さん」


 私はニコリと微笑んで、マスターの目を見つめた。


 歩美(あゆみ)がコホンと咳払いをしたのを聞いて、あわててマスターから目をそらす。


「なによ、立派にいちゃついてるじゃない」


「そういうのじゃないってばー!」


「はいはい、言い訳は署で聞きます」


「犯罪者か!」


「『イケメン捕縛罪』で『永久就職の刑』ね。

 おめでとう。ご祝儀は弾んでおくわ」


「結婚式の話なの?!

 ちょっと待って話について行けないよ!」


 気が付くと、マスターがクスクスと楽しそうに笑っていた。


「――朝陽(あさひ)、少し声を小さくしないと、ご近所迷惑だよ」


「はーい……えっ?! 今、何て言ったの?!」


 マスターが私に優しく微笑んだ。


「内緒。

 ――さぁ着いたよ。

 温泉に入ろうか」


 さっさと男湯に入っていったマスターの背中を、私はぼんやりと見つめて居た。





****


 温泉につかりながら、今夜のことを思い返す。


「――はぁ。色々あり過ぎて、頭がついて行かないよ」


 早苗(さなえ)が唇を尖らせながら告げる。


「何を言ってるのよ、この贅沢もの!」


 歩美(あゆみ)はため息交じりで告げる。


「まぁいいわ。他人のものでもイケメンはイケメンだもの。

 目の保養には使えるし」


「マスターは別に私のものじゃないってばー!」


「あら、でもマスターの心は朝陽(あさひ)のものになってるんじゃない?

 お酒を飲んだら、あんなに強く抱き着くぐらいだもの」


「それはっ?! ――そんなの、わかんないじゃん」


 早苗(さなえ)がバシャンと私の顔にお湯をかけた。


「まだ言うか! 理性を失くしてああなったんだから、本心に決まってるでしょ!」


「――でも! 言葉で言われたわけじゃないし!」


 早苗(さなえ)が歩美(あゆみ)に耳打ちをする。


「聞きまして? 奥様。態度で示されるだけじゃ不満なんですって」


「まぁ~~~っ! 贅沢ですわね。

 次は『結婚してください』しかないのに、それが欲しいのかしら」


 私は思わず突っ込んでいく。


「なんで奥様談義になるの?!」


 早苗(さなえ)たちが明るい笑い声をあげた。


 たくさん騒いだのに、今夜はマスターが注意をしてこなかった。


 温泉から上がった後も、なんだか口数が少ない。


「……それじゃ、戻ろうか」


 帰り道も、早苗(さなえ)と歩美(あゆみ)に散々からかわれながら、私たちはコテージに戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。