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宝石のような時間をどうぞ  作者: みつまめ つぼみ
第3章:神社の危機

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18.

 浜崎さんがテーブルに着くと、浜崎のお爺さんが口を開く。


「待たせたな。それじゃあ本題に入ろうか。

 健二――私の息子は、神社と辰巳(たつみ)のことを知らずに生きてきた。

 あいつは巫(かんなぎ)の力を持ていないからな」


 私は隣に座るマスターにこっそり尋ねる。


「その『巫(かんなぎ)』とかいうの、なんなの?」


 マスターがニコリと微笑んで応えてくれる。


「神に仕える人が持つ力だよ。

 その力を持っていないと、僕の姿や声を知ることもできないんだ。

 僕が敢えて『見せている』ときは別だけどね」


「それだけ?

 それなら別に、健二さんに神社のことを教えてもよかったんじゃ?」


「姿を『見せる』ことはできるけど、声を『聞かせる』ことはできないんだ。

 少なくとも今、お守りを持たずに声を聴いている源三や孝弘は、その程度の巫(かんなぎ)だってことさ」


 なるほど、伝えたいことがあっても伝え辛いのか。


 それはお店の経営をする上で、とっても問題が大きそうだなぁ。


「あれ? でもお守りを持つ前の早苗(さなえ)や歩美(あゆみ)は、マスターと話してたよ?」


「あの時は君がそばにいただろう?

 君のそばでなら、声を『聞かせる』こともできる。

 だけど普通は聞こえないものなんだよ」


 浜崎のお爺さんがうなずいた。


「それで諦めていたんだが、孝弘という孫が生まれ、事情が変わった。

 こいつは我が家では一番、巫(かんなぎ)の力を持っている。

 それでも、神職を務められるほどじゃないがね」


 私は浜崎さんを見る。


 この普通のお兄さんが、そんな力を持ってるのか。


「へぇ、人は見かけによらないんですね」


 浜崎のお爺さんが楽しそうに笑った。


「ハハハ! この中で飛び切りの巫(かんなぎ)を持った巫女である君が、それを言うのか。

 話を聞いたら、自力であの喫茶店に辿り着き、求人広告まで見つけたという。

 そんな人間、本職の巫女でも早々は居ないはずだ』


 私は驚いてマスターを見上げた。


「そうなの?!」


 マスターが嬉しそうにうなずいた。


「あれは巫(かんなぎ)の力を持ち、私と相性が良い人間にしか見えない広告だからね。

 その上、あの店のメニューを美味しいと感じられるほどの力だ。

 そんな人、出雲にでも行かないと居ないんじゃないかな」


 私は小首をかしげた。


「出雲? どこでしたっけ?」


 歩美(あゆみ)が横から口を挟んでくる。


「島根県よ! 出雲大社とか知らないの?!」


「あー、あの有名な?」


 マスターがクスクスと笑った。


「そう、その出雲大社だ。

 あそこは神道の総本山みたいなところだからね。

 強い巫(かんなぎ)を持った系譜が、今も生きてる。

 僕は別に神道の神じゃないけど、出雲になら君ぐらい力の強い子はいるかもしれない」


 ほぇ~、そんなこと言われても、そんな力があるなんて知らなかったんだけど。


 お店に来るまで、幽霊とか見えた経験もないし。


 浜崎のお爺さんが私に告げる。


「そんな家柄、出雲でも滅多にいるもんじゃない。

 外部に巫女を送り出すなんてことも、望めやしないだろう。

 それでも必死にこの辺りで、巫女の力を持つ人間を探したものさ。

 ――そして、君が現れた」


 私はきょとんとして浜崎のお爺さんを見つめた。


「私ですか? なんでそこで私が?」


「伊勢佐木(いせざき)朝陽(あさひ)、君を孝弘の嫁として我が家へ迎え入れたい」


 ――その瞬間、外で大きな雷が庭に落ちた。





****


 驚いて音のする方を見ると、障子の向こう側にある窓の外で、大粒の雨が降ってるようだった。


「……びっくりしたぁ。

 今ので怪我人、でなかったかな」


 早苗(さなえ)と歩美(あゆみ)もびっくりして、お互いに抱き合っていた。


 私も気が付いたら、マスターに抱き着いている。


 ……おっと、思わず。


 いそいそと姿勢を正し、お茶を飲んでごまかした。


 浜崎のお爺さんが困ったように笑った。


「ははは、そう怒らないでくれ、辰巳(たつみ)」


 マスターが怒ってる?


 見上げてみると、とっても怖い顔でマスターは浜崎のお爺さんを睨み付けていた。


「源三、今日の話というのはそれか」


「ああ、そうだよ。

 伊勢佐木(いせざき)さんが嫁いでくれば、あの神社を建て直すことも可能だろう。

 その子供たちも、きっと強い巫(かんなぎ)として生まれてくるはずだ」


 孝弘さんも驚いた様子でお爺さんに食って掛かる。


「ちょっと待て爺! なんで俺の結婚の話になるんだ?!」


 浜崎のお爺さんが浜崎さんを睨み付けながら告げる。


「お前が遊び歩かず、まともに仕事ができれば、まだ道はあった。

 適当な大学に入り、フリーターなぞしおって。

 家業を継ぐのがそんなに嫌か」


「俺に親父みたいな社長になれってのか?!

 そんな能力がないのは、あんただって知ってるだろ?!」


「お前は頭が悪い訳じゃない。

 きちんと勉強していれば問題はなかった。

 それを嫌がって遊びほうけおって。

 その性根は、誰に似たのやら」


 浜崎さんが反論しようとしたところで、マスターがスッと立ち上がった。


「話がそれだけなら、俺は帰らせてもらうぞ」


 ――俺?! マスターが『僕』って言わないの、初めて聞いたかも?!


 浜崎のお爺ちゃんがニコリと微笑んだ。


「ああ、辰巳(たつみ)が帰りたいなら止めやしないさ。

 止める力も持ってないしな。

 ――だが、伊勢佐木(いせざき)さんには残って話を聞いてもらう」


 また外で、大きな雷が鳴り始めた。


 落ちてはいないけど、いつ落雷が起きても不思議じゃないぐらいに雷鳴が鳴り響いてる。


「なにこれ、ゲリラ豪雨?!

 今日の天気予報、雨だなんて言ってなかったのに!」


 浜崎のお爺さんが深いため息をついた。


「……わかった。わかったから怒りを鎮めてくれないか。

 この雷じゃ、事情を説明することもできやしない」


 マスターがジロリと浜崎のお爺さんを睨み付けた。


「本当に理解したのか?」


「したとも。決して無理強いをする訳じゃない。

 だが話だけは聞いておいて欲しいんだ」


 マスターがため息をついて、畳に座り込んだ。


 それと同時に外の雷が収まり、雨音も聞こえなくなっていった。


 浜崎さんが障子を見ながらつぶやく。


「小金井さんが竜神って、ほんとだったんだな……。

 こうして見ると、改めて実感するよ」


 私は小首をかしげて浜崎さんに尋ねる。


「それ、どういう意味ですか?」


 浜崎さんはニヤッと笑った。


「竜神ってのは、水の神様だ。

 昔から落雷は『竜神の怒り』と言われたりもした。

 小金井さんが怒ると、大雨が降って雷が落ちるのさ」


「え?! そんなことできるの?!

 ――ねぇマスター、本当に?!」


 マスターが困ったように微笑んで応える。


「ごめんね、伊勢佐木(いせざき)さん。

 怖がらせちゃったね」


 ……本当なのか。


 凄いんだなぁマスターって。


 浜崎のお爺さんがふぅとため息をついた。


「では、どうしてこんな話をしたのか、釈明させてほしい」


 マスターが浜崎のお爺さんを見つめてうなずいた。


「手短に話せよ源三。あまり長く我慢は出来んぞ」


「実はな、健二の奴が神社の敷地を再開発しようと考えてるらしい。

 今は儂の権限で止めているが、儂が居なくなれば躊躇はしないだろう。

 『朽ちた神社に何の価値があるのか』とな。

 現実主義者の健二らしい発想だ」


 私はあわてて声を上げる。


「神社が無くなっちゃうってことですか?!」


 浜崎のお爺さんがうなずいた。


「儂が亡きあと、健二を止める手段はないだろう。

 神社が残ったとしても、儂ら浜崎家の支援がなければ辰巳(たつみ)もいずれ立ち行かなくなる。

 辰巳(たつみ)の声を聞けない健二では、維持費用すら惜しむのは間違いない」


 浜崎さんが声を上げる。


「それはしょうがねぇじゃねぇか!

 だとしても、そこでどうして俺の名前が出てくるんだよ?!」


 浜崎のお爺さんが私を見た。


「伊勢佐木(いせざき)さんが嫁に来れば、孝弘が宮司になれる。

 神社を再建し、宗教法人を起こし、健二に対抗することができる。

 あの神社を残すため、伊勢佐木さんには考えてもらえないだろうか」


 そんなこと、急に言われても……。


 私は何も言えず、浜崎のお爺さんの視線を受け止めていた。


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