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宝石のような時間をどうぞ  作者: みつまめ つぼみ
第3章:神社の危機

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17.

 黒塗りの車から降りてきたのは、和服を着たお爺さんだった。


 なんだかちょっと怖い顔をしてるなぁ。


 お爺さんが私たちを見ると、早苗(さなえ)と歩美(あゆみ)が私の背中に隠れた――なんで私を盾にするの?!


 ゆっくりと境内に入ってくるお爺さんに、マスターが声をかける。


「源三、突然やってきて何の用だ」


 あれ、なんだか声が冷たい気がする。


 振り向くと、マスターは少し怒った風に眉をひそめていた。


 お爺さんの笑い声が境内に響き渡る。


「ハハハ! そう怒るな辰巳(たつみ)。

 書類上は私が雇用主になる。

 だから一度、きちんと本人を確認しておこうと思っただけだよ」


 お爺さんに振り向くと、ちょっと柔らかい笑顔で笑っていた。


 元の顔が怖いだけで、根は悪い人じゃないのかな?


 私たちの前に来たお爺さんが口を開く。


「儂(わし)がここの地主、浜崎源三だ。

 あんたらが伊勢佐木(いせざき)さんと清水(しみず)さん、それに荒川(あらかわ)さんだね?」


 私たちはおずおずとうなずいた。


「あの、それで何のご用でしょうか……」


「今日は定休日だろう?

 ちょっと家に来て、お茶でも飲まないかな?

 心配なら、辰巳(たつみ)も付いてきて構わないよ」


 私はマスターを振り返って尋ねる。


「このお爺さんの家に、行っても大丈夫なの?」


 マスターはお爺さんを睨み付けたまま、小さく息をついた。


「……まぁ、話を聞くだけなら構わないだろう。

 もちろん僕も付いて行くけどね」


 お爺さんに振り返ると、楽しそうにニヤリと微笑んだ。


「決まりだね。

 それじゃあ車に乗っておくれ。

 ――孝弘! お前も自転車でついてこい!」


 浜崎さんが大きな声で応える。


「俺は車に乗せてくれないのかよ?!」


「定員オーバーだ。諦めろ」


 そう言ってお爺さんは、ゆっくりと車に向かって歩いて行った。


 私も早苗(さなえ)や歩美(あゆみ)と顔を見合わせ、お爺さんの後を追った。





****


 車の後部座席は四人乗りで、マスターと私たちが乗りこんだ。


 お爺さんは助手席に座り、私たちに告げる。


「街に出てる時で丁度良かったよ。

 屋敷まで少しかかる。

 それまで我慢しておくれ」


 前列に座る早苗(さなえ)が車内を見回して告げる。


「大きな車ですね」


「ハハハ! リムジンは初めてかな?

 これは小さい方の車だよ」


 名前しか知らないぞ?! リムジンなんて!


 お金持ちが乗る車じゃなかったっけ……。


 座席がゆったりとしていて、座ったことのない椅子の感触に戸惑ってしまう。


 私は隣に座るマスターに尋ねる。


「マスターは、浜崎のお爺さんの家に行ったことがあるの?」


「分身では何度かね。

 こうして本体で行くのは、初めてかもしれない」


 ふと思い出して、マスターに尋ねてみる。


「ねぇマスター、『分身』と『分霊』って何が違うの?」


 マスターが穏やかな表情になって微笑んだ。


「なんて説明しようか。

 『自我を持った分身』、それが『分霊』といえばいいのかな。

 分霊がどれくらい強いかは、本体がどのくらいの強さで分身を作ったかによるね。

 たとえば、僕の場合はそこそこ強い分身から生まれた分霊。

 財部(たからべ)さんは、あまり力を分けてもらえない分身から生まれた分霊だ」


「ふーん、じゃあマスターの方が財部(たからべ)さんより強い神様ってこと?」


「そこは神格の問題も絡んでくるから、一概には言えないね。

 弁財天も本来は日本でメジャーだし、力が強い神様だ。

 でも財部(たからべ)さんはすぐに力が尽きてしまうから、僕から補給を受けないといけない」


 うーん、なんだか難しいな。


 私が頭を悩ませていると、浜崎のお爺さんが楽しそうに笑った。


「ハハハ! 力は財部(たからべ)さんの方が強いはずだよ。

 でも体力がないから、その強い力を自由に使えないのさ。

 そして使い切った体力を、辰巳(たつみ)の力で補っているんだよ」


「んー、マスターの方が体力が多いってこと?」


 マスターがクスリと笑った。


「だいたい、そんな理解であってるよ。

 僕は力と体力のバランスがいいからね。

 簡単に体力が尽きることにはならないんだ」


 前に座る歩美(あゆみ)が、マスターに尋ねる。


「このお爺さんがお金持ちなら、お金のことは財部(たからべ)さんを頼らなくてよかったんじゃないですか?」


 マスターが困ったように笑った。


「そう巧く行けばよかったんだけどね。

 今の人間社会は、色々と監視が厳しいんだ。

 源三の家のお金も、きちんと管理されてる。

 それをごまかすと、国に見つかった時に怒られちゃうんだよ」


 私は小首をかしげてマスターに尋ねる。


「財部(たからべ)さんなら、怒られないんですか?」


「彼女は財運をもたらす神様だからね。

 怒られないようにお金を呼び込むのが得意なんだ。

 たとえば、当たりの宝くじを買えたりとかね」


「……それって、ずるくないの?」


「ハハハ! 買ったくじが当たりになるだけだよ!

 あとは換金までを財部(たからべ)さんがやってくれて、お店に持ってくるんだ。

 必要なら振り込みも、財部(たからべ)さんがやってくれてるよ。

 うちの経理担当みたいな人だね」


 なるほど、お金関係を一手に引き受けてる人なのか。


「じゃあ浜崎さんのお爺さんは、なにをしてくれてる人なの?」


「権利関係、お役所への融通や、人間の手配なんかだね。

 地元の名士だから、いろんな方面で顔が効くんだよ。

 でもそれも、源三の代で終わりかもだけどね」


 私はきょとんとしてマスターを見つめた。


「それ、どういう意味?」


「源三の息子は、僕のことを知らないんだ。

 孝弘は僕のことを知ってるけど、『地元の名士』にはなれない。

 だから『カフェ・ド・ビジュー・セレニテ』は、今しか存在できないお店とも言えるね」


「そんな! それじゃあ、浜崎のお爺さんが居なくなったら、お店はどうなるんですか!」


 マスターが私の頭を優しく撫でながら応える。


「そうなったら、また元の『幻のお店』に戻るだけさ。

 喫茶店はもう無理だろうけど、何か他のお店でもやろうと思う。

 ずっとやりたかったお店だから、僕も残念だけどね」


 私はマスターの顔を見上げながら、その優しい笑顔を見つめていた。





****


 大きな日本家屋に到着した私たちは、車から降りてお座敷に上がりこんでいた。


 途中の廊下も大きくて、まるで京都にでも行ったみたいな気分だ。


 浜崎のお爺さんが奥の席に座り、あぐらをかいた。


「君たちも好きに足を崩して座りなさい。

 孝弘が来たら、話を始めよう」


 大きな座卓の上にはお茶が給仕されていった。


 お茶と一緒に羊羹も出してもらったので、手持無沙汰な私たちは羊羹を口に運んでみる。


「――うわ、なにこれ! 口の中でとろけるみたいに柔らかい!

 それにすっごい上品な甘さだし、本当にこれって羊羹なの?」


 浜崎のお爺さんが楽しそうに笑った。


「ははは、そうかそうか。口に合って良かった」


 歩美(あゆみ)がぼそりとつぶやく。


「とっても高そうね。老舗の味って感じがするわ」


 早苗(さなえ)もうなずきながらお茶を口に含む。


「――うわ、お茶も甘いんだけど?!」


 どれどれ?


 一口飲んでみると、優しい甘さが舌の上に広がったあと、深いコクが後に残る。


 これもお茶とは思えない味わいだった。


 驚いている私たちに、浜崎のお爺さんが満足気な笑みを浮かべる。


「客人向けの、ただの茶と茶請けだよ」


 私はおそるおそる尋ねる。


「この羊羹とお茶、いくらぐらいするんですか?」


「羊羹は一本何千円か程度、驚くような物じゃないさ。

 お茶も百グラム何千円か。よくあるお茶だよ」


 え、私一本数百円の羊羹しか食べたことないんだけど……。


 お茶って、何千円もするものなの?


 お金持ちの感覚にくらくらしていると、ふすまが開いて浜崎さんが入ってきた。


「なんだよ爺、『俺にも来い』って」


 浜崎のお爺さんが手で浜崎さんを招いた。


「いいからこっち来て座れ。

 あの神社の今後について、話がある」


 ――神社について?!


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