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宝石のような時間をどうぞ  作者: みつまめ つぼみ
第3章:神社の危機

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15.

「お待ち同様、清水(しみず)さん、荒川(あらかわ)さん」


 マスターがコトリとコースターとグラスを早苗(さなえ)たちの前に置いた。


 歩美(あゆみ)は遠くにいるマスターと財部(たからべ)さんを睨みながらグラスに手を伸ばす。


「ありがとうマスター――え?!」


 あわてた歩美(あゆみ)がコーラをこぼしそうになるのを、マスターが寸前で受け止めていた。


「落ち着いて荒川(あらかわ)さん。

 そんなにびっくりしたかな?」


「だって、マスターはあっちにいるはずじゃ……」


 早苗(さなえ)も二人のマスターを交互に見比べて、困惑しているみたいだ。


「なんでマスターが二人いるの?!」


 マスターがニコリと微笑んで、私の向かいに腰を下ろした。


「神様なんだから、これくらいは簡単なことだよ。

 それよりお腹空いたでしょ。

 軽い物でも食べようか。何がいい?」


 マスターがメニューを広げて、軽食のページをテーブルに広げた。


 思わず四人で頭を突き合わせてメニューを眺めてしまう。


「うーん、サンドイッチかな」


「私はグラタン」


「私はパフェにしようかな」


「それで決まりだね。

 ――店員さん!」


 マスターが手を挙げ、店員さんが近寄ってきた。


 ちょっと困惑した様子の店員さんは、財部(たからべ)さんの方とマスターを見比べているようだ。


 ……そりゃあ、同じ人間が二人いたら驚くよね。


「お決まりでしょうか」


「サンドイッチとグラタン、パフェをお願いします」


 店員さんが復唱していく。


「――以上でよろしいでしょうか。

 少々お待ちください」


 店員さんが立ち去ると、マスターがテーブルに肘をついて、笑顔で私たちを眺めた。


「さて、悪い子たちには理由を聞いておこうかな?」


 歩美(あゆみ)が上目遣いで告げる。


「……たまたま、同じお店に入っただけです」


 マスターが目を細めて、楽しそうに歩美(あゆみ)を見つめた。


「ふーん? それで?

 『たまたま』同じ店内にいた財部(たからべ)さんを、見張ってたの?

 どうして?」


「……なんとなく、目に入ったから」


 苦しい! 歩美(あゆみ)の言い訳、苦しいよ!


 マスターが楽しそうに微笑んだ。


「なるほど、『なんとなく』か。

 たしかに財部(たからべ)さんは、目を引く女性だからね。

 『なんとなく』目に入っちゃっても、不思議じゃないかもね」


 ニコニコと楽しそうなマスターからは、謎の威圧感を感じる。


 問い詰められてる歩美(あゆみ)は、もっとプレッシャーを感じてるだろう。


 歩美(あゆみ)の目が忙しく動く。


「その……マスターはここに居て、大丈夫なんですか」


「僕かい?

 力の本体は財部(たからべ)さんのそばに残して来てあるからね。

 彼女には、それで充分なのさ」


 私はきょとんとしてマスターを見つめた。


「それって、どういう意味なの?」


 マスターの目が私を見た。


「言った通り、見たままの意味だよ。

 財部(たからべ)さんは自分を保つのに、僕の力が必要なんだ。

 今は要するに、『充電中』ってことさ。

 だからああして、僕に引っ付いてるんだ」


 ――いちゃついてる訳じゃなかったんだ?!


 早苗(さなえ)がおずおずとマスターに尋ねる。


「そんなことして、マスターの力は足りるの?」


「ははは、力が弱くなっても、僕はまだまだ強い方の神様だからね。

 ちょっとくらい力を分けても大丈夫だよ。

 それに最近は、伊勢佐木(いせざき)さんのおかげで黒字経営だし。問題はないよ」


 私は財部(たからべ)さんの方を見てみる――あちらも、どうやらこっちを見ているみたいだった。


「なんだ、やっぱり財部(たからべ)さんにもバレてるじゃん」


 マスターがクスリと笑った。


「あんな目立つ隠れ方をして、大丈夫だと思っていたのかい?」


 歩美(あゆみ)と早苗(さなえ)が真っ赤になってうつむいていた。


 私はマスターに尋ねる。


「もしかして、バーじゃなくてファミレスに来たのって、それに気づいてたから?」


「まだ外は寒いからね。

 それに飲み屋の外で高校生を待たせる訳にもいかない。

 酔っ払いに絡まれたら大変だ。

 だから綾子(あやこ)――財部(たからべ)さんに言って、行き先を変えてもらったんだよ」


「今、『綾子(あやこ)』って言った……」


「ごめんごめん、同郷の仲間だから、つい名前で呼んじゃうんだ。

 今度からは気を付けるね」


 早苗(さなえ)が顔を上げて、眉をひそめてマスターに尋ねる。


「本当に恋人同士じゃないんですか?」


 マスターがニコリと笑ってうなずいた。


「違うよ? 僕と財部(たからべ)さんはドライな関係――そう言ったでしょ?

 ギブアンドテイクでつながっている、同郷の仲間だよ。

 そんなことが気になっていたのかい?」


「いえ! そういうことじゃ――」


 早苗(さなえ)はまた、真っ赤になって顔を伏せてしまった。


 マスターがクスクスと笑って告げる。


「君たち、バイト代の原資が財部(たからべ)さんから出てると知って、気持ちが悪かったんだろう?

 でも大丈夫、彼女はちょっと意地悪なことをしたけど、根は優しい人だから。

 悪戯好きで、君たちをからかっただけだよ」


 むー、本当にそうかなぁ?


 財部(たからべ)さんから明らかに矢印がマスターに向かってるような気が……。


「おっと、食事がきたようだね」


 マスターがテーブルからどくと、店員さんが近づいてきた。


「サンドイッチのお客様――。

 グラタンのお客様――。

 パフェのお客様――。

 以上でよろしかったですか?

 ごゆっくりどうぞ」


 マスターが伝票を胸ポケットにしまい、私たちに告げる。


「ここはおごってあげるから、遠慮せずにたべなさい」


 私たちはどことなく気まずい空気の中、自分の前にある物を口に運んでいった。


 食べている私たちに、マスターが告げる。


「バイトをしていれば、これからも財部(たからべ)さんと会うことがある。

 その時に悪い印象を持たれていると、お互い良いことがないだろう?

 だから今のうちにきちんと誤解を解いておきたかったんだ」


 私はクリームを飲み込んでマスターに尋ねる。


「本当に誤解なんですか?

 財部(たからべ)さんは――」


「彼女の気持ちは関係がないさ。

 大事なのは、僕と君たちの関係――そうだろう?

 僕が彼女に振り向く気が無ければ、君たちも安心ができる。

 違ったかな?」


 ……全部、お見通しなのか。


 私もなんだか照れ臭くなって、黙ってパフェを口に運んだ。


 マスターが立ち上がり、私たちに告げる。


「ちょっと僕もコーヒーを取ってくるよ。

 少し待っていて。

 その間に、家に遅くなるように連絡しておきなさい」


 マスターは店員さんと何か会話したあと、胸元の伝票を見せて追記してもらっていた。


 そのままドリンクバーカウンターに行くのを見届けてから、私たちはスマホを取り出し、親にメッセージを送った。


 歩美(あゆみ)が小さくため息をつく。


「――はぁ。大人の余裕かなぁ。

 全部お見通しなんだもん。参っちゃう」


 早苗(さなえ)はグラタンを食べ終わり、ふぅと息をついた。


「そりゃあ長生きしてるんだろうけどさー」


 私もパフェを食べ終わり、レモンティーを一口飲んだ。


「あはは、今夜は全部マスターの手のひらの上だったね」


 マスターがテーブルに戻ってきて、のんびりとした会話を楽しんだ。


 私たちが笑顔になったのを、マスターは楽しそうに見守っていた。





****


「――あ、財部(たからべ)さんとマスターが席を立った!」


 早苗(さなえ)の声で、私たちの視線が財部(たからべ)さんに向かう。


 財部(たからべ)さんがマスターの本体と一緒にこちらのテーブルにやってきて、ニコリと微笑んだ。


「大人を盗み見るのは楽しかったかしら? お嬢ちゃんたち。

 おかげでせっかくバーに行きたかったのに、ムードのないファミレスになっちゃったわ」


 マスターの本体が財部(たからべ)さんに告げる。


「綾子(あやこ)、素直に謝れないなら――」


「わかった、わかったわよ!

 そんなに怒らなくてもいいじゃない、もう!

 ――ごめんなさい、可愛らしすぎて、ついからかいたくなったの」


 しゅんとした財部(たからべ)さんは、素直に私たちに頭を下げていた。


「――はい、これでいい?」


 切り替え早いな?!


 マスターの本体がため息をついて財部(たからべ)さんの頭を撫でた。


「まぁいいだろう。もうやるなよ?」


「はーい」


 何か今の返事、語尾にハートマークがついてた気がする……。


 マスターの本体が私たちに告げる。


「僕はもう少し財部(たからべ)さんと一緒にいなきゃいけないから、君たちはそっちの僕と駅まで行きなさい」


 私たちは黙ってうなずいた。


 財部(たからべ)さんを引き連れたマスターの本体は、そのまま店の外に出ていった。


 マスターが席を立って告げる。


「僕たちも行こうか。

 あまり遅くなるといけない」


「――あ、はい!」


 私たちも会計を済ませ、店を出て駅に向かった。





****


 改札の前で、マスターが私たちに告げる。


「もうこんなこと、しないようにね。

 君たちが危ない目に遭ったら、僕が親御さんに会わす顔が無くなる」


 私たちはしゅんとしながらマスターに頭を下げた。


「ごめんなさい」


「うん、よくできました」


 私たちは笑顔で手を振りながら改札を通り、マスターと別れた。


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