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宝石のような時間をどうぞ  作者: みつまめ つぼみ
第3章:神社の危機

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14.

 言葉を失ってる私たちに、マスターが楽しそうにクスリと笑った。


「君たちに少し説明しておくと、財部(たからべ)さんは『弁財天』本人じゃない。

 『分霊』って言葉は知ってるかな?」


 私たちは首を横に振った。


 マスターが穏やかに言葉を続ける。


「神様本人じゃない神様のことだよ。

 僕や財部(たからべ)さんは、神の分身なんだ。

 だから本質は本体と同じだけど、力が弱い。

 日本に来てからは、だいぶ弱くなってしまったね」


 それって――。


「マスター、もしかして日本で生まれた神様じゃないの?」


「そうだよ? 僕たちの生まれ故郷はインドの辺り。

 そこから中国を渡って日本にやってきた神だ。

 僕は財部(たからべ)さんと一緒に、そうやって日本にやってきた神なんだ」


 歩美(あゆみ)がマスターに尋ねる。


「じゃあマスターも、有名な神様なんですか?」


 マスターが妖艶な笑みを浮かべた。


「それは内緒。

 日本では竜神として敬われていた神――それで充分だろう?

 ――さぁ、お店を閉める準備をするよ。

 掃除を手伝ってくれるかな?」


 私たちはうなずいて、指示された通りに閉店準備をしていった。


 フロアの清掃も教わりつつこなしていく。


 一通り終わると、着替えるためにスタッフルームに入った。





****


 歩美(あゆみ)が機嫌悪そうに口を開く。


「弁財天だか知らないけど、あの財部(たからべ)って人は感じ悪いわ!」


 早苗(さなえ)もむすっとしながらうなずいていた。


「子供っぽいよね、あの人。甘えん坊だし。

 本当に弁財天なのかな」


 私も戸惑いながらブラウスに袖を通した。


「マスターが私たちに意味のない嘘なんてつかないと思うし。

 そこは多分、本当なんじゃないかな」


「バイト代が出ても、そのお金が財部(たからべ)さんから出てるって考えると気分が悪いよ!」


「そうだね……でもお店を維持するのを手伝ってくれる人だし、悪い人じゃない気もする。

 マスターを好きな人なのかもしれないけどさ」


 持ちつ持たれつって言ってたし。


 きっとマスターの力がないと、財部(たからべ)さんも困る人なんだ。


 ちょっと私たちに対する当てつけはイラっとしたけど。


 バタンと大きな音を立てて、歩美(あゆみ)がロッカーを閉めた。


「ねぇ、今夜マスターを追いかけて見ない?

 本当に恋人同士じゃないのか」


「ええ?! そんなことできないよ!

 お酒を飲むお店とか、高校生は入れないし!」


「追いかけられるところまででいいのよ。

 お店に入ったら、外で待ってればいいじゃない。

 二時間くらいなら、九時までには終わるし。

 親には怒られない時間よ」


 早苗(さなえ)がパタンとロッカーを静かに閉めた。


「私は乗った――朝陽(あさひ)はどうする?」


「え、マスターたちを追いかけるの?!

 本気?! やめようよ、プライベートの時間でしょ?!」


 二人は黙って私を見つめてきた。


 この流れは……仕方ないか。


 二人がやり過ぎないように、私が止めないと。


「……わかった、私もつきあう」


 私は小さく息をついた。





****


 スタッフルームを出ると、マスターはいつもと違って白いシャツとグレーのジーンズ、その上に黒いジャケットを羽織っていた。


 首には銀のネックレスが見える。


 こうしていると、普通のお兄さんみたいだ。


「まだ明るいけど、駅まで送ろうか」


 歩美(あゆみ)がマスターを手で制した。


「いえ、大丈夫です。

 マスターはこれから『お忙しい』でしょうし、三人いれば怖くないですから」


「そうかい? じゃあ気を付けて帰ってね。

 明日は定休日だし、みんなとは明後日会うことになるかな」


 歩美(あゆみ)の嫌味を、マスターは軽やかにスルーしていた。


 これが大人の余裕か……。


「じゃあ、お先に失礼しまーす!」


 私たち三人は、店長を残して店を出た。



 店が見えなくなってから、私たちはお店の前の通りが見える街路樹の影に隠れた。


 私は思わず不安になって告げる。


「ねぇ、これで気づかれないの?」


「かがんでれば大丈夫よ」


 ほんとかなぁ……。


 スマホを見ると、午後八時を少し過ぎた頃。


 赤い乗用車が遠くから近づいてきて、お店の前にとまった。


 中から降りてきたのは――財部(たからべ)さんだ。


 彼女はさっきと同じ服装で、そのまま店内に入っていく。


 すぐにマスターと一緒に出てきた――腕を組みながら。


「何あれ! なんでマスターに抱き着いてるの?!」


「歩美(あゆみ)! 声が大きい!」


 財部(たからべ)さんの声が小さく聞こえてくる。


「今日は歩いて行きましょう?

 いつものバーでいい?」


 マスターがため息をついていた。


「何を考えてる? 綾子(あやこ)。

 くだらない遊びはやめておけ」


「あら、いいじゃないたまには。

 時間を潰せれば、なんだっていいんでしょ?」


 店長と財部(たからべ)さんが店から離れると、お店が白い霧に包まれた。


 すぐに霧が晴れて、そこには寂れて朽ちた神社が残った。


 初めて見た早苗(さなえ)たちは、その光景に驚いていた。


「なにあれ……なんで神社になったの?」


「言ったでしょ? あの神社が正体だって。

 いつもいるお店は、マスターが作る幻なんだよ」


 閉店処理ってのは、このことなんだな。


 街路樹の裏でかがんだ私たちの前を、マスターと財部(たからべ)さんが通り過ぎていく。


 私たちは見つからないように頭を低くしていた。


 この街路樹の高さなら、財部(たからべ)さんからは見えないはず。


 だけど財部(たからべ)さんがクスリと笑うのが聞こえてしまった。


 二人の足音が遠ざかってから、あわてて頭を上げて二人を探す。


 十数メートル先を、マスターたちは歩いていた。


 財部(たからべ)さんはマスターの腕に抱き着いたままだ。


 歩美(あゆみ)が静かに告げる。


「いくわよ、正体確かめてやる!」


 早苗(さなえ)も立ち上がり、鼻息を荒くしていた。


 ……なーんか、気付かれてる気がするんだけどなぁ。


 私もゆっくりと立ち上がり、マスターたちを追跡する二人の後を追った。





****


 意外なことに、二人は商店街の表通りにあるファミレスに入っていった。


「あれ? バーじゃないの?」


 歩美(あゆみ)が財部(たからべ)さんを睨み付けながら告げる。


「都合がいいわ。私たちも行くわよ」


 ずんずんとファミレスに向かう早苗(さなえ)と歩美(あゆみ)を、私はあわてて追いかけた。



 店内に入り、店員の案内を断ってマスターたちの席を覗ける場所に座る。


 ドリンクバーだけ頼んで、早苗(さなえ)と歩美(あゆみ)は財部(たからべ)さんを睨み付けていた。


 私は小さく息をついて立ち上がり、二人に告げる。


「飲み物持ってくるよ。何がいい?」


「コーラ」


「メロンソーダ」


 私はなるだけマスターたちから見えないようにドリンクバーのカウンターに移動した。



 トレイにコーラとメロンソーダを乗せ、自分の飲み物を選ぶ。


 私は……アイスレモンティーでいいかな。


 レモンのポーションをトレイに乗せ、サーバーからグラスにアイスティーを注いでいく。


 注がれて行く紅茶を見つめながら、小さく息をついた。


 こんなことして、何の意味があるんだろう。


「こぼれるよ、伊勢佐木(いせざき)さん」


「――っと、危ない! ありがとうマスタ……え?」


 振り向いた先には、穏やかな笑みを浮かべるマスターが立っていた。


「なん……で? だって、マスターと財部(たからべ)さんは早苗(さなえ)たちが見張ってるんじゃ……」


 マスターはニコリと微笑んで応える。


「分身するぐらい、神様なんだから不思議じゃないだろう?」


 ――充分に不思議ですけど?!


 混乱する私の手から、店長がグラスを奪ってトレイに乗せた。


「席まで運ぶよ。行こうか伊勢佐木(いせざき)さん」


「あ……はい」


 私はマスターの後について、早苗(さなえ)たちが待つテーブルに戻っていった。


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