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第81話 『癖者達のクリスマス』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?




著者:ピラフドリア




第81話

『癖者達のクリスマス』





「例のものは持ってきたか?」




 暗闇の中、車から降りた男性は黒ずくめの服装の男性と向かい合う。




「ああ、これだ」




 黒ずくめの男性はケースを車から降りた男性に受け渡すと、サングラスを指で上げてある忠告を告げた。




「一つ注意点がある。決して牛乳を与えるな」




「牛乳を……? なぜだ」




「とにかく与えてはならない……それを守らなければ大変なことになる」




「あ、ああ……」








 飛行機で国境を渡り、日本へ帰ってきた私達。しばらく何もない日々が続いていたが、そんな日も終わりを告げた。




「レイさんレイさん!! 明日は何の日か知ってますか?」




「何ってクリスマスでしょ。知ってるよ」




 明日は今年最後の大イベント、クリスマスだ。リエはクリスマスが近づいてきたことでウキウキの様子。




「何します? やっぱりプレゼント交換ですか? それともパーティですか?」




「そうね〜」




 かなりウキウキな様子のリエだが、そこまで大きなイベントを起こす気もなかったため、返事に困る。

 楓ちゃんを呼び、四人と一匹で飾り付けをした事務所で、ケーキでも食べるくらいはする予定だが、リエの様子からそれだけだと足りさなそうだ。




 っと、そんな中、事務所の固定電話のベルがなった。私は受話器を取り、電話に出る。すると、受話器から聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。




 その声の主と電話を終え、私は受話器を戻すとリエに顔を向けて、




「リエ、明日はパーティよ!!」









 これこそ日本の家とでも言いたくなるような和室。そんな和室で多くの知人が集まっていた。




「霊宮寺さん、こっちです!!」




 テーブルの手前で単語帳を手にしたコトミちゃんが座布団を広げて隣にどうぞと手招きする。私は用意してくれた座布団に座りながら、




「もうすぐ受験じゃないの?」




「こういうイベントは意地でも参加するのが私です」




 ドヤ顔で単語を必死に覚えるコトミちゃん。本当に大丈夫なのだろうか? まぁ、髪も染めていたのを黒に染め直して面接の対策もし始めた感じだろう。

 リエと楓ちゃんも私の横にそれぞれが座り、黒猫は私の膝の上で丸くなった。




「しかし、京子ちゃんの家がこんなに豪華だったなんてね〜」




 私は部屋の中を見渡してその広さに驚く。




 部屋にはスキンヘッドとその子分。レッドに魔法少女3人組。マッチョの二人と変態ストーカー黒淵さん。それとアゴリンとスコーピオンのラブラブカップルと、かなりの人数が集まっているが、それでもまだまだ余裕がある。




 私が呟いたさっきの言葉に反応するように、コトミちゃんが口を開く。




「姉さんはこの辺じゃ、有名なお嬢様だったみたいですよ。多分昔は箱入りのお嬢様で可愛かったんじゃないかなぁ、…………今じゃゴリラだけど」




 コトミちゃんがそこまで言いかけたところで、コトミちゃんはやっと後ろに何者かが立っていることに気がついた。




「……誰がゴリラだァ?」




「あ、……姉さん…………い、今のは違くて、その単語でゴリィラって単語…………あぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」




 単語帳のように折りたたまれているコトミちゃんは放置して、私はテーブルの上を目にした。




 テーブルの上にはチキンやピザ、寿司などが並び、これぞクリスマスの定番メニューという感じのメニューだ。

 しかし、気になるのは……。




「なんだか全部、作った……」




 見た目から伝わってくる。これは市販のものではない。スーパーなどで売られているのもでは到底作れない細部までこだわった料理。

 そしてそれを作った人物が誰なのか、すぐに分かった。




「ふふふ〜、気づきましたか、レイさん」




 スコーピオンがハサミをチョキチョキさせて自慢げな顔をした。そして隣に座るアゴリンさんの肩に腕を回すと、




「アゴリンが作ったんですよ。これ殆どすごくないですか!!」




「え!?」




 私が驚いてアゴリンさんと料理を交互に見る。

 アゴリンさんはお料理教室の手伝いもしていた。しかし、だからといってここまでのものを作れるものなのか……。




「凄いよ、アゴリンさん!!」




「こんなお店屋さんみたいご飯を作れるなんて、凄いです!!」




 私と楓ちゃんが褒めると、アゴリンさんは顔を両手で覆い隠す。




「い、いやぁ、ちょっと得意なだけですよ〜」




 照れて身体をクネクネさせている姿は可愛い。しかし、左右に顔を振った影響で、左右にいるヤンキーとスコーピオンを顎でノックアウトしているため、近づきたくはない。




「どうぞ。食べてみてください」




 アゴリンは小皿を私達へと渡して勧めてくる。しっかりと見えていないリエの分の小皿も渡してくれるところは気が利いていて凄い。




「じゃあ、頂きます……」




 すでにピザを食べて美味い美味いと言っていたリエのことは忘れて、私と楓ちゃんは頂くことにした。




「わぁ、美味しいです!!」




「本当!! 流石アゴリンさんね!!」




 一口食べただけで頬っぺたが落ちそうになる。この味は完全にプロ級だ。お店を始めたら大行列出来るレベルだ。




 私達はその美味しさに箸が止まらなくなる。そんな中、ノックアウトされたスコーピオンが、スッと起き上がって姿勢を戻す。




「……俺の弁当も毎日作ってくれるんだ。しかもめっちゃ美味いんですよ!!」




「復活早いね」




 しかし、こんな美味しいお弁当を作ってもらえるなんて、スコーピオンは幸せすぎる。




 そんな私達の話を横で聞いていたレッドがふらふらと立ち上がると、スコーピオンへと寄って行く。




「スコーピオンはよぉ、良かったなぁぁ〜。お前ずっと初恋の人、引きずってたもんなぁ」




「クッサ!? レッド酒臭いぞー!! 近づくんじゃねー!!」




 スコーピオンはすでに出来上がってしまっているレッドを両手で遠ざける。

 赤いマスクを被っているため、知らなかったがもう酔っているようだ。てか、お酒をマスクしながら飲んで美味しいのだろうか……。




 レッドにダル絡みされるスコーピオンとそれを宥めるアゴリンさん。そんな三人を見守っていたら、正座の姿勢でズリズリとある人物が近づいてきた。




「霊宮寺さん、霊宮寺さん!!」




 寄ってきたのは魔法少女三人組の一人、詠美ちゃん。キャラクターの絵が入ったTシャツを着ており、魔法少女三人の中で一番子供っぽい子だ。




「詠美ちゃんなに?」




「前に魔法少女についてお話ししようとしたんですけど、時間がなかったみたいなので、今回は私の考えた魔法少女理論を1〜10までお教えします!!」




 目を輝かせてびっしりに文字の書かれたノートを見せてくる。どうやらこのノートには魔法少女に関する情報が詰め込まれているようだ。

 そんなノートが10冊も積まれている。これからパーティ中、ずっとこの話を聞かされるのか……。




 チラッと助けを求めるように他の魔法少女達の方に目線を向けてみる。すると、二人とも困り顔で諦めてくださいという風な顔でこちらを見ていた。




 二人もなんとなくこうなることは分かっていたようだ。なら止めて欲しかったのだが……。

 このまま講義が始まれば、何時間続くか分からない。




「あ!! そうだ!!」




 私は膝の上で丸くなっていた黒猫を抱っこすると、詠美ちゃんに渡す。




「うちの猫が魔法少女について話を聞きたいみたいなの!! 先に話してあげて!!」




「ん、はぁ!? おい!!」




 黒猫を生贄に捧げることにした。最初は困った顔をしていた詠美ちゃんだが、少し考えたのち




「これもこれでありかー!!」




 とか言って黒猫を連れて行った。調教されてた後の黒猫を楽しみにして見送った後、私は座り直してエビフライを箸で掴む。小皿を下にして食べようとしたのだが、




「レイちゃ〜ん、私にあーんしてあーん!!」




 黒淵さんがテーブルの下から顔を出して私の膝に現れた。いつの間にテーブルに潜っていたのか……。




 私はため息を吐くと、笑顔を下に向けた。




「しょうがないなぁ」




「ハフッ!?」




 変態の鼻にエビフライを刺し、膝で頭を蹴ってテーブルの下へ押し込む。とりあえず撃退に成功した。




 変態を撃退し、食事を再開する。次は何を食べようかと迷っていると、私の目の前に巨大な水筒が置かれた。




「レイさんもどうです? 一杯!」




 水筒を置いて話しかけてきたのは、マッチョの方の先輩。どうですって……。これ……




「いや、プロテインはいらないです……」




「遠慮はしなくて良いんですよ!」




「遠慮じゃないです。ガチでいらないです!!」









 ここ約半年でここまで個性的なメンバーと知り合うことになるとは……。




 巨大なお肉を丸齧りするリエと楓ちゃん。黒猫に魔法少女講義をしている詠美ちゃんとその横で呆れた様子の魔法少女二人。

 マッチョな二人と筋肉の張り合いをするスキンヘッドとその子分。ヒーローと怪人を説教するアゴリンさん。 




「疲れる……」




 私は彼らの様子にため息を吐く。




 実際この人達といると疲れる。しかし、それなのになぜだろう。

 個性が強すぎて見てるだけで疲れる人たちだが、そんな彼らと一緒にいると、楽しいと感じられる。







 それからしばらく経ち、パーティも終わりに近づく。三角の帽子に付け髭と眼鏡をつけたスキンヘッドが立ち上がると、




「んじゃ、そろそろ締め出しプレゼント交換でもするか」




 と言って仕切り始めた。




 私は事前に持っていていたプレゼントをバッグの中から出す。私がバッグから出したのは三つのプレゼントだ。

 というのも、うちには幽霊とヘンテコ猫がいることはこのメンバーは知っているため、その人数分のプレゼントも用意させられた。




 皆もそれぞれ用意したプレゼントをテーブルの上に置く。人が入れそうな大きな箱に入ったものから、手のひらサイズの小物まで。全てのプレゼントを配置し終える。




「よし、これから電気を消したらプレゼントをシャッフルする。準備はいいか?」




 スキンヘッドは準備ができたか尋ねると、アゴリンさんが手を挙げた。




「あ、待って忘れてた!!」




 そう言うと、スコーピオンの目に目隠しをつけ始める。




「うちの彼、怪人の中でも目が良いのよ。暗闇でもはっきり見えちゃうから、目隠しさせないと」




「あー!! 忘れてたぜ!!」




 自分の特殊能力を忘れていたスコーピオンがアゴリンさんに目隠しをつけてもらう。




「それじゃあ、今度こそ良いな!」




 次こそはと電気を消すスキンヘッド。しかし、今度は、




「あ! 待ってください!!」




 詠美ちゃんが止めた。スキンヘッドが電気を付け直すと、詠美ちゃんはもう一つプレゼントを取り出した。

 しかし、魔法少女組のプレゼントは全てで揃っている。それは誰のプレゼントなのか?




「前に悪霊退治に協力してくれた武士幽霊がいたんですが、地縛霊で来れないからせめてプレゼント交換だけは参加させろって」




 誰かは分からないが、頼まれて断りきれなかったのだろう。詠美ちゃんは二人分のプレゼントをテーブルに置く。




「んじゃ、もう問題ないな」




 スキンヘッドはまた止められるのではと、警戒しながらも電気を消す。

 次は誰も止めることはなく、やっとプレゼント交換が始まった。




 暗闇の中、黒淵さんからの襲撃もあったが撃退し、無事にプレゼントの交換が終わった。




 明かりがつくと、私達はそれぞれの元に来たプレゼントと対面した。




「よし、みんな一斉に開けてみましょうか!!」




 せーっの!! っでプレゼントを開封する。




 リエの元には新品のサングラス。楓ちゃんは六法全書。黒猫はダンベルとプレゼントの中身が判明する。

 中には女性用下着が来て困惑しているスキンヘッドや人面魚の人魚を抱きしめて喜んでいる詠美ちゃんなど反応はそれぞれだ。




「レイさんはなんだったんですか?」




 プレゼントのサングラスをつけてリエが尋ねてくる。

 私がプレゼントを開けると、中から出てきたのはケージ。そしてその中に入っていたのは……。




「ツノの生えたスライム?」









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