第82話 『牛乳飲んだらもう大変』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第82話
『牛乳飲んだらもう大変』
「なに、これ……」
プレゼント交換を行い、私の元に回ってきたのはケージに入れられたツノの生えた液体状の何か。その大きさは猫よりも一回り小さい感じ。
黄緑色で液体といってもぷにぷにしていて固体に近そうな物体。そんな謎の物体が私の元へとやってきた。
「あ、それは私のプレゼントですわ!」
魔法少女組でお嬢様キャラぽい美津子ちゃんが、胸に手を当ててプレゼントの自慢げな顔をする。
「え、なんなのこれ?」
「私が御父様にお願いしてオークションで落札して頂いた品ですわ」
オークションで落札!? 見た目以上に高級なものなのか。というか……
「これって生物?」
「さぁ? でも食事や睡眠は取るから生物に近いと考えられてるらしいですわ」
「らしいって……」
なんて怪しいものをプレゼント交換に混ぜるんだ。しかし、これはなんというか。
「スライムみたいですね!」
横から謎の生物を覗き込んだリエが口を出す。
リエの言う通り、スライムみたいだ。しかし、スライムが現実にいるなんて聞いたことがない。……いや、幽霊やら怪人やらがいるから居てもおかしくはないのだが…………。
「一応生物として飼えばいいのね。それで食事とかの注意点ってあるの?」
「食事は一週間に一度で良いですわ。散歩などは必要ないけど、たまにケージから出して部屋の中を探索させてあげることくらいですわね」
「ふ〜ん、まぁ、分からないことがあったら聞くよ」
まぁ、難しくはなさそうだ。しかし、黒猫に食われないかが心配だが。
「あ、これだけは注意して欲しいですわ」
「なに?」
「牛乳をあげないこと。これを守らないと大変なことになるらしいですの」
「大変なのかって……何が起こるのよ?」
「私にもそこまでは……」
牛乳をあげたら何が起きるのか、興味はあるが、実験は今度にしよう。
謎の生命体をもらった私は、ケージから
出して触っている。感触としては本当にスライムだ。しかし、ベトベトしているが、不思議なことにくっつかない。
「不思議な生き物ね〜」
私が謎の生物を突いていると、リエも横から手を伸ばして突き始める。
「名前はつけるんですか?」
「名前……そうね〜、飼うなら欲しいよね。どうしようかしら……」
私とリエがどんな名前にしようか迷っていると、隣で楓ちゃんが手を挙げた。
「TAKAHIRO!!」
「人の名前をつけるな!!」
人の名前を勝手にスライムにつけようとして黒猫に叩かれる。しかし、楓ちゃんとしては黒猫に叩かれたのに嬉しい様子。
「師匠の猫パンチ〜、もう一回! もう一回やってください!!」
「う……楓…………」
楓ちゃんの様子に黒猫が引いている中、私は考えるのをやめた。
「これ以上考えてても出てきそうにないし、後で決めれば良いよね」
「それもそうですね」
こうして謎の生命体も加わってパーティが続く。このパーティの最後に大事件が起きるとは知らずに…………。
時間も20時を過ぎ、そろそろ終わるタイミングを考えようとしていた頃。私は異変に気づいた。
「あれ、そういえば、あれはどこ行ったの?」
さっきまで近くにいたはずの謎の生命体が見当たらない。
「あのスライムですか? あー、さっきそっちの方に……」
リエがそう言って指を刺した方向に謎の生命体はいた。しかし、
「ね、ねぇ、あれって……」
「牛乳、飲んじゃってますね」
誰かが持ってきて飲み終わったものをその辺に置いておいたのだろう。その飲み終わった牛乳パックに残っていた牛乳をスライムが吸収していた。
スライムが牛乳を飲んでいると、不思議なことにスライムの身体が膨らみ出す。そして膨らんだ部分が分裂してもう一匹、同じサイズのスライムになった。
「分裂しましたよ!? ………でも、なんか、新しい方は赤いですね」
リエの言う通り、新しく生まれたスライムよ色は赤く。ツノも最初の個体よりも凶々しい形になっている。
「え、増えてるじゃーん。可愛ぃ」
事態に気づいたコトミちゃんが増えたスライムを抱こうと近づいてくる。手を伸ばして赤いスライムを抱きしめようとした時。
スライムがコトミちゃんの顔に飛びついて、張り付いた。
「うぅっ!? い、いぎがぁぁぁ」
スライムに張り付かれて息ができずに苦しみ出す。このままでは危ないと私はスライムを引っ張って無理やり引き剥がした。
「大丈夫? コトミちゃん」
「あ、危なかったァァァァァ、もう少しで窒息するところだった」
真っ赤な顔で呼吸を整えるコトミちゃん。どうにか引き剥がせたは良いが、スライムがこんな危険な生物だったとは……。
しかし、最初の個体の時は襲ってきたりしなかった。となると……。
私はコトミちゃんから引き剥がした赤いスライムに目線を向ける。赤いスライムは地面を這いながら次の獲物を探しているという感じだ。
そんな赤いスライムにスキンヘッドがチキンを落っことした。皿から落としてしまったチキンをスキンヘッドが拾おうとしたが、そのスキンヘッドよりも早く赤いスライムは動くと、チキンに抱きついて包み込んだ。
「あぁ? なんだこのスライム。こんな色だったか?」
スキンヘッドがはてなを浮かべる中。赤いスライムに吸収されたチキンは溶けて吸収された。
「コイツ、俺のチキン食べやがった!!」
スキンヘッドがスライムに向けて文句を言っていると、チキンを食べ終えた赤いスライムは次の標的を決めた。
身体を縮めて、その標的に狙いを定める。
そしてスライムは勢いよく、スキンヘッドの顔に向かって飛びかかった。
「危ねぇ!!」
このままスライムに張り付かれるところだったスキンヘッドだが、後ろにいた京子ちゃんが危険に気づいてスキンヘッドの頭を木刀で殴りつける。
すると、上手いことスライムの飛びつきを避けることができて、スキンヘッドの顔は床に埋まった。
標的によけられたスライムは天井に張り付く。すると、不思議なことに天井にヒビが入っていく。
「なんて吸引力だ。しかし、危なかったな、スキンヘッド」
スライムのことを見上げながら、京子ちゃんが地面に顔が埋まったスキンヘッドを蹴る。スキンヘッドは意識を取り戻したのか、地面から顔を抜き出す。
「姉さんは俺を殺す気か!!」
スライムの吸引でも死んでいたかもしれないが、京子ちゃんの木刀もそれはそれでかなりの威力だった。そんな打撃を喰らってピンピンしてるスキンヘッドも凄いのだが。
「おいレイ!! また増えてるぞ!!」
黒猫が私の足に猫パンチをしてスライムの現状を報告してくる。
最初のスライムにまた目線を戻すと、まだ牛乳を飲んでおり、赤いスライムが大量に生み出されていた。
「……これってヤバいんじゃ」
増えた赤いスライムが一斉にこの場にいる人達に襲いかかる。
「いやぁぁっ!?」
無力な私はリエと黒猫を連れて、飼い主として無責任だが急いでスライム達から距離を取る。スライムが発生している部屋の端とは反対側へと移動して、振り返ると部屋の中は大騒ぎになっている。
しかし、今のところは被害者は奇跡的にゼロ。というか、いるメンバー的にそう簡単にはやられない。
木刀でスライムを薙ぎ払う京子ちゃんと、筋肉のプロテクターでスライムを寄せ付けないマッチョ達。他にも変身ヒーローや暴走族の元彼女など、どうにかスライムから身を守る。
しかし、物理攻撃ではスライムを倒すことができず、投げ飛ばしても復活してしまう。
「霊宮寺さん、このスライムってどれのプレゼントでしたっけ!?」
座布団を振り回してスライムを払いながら、コトミちゃんが私に尋ねる。
「美津子ちゃんから!!」
「美津子ちゃん、このスライムどうしたら良いの!?」
コトミちゃんは隣で戦っている美津子ちゃんに尋ねる。しかし、
「ウホウホ……」
「ゴリラァァァァァ!!!!」
隣にいるドレスを着たゴリラにコトミちゃんは大口を開けて吃驚した。
「え、え!? なんでここにゴリラが!?」
「安心してくださいませ。私ですわ」
「え、美津子ちゃん!? なんでゴリラ!? え!?」
「そういう変身ですわ」
ゴリラの姿で可愛らしい仕草で返答する美津子ちゃん。とりあえずは声から同一人物であると判別したコトミちゃんは、対処法を尋ねる。
「何か方法はないの?」
しかし、美津子ちゃんは胸を張って、
「分かりませんですわ!!」
「役に立たないぃぃ!!」
対処法が分からず、赤いスライムに苦戦する。そんな中、一匹のスライムが京子ちゃん達をすり抜けて、私達の方へと寄ってきた。
防衛手段のない私達は逃げ場もなくし、スライムに追い詰められる。
このまま謎のスライムに吸われて食われてしまうのか……。
「そんなのイヤァァァ!!」
スライムが飛びつこうとした時だった。横から最初のスライムが飛んできて、赤いスライムに体当たりをして私たちを守ってくれた。
「あなた、私達を守ろうとしてるの?」
私がそう口にすると、最初のスライムは身体を上下させる。その動きは頷いているということなのだろう……。
最初のスライムだけは敵じゃないと分かったところで、リエが私の服を引っ張る。
「レイさん、レイさん。赤いスライム達はあのスライムから分裂したんです。偽物は本物に敵わない、きっと勝てますよ!!」
「そうね。きっとそうよね!! さぁやってしまいなさい!! スライム1号!」
名前を決まっていないため、適当に叫んで戦うように促す。その声に反応してスライムもやる気のようで、赤いスライムに向かって飛びかかった。
しかし、赤いスライムはあっさり躱して反撃の体当たりで、最初のスライムをKOした。
「「「弱っ!?」」」
私とリエ、黒猫はそのスライムの弱さに思わず叫ぶ。本物は偽物よりも弱かった。
体当たりされてコロコロと転がってきたスライムを私は抱き上げる。
「一撃でかなり弱ってる……」
「これこそ最弱モンスターって感じですね。赤いのは最強モンスターですけど……」
このままでは赤いモンスターに世界が蹂躙されてしまう。京子ちゃん達も戦闘で疲労してきたのか、徐々に押され始める。
「このままじゃ……」
そんな時、弱っていた最初のスライムが私の胸の中で形を変える。弱っているため動きは遅いが、何かを訴えようとしている様子だ。
「この形……」
身体をギザギザにさせて、うねらせる。波? トゲ? っと色々浮かんだが、全て違うとスライムは首を振る。それから当てずっぽうに答えていき、十回目を越えようとした時。
「火? …………火ね、火なのね!!」
「火が弱点ってことでしょうか?」
「どっちにしろ。試すしかないよ!!」
スライムが伝えようとしていることが奇跡的に分かった私は、戦闘中のレッドに叫ぶ。
「レッドさん、このスライムもしかしたら火が弱点かも!!」
「火だと……そうか、なら俺の得意技だ!!」
レッドが両拳を握りしめると、両手が発火して腕を炎が包む。
「これでどうだ!!」
レッドが炎の拳で赤いスライムを攻撃すると、赤いスライムは炎によってドロドロに溶けて、復活しなくなった。
「本当に炎が弱点だ!!」
「それが分かればこっちのもんだ!!」
そこから先は戦況が逆転。赤いスライム達を火を使い、次々と撃退していき、全てのスライムの駆除ができた。
「ふ〜、どうにかなったみたいね……」
スライムを倒し終え、私はほっと肩を下ろす。
「お前は何にもしてないだろ」
黒猫が文句を言ってくるが、お前も何もしてないだろ。って言い返す気力もない。
荒れてしまったパーティ会場で、変身を解除した美津子ちゃんが皆に頭を下げる。
「私の持ってきたプレゼントでこんなことになってしまって、ごめんなさいですわ!!」
「良いのよ。どうにかなったし……」
家の中がスライムまみれになった京子ちゃんは少し不機嫌だが、スキンヘッドがどうにかしてくれるだろう。
「私がプレゼントしたものですけど、そのプレゼントは私が責任を持って管理しますわ。代わりに別のプレゼントを用意します」
美津子ちゃんはケージを持ってきて、スライムを入れようとする。しかし、私はスライムを抱き上げると、
「本当は美津子ちゃんに返した方が良いのは分かってる。でも、この子、私達のことを助けようとしてくれたの、だからも少し一緒にいさせて」
もしも美津子ちゃんに返して、このスライムがどうなるのか分からない。危険な生物というために厳重に保管されるかもしれない。
「……今回は私が周りを見てなかったのが悪かったのよ。もうこんなことにはさせない。せっかく貰ったのよ、返品はさせないよ」
「霊宮寺さん……。何かあれば、すぐに言ってくださいですわ!!」
どうにかスライムを引き取られずに住むことができた。
それからは部屋の片付けをスキンヘッドとその子分達に任せて解散。私達は事務所に帰ることにした。
夜道でリエがケージの中を覗き込んで聞いてくる。
「レイさん、なんでそのスライム、そこまでして連れて帰るんですか?」
「ん、この子結構賢そうなのよね、言葉わかってたし……。教育すれば色々使えるかも……」
後日、このスライムに家事を仕込もうとするが、失敗したのであった。




