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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?  作者: ピラフドリア


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第80話 『故郷へ』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?




著者:ピラフドリア




第80話

『故郷へ』





 窓を覗けば大空が広がる。広い広い世界は無限の彼方へと続き、果てしない大空を白い鳥が羽ばたく。




「はぁぁっ、レイさん寝ないんですか?」




 隣の席に座る楓ちゃんが欠伸をしながら腕を伸ばした。




「もう十分寝たよ。それにもうそろそろ着く頃よ」




 私は腹の上で熟睡をするリエを乗せながら楓ちゃんに伝える。










 一面を白銀が覆う。空にいた時とは景色が一変し、別世界へとやってきたことを実感させる。




「ここがレイさんの故郷ですか〜」




 リエがいつもの白い着物で、寒そうにしながらもキョロキョロも見渡す。




「ええ……帰ってきたのね」




 私とリエが空港の窓から外の景色を見ていると、ケージを手にした楓ちゃんが受付から戻ってくる。




「お待たせしました!! 師匠とミーちゃんを連れてきましたよ!!」




「お、ありがとう楓ちゃん!」




 楓ちゃんに礼を言ってケージを中を覗くと、黒猫は早く出せと目で訴えてくる。しかし、空港で出すわけにもいかず、そのまま楓ちゃんに任せる。




「これからどうするんですか?」




 初めての海外にリエが目を輝かせながら尋ねてくる。私は英語で書かれた地図を開くと、ジーッと内容をガン見して解読して行く。




「きっと、バスで移動するのね……。そう、そうに決まってる!! さぁ、出発よ!!」




「本当に大丈夫ですか?」




 不安が残る中、雪の世界へと身を投じた。









 私の故郷は雪の多く降るカナダの都会から少しズレた街。正確には故郷といっても何度も引っ越しをしており、そのうちの一つというだけだ。

 それに今から向かっているのは、私が住んでいた家ではない。私の最後の記憶にあるのは国境を超えた別の場所だし、実際に故郷といえるかは怪しいところだ。




 ──だが、帰る必要が出てきた。




 バスに揺られて数時間。間違えもあり遠回りをすることにもなったが、どうにか目的にたどり着くことができた。




 そこは古びた一軒家。日本と違い広い庭があり、庭には長い時間放置されているのだろう。雪で完全に埋もれてしまった車が止まっていた。

 私はリュックの中から送られてきていた鍵を使い、中へと入る。中はカーテンが閉められているため、暗く風通しも良くない。




 ひとつひとつ部屋の扉を開けて、家の中を確認して周り、一通り探索したのち誰もいないのを確認する。家の中には人の気配はなく、私はその様子を見てからリエに質問をする。




「幽霊って移動することもあるの?」




「あるにはありますが、取り憑くもの次第です。大抵の場合は地縛霊になりますから、死後から離れることはないですね」




「…………そう」




 リエの答えを聞き、リビングの椅子に座り、息を吐き出す。そして緊張が解けのか、どっと疲れが出てきた。

 家に着きやっとケージから解放された黒猫が、部屋の隅で丸くなりながら私の顔を見る。




「どうやらお前の母親はいなかったみたいだな」




「……ええ」




 私が小さく覇気のない声で答えると、黒猫は鼻から息をフッと勢いよく吐き捨てる。




「なんだよ、良かったろ。未練なく行けたってこった、会えなかったのが寂しかったか?」




 冗談混じりに言ってくる黒猫だが、今日は気分的に乗ってやる気にもなれない。




 実際会いたかったかと聞かれれば、会いたくはなかった。だからいなくてホッとしているのが本心だ。

 だが、寂しさはある。いや、寂しいというのは正しくない。悔しいの方が強いだろう。あれだけのことがあって、未練もないのか……。もっと苦しんで欲しかった。

 地獄があるのなら地獄へ行ってほしい。そう本心で思えるほどに、私の心は暗く深くぶつけられない思いで煮えていた。




 そんな私の心が顔にも現れていたのか。黒猫は壁に張り付いた状態のまま、リエと楓ちゃんを呼びかける。




「おい、楓。リエでも連れて外で雪で遊んでこいよ。かまくら作れるぞ、かまくら!!」




「かまくらですか〜、そうですね〜東京だとそんなに雪降りませんし、ここなら思う存分大きなかまくらが作れそうです!! じゃあ、完成したら師匠も入ってくださいね!!」




「お、おう……」




 楓ちゃんが黒猫が自身の作ったかまくらに入ってくれると聞いて、嬉しそうにはしゃいでいる。

 さらにリエはフワフワと飛びながら腕を組んでドヤ顔をする。




「なら、私は雪でお城を作って見せましょう。鉄壁のお城です、武田信玄だろうと上杉謙信だろうと、誰が攻め込んできても落とせない最強のお城です!!」




「雪でなんてもの作ろうとしてんだ!! …………まぁ、良いか。さっさと行って来い」




 黒猫は壁から動かずに二人を外に出るように急かす。二人が外に出るのを確認し、黒猫はホッと息を吐き出す。




「なぁ、レイ。お前、どうしたんだよ」




 そして珍しく怒鳴る感じではなく、語りかけるような優しい声で口を開く。私のどこにもぶつけられない気持ちを察したのだろう。だから、リエ達を外に出してから話を切り出した。

 タカヒロさんらしいといえば良いのか。こうして気を遣ってくるのは……。

 そういうところは感謝したい。したいのだが……。




「それよりなんでアンタ、壁際にいるの?」




 ケージから出てからの黒猫の様子がさっきからずっと気になっていた。




 さっきまではそんなこと気にもならなかったのに、少し心に余裕ができたのか。物凄く気になる。どうしようもなく気になる。




「おい!? この空気でそれ聞くか!? なんで今なんだ!! ……猫にとっては慣れない場所はストレスなんだよ!! 気にすな!!」




 律儀に理由を教えてくれる猫博士。この猫博士がそう言っているから、慣れない場所は猫にとって辛いのだろう。

 これで疑問も晴れてスッキリ……というわけにはいかない。




 私はテーブルに両腕を置くと自分の腕を枕にして、顔をテーブルに乗せた。そして顔を横にして黒猫を覗き込む。




「ねぇ、アンタ。それ聞くためについてきたの?」




 本来、この度は私に取り憑いているリエが付いてくれば十分な旅だった。それなのにこの変態クズ猫博士がついてくるとか言い出して、大変な旅になってしまった。

 猫を飛行機に乗せるだけでも大変だったのに、師匠が行くなら僕も行くと楓ちゃんまでついてくる。それにこの猫は楓ちゃんにくることを勧めるし……。




 私の問いに黒猫は目を半開きにして、どうでもよさそうに、




「はぁ? ついでだついで。たまには海外を旅行っても良いかなぁって思ったんだよ!!」




 そう壁に張り付いた姿勢で言い張る黒猫。そんな態度の黒猫に私は揶揄うように、過去の発言を掘り下げる。




「ミーちゃんのストレスになるから、国外国内どこだろうと旅行になんて行くかって言い張ってたアンタが?」




「心変わりしたんだよ、バカやろー!!」




 尻尾をブンブン振って明らかに動揺を見せている。そんな黒猫の様子に私はクスッと笑いが漏れる。




「おい、今笑ったか?」




「笑ってない」




「笑っただろ」




「笑ってない」




 こんなくだらないやり取りをし、このまま終わらせるのかと思ったが、黒猫は息を吐き出すと、




「手紙が来た時、お前寂しそうな顔をしてたろ。……その、なんだ。ちょっと心配だったんだよ」




 珍しく本音を言い出した黒猫。本音を言ってくれたことに嬉しさも感じるが。






 ──私そんな顔してたかな? ──






「そうね……」




 私は身体を起こすと窓から外の様子を見る。窓の外では、巨大な玉を転がしている二人の様子が見える。

 そんな二人の姿を見て心を落ち着かせてから、私は席をたった。そしてカーテンを閉めて外から中の様子が見えないようにする。電気のついていないため、薄暗くなった部屋の中で、




「後悔しないでよ」




 私はまず上には追っていたジャンバーを脱いで椅子にかける。さらに上着も脱いでテーブルに置いた。

 黒猫からの目線を感じる中、私は最後の一枚に手をかけ…………。




「おい待て、なんで脱いでんだ?」




 黒猫がガン見しながら冷静を装う。テンパってるようだが、いつもよりも声が高い。一応冷静に、冷静に見せようとしているが失敗している。




「覚悟はできてるんでしょ。だからリエ達を外に出したんじゃない」




「いや、待て待て!? だからって、お、おい!?」




 少しずつテンションが上がりテンパり始めた黒猫。後でミーちゃんにこの事は言い付けるとして。

 私はテンパり始めた黒猫を無視して、私は黒猫に背中を向ける。そしてTシャツの後ろを捲り上げ、前の方を見えないようにしながら背中だけを黒猫に見せた。




 私の背中を見た黒猫はスッとテンションを元に戻し、真剣な表情に戻った。









 服を着る中、黒猫は壁に張り付いたまま、過去のことを振り返る。




「そうか、だからお前。プールの時も海の時も。水着の露出が少なかったのか」




「アンタ、そういう目で見てたの……!?」




 黒猫の変態発言に引きながら、着替え終えた私は椅子に座り直した。私が座り直したと同時に、黒猫は床に平べったくなって伏せる。




「母親から……か。そうだったのか。そりゃ、幽霊になってて再会したら気まずいな」




 背中の傷を見せたことで黒猫は納得した様子だ。

 黒猫に話したことで少し気分が楽になった気はする。私は背もたれに倒れ掛かり、楽な姿勢になる。




「恨みはあったから幽霊になって苦しんで欲しいって気持ちも少しはあったのかもね、本当は来る必要もなかったんだけど」




 母親が亡くなったということを手紙で知ったが、霊宮寺家に引き取られてから接点もなかった。今更、帰っても何もなかった。

 幽霊になっていたなら浄化しないと。そういう建前では来たが、本当は復讐心のようなものの方が強かったのかもしれない。そんな事はこの家に入るまで気づかなかったが、家の中を探索してやっと自分の本心に気づいた。




「そういえば、お前の兄貴はどうしたんだよ?」




「あ、お兄様は来ないよ」




「なんで、お前の兄だろ?」




 黒猫は首を傾げる。




「あー、お兄様のお母さんじゃないから」




「ん?」




 黒猫の首はさらに傾く。そのままオモチャのように首が回転しそうな勢いだ。




「お兄様は事故で両親を亡くして、それからウチに来たの。半年くらいは一緒に住んでたはずだけど、それからすぐに霊宮寺家に引き取られたから」




「そうだったのか!? 知らなかった……。しかし、半年世話になったんじゃないか?」




「まぁ、そうなんだけど。最近連絡取れないんだよね。秋くらいからどこに行ったか分からないんだよね」




 職業柄、国に戻ったというのも考えられる。何者かを追って日本に来ていたが、その犯人を逮捕して米国へ帰ったとか。

 しかし、それにしては連絡が全く取れない。本当にどこで何をしているのやら……。




 私達が会話を終えると、窓を叩く音とリエの声が聞こえてきた。




「二人とも来てくださ〜い!! 出来ましたよ〜!!」




「はーい、今行くよ!」




 私はテーブルに手をついて立ち上がる。そして改めて黒猫の方を見た。




「色々思う事はあるけど。付いてきてくれてありがとね」




 感謝を述べると、黒猫は恥ずかしいのかそっぽを向いた。私は黒猫の方へ近づき、持ち上げるといつも通りの定位置である頭の上に乗せた。




「さ、二人が待ってる。行くよ!」




「ああ、二人が何を作ったのか見に行くか!!」







 その後、外に出ると雪出てきた立派な城が立っており、後日テレビで取り上げられていたのは別のお話。








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