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空色の魔女見習い  作者: アル
第一章 転生の魔女見習い
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おはよう その二

 リアが部屋を出ていって戻ってくる間に私はネグリジェを脱いで下着だけの姿になっておこうと思ったけれど、そうしている間に既に彼女はお湯の入った湯桶と体を拭くためのタオルを何枚か持って戻ってきていた。

 よくよく考えればだけれど、人前で服を脱ぐのだとか人に肌を見られるのは恥ずかしいとかそういうのはとっく気にしなくなってしまっていた。彼女をはじめ、今までいた従者もみな当たり前のようにしていたせいで感覚が麻痺しちゃっているのかもしれない。まぁ、これからもこれまでもずっと行われることを気にし続けても意味はないよね。


 彼女がタオルを用意してくれるのを私は眺めて待ち、お湯に浸したタオルを絞り終わったところで「お待たせいたしました」というセリフにお礼と共にそのタオルを渡してもらえるように手を差し出す。


「いつもありがとう」

「当然のことですので」

「ほら、貸して」


 リアは不満げな表情を浮かべながらもそのタオルを差し出してくれる。

 世話好きな彼女の事だ、ほんとうは自分で私の身体を拭きたい、と言うよりは世話を焼きたいのだろう。別にそれに甘えても良いのだけれど私にはできる限りは人に肌を触れさせたくない理由がある。その理由が大事でそれこそが私がこうした行動をする最大の理由なのだけれど、でも結局のところは気恥ずかしいだとかそう言うのもあって私の覚悟が足らないだけなのかもしれない。


 そうして背中以外の部分が拭き終わったところで用意してくれた乾いたタオルを交換するように受け取り、それと同時に彼女に対して背を向ける。

 背中だけは拭くのが大変だし全て一人でしてしまうのも彼女の仕事をとってしまっているようで申し訳ないという理由で手伝ってもらっていた。そうして私が自身の身体を拭いている間に背中に同じような力を感じる。それはとても優しくて、少しでもこの肌に傷をつけてはいけないとでも言いたげなほどにか弱い力だった。


 それから私が身体を拭き終わった時、いつの間に用意したのだろう、リアはすでにクローゼットから下着と普段着を用意して待機してくれていた。それからは特に会話もなく用意してくれたものに着替えて最後に髪の手入れをしてもらっているところだ。

 リアは今は慣れた手付きで編み込みをしてくれているのだけれど、その様子を鏡台の鏡越しに私がぼうっと眺めていると不意に目が合う。そうすると優しげに笑みを返してくれる。それが少し嬉しくて私も同じように笑みを浮かべてしまうんだ。

 

「また、夢を見ていたのですね。今回もまたあの時の夢なのでしょうか」


 なんの気もないように言われた言葉に私は内心驚いてしまった。以前には夢の事を彼女に話してはいたけれどまさか今回はなす前からばれてしまっていたなんて思いもしなかったな。リアはエスパーなのかな。人の心を読めるとか?

 そんな見当違いな私の考えに応じるようにすぐさま彼女は答えを教えてくれる。


「理由を述べてしまえば、この時期になると姫様はいつもその夢を見たと仰りますので今朝の様子と併せて推理してみたままでございますよ」

「それもそっか。でもよく覚えてるね。話していたとしても滅多に話すことじゃないのに」

「主人のことでございますもの、一挙手一投足を見逃す気はございませんよ」

「あはは……あんまり気負いすぎないでね」

「日々楽しく過ごさせていただいてございます」


 それは良かった……のかな? 楽しく過ごせてくれているのなら私としても彼女を従者として受け入れた甲斐はあったと思う。


「姫様はもう少し他人を頼るべきかと存じます」

「え?」


 それもまた不意に言われたことだからか何も考えずに反応してしまったけれど、それでもなんとはなしに言おうとしていることはすぐに理解できた。そんな私に彼女は言葉を続ける。


「姫様は聡い方ですので誰に聞かずとも、そして頼らずともどんな問題でも大概は易々と解決されてしまうでしょう。けれど、いずれはそんな姫様でも困難にぶつかることもあるでしょう」

「それもそう……かもしれないね」

「だからこそでございます」


 半分は私にちゃんと伝わるようにしっかりと丁寧に、それでももう半分は想いをぶつけるようにとまくし立ててはなす彼女に相槌を打ちながら自分でも頭を働かせ考えてその話についていく。

「だからこそ」と、そこまで言ったところで言葉を切り息を整えてから、彼女は今回一番伝えいたかったことを話してくれた。


「誰でもいいのです。私でなくとも、その時に近くにいた信頼できる誰かを頼っていただければ、と私は心より願ってございます」

「……よく覚えておくね」


 そう私が返事したところで「はい」と彼女も答えながら両手で肩をポンかるく乗せるように叩いてくれたのだけれど、どうやらそれは身支度が終わった合図らしかった。

 そうしてすべてが終わったころ、私は今まで座っていたスツールからおもむろに立ち上がり、凝り固まった体をほぐすように背伸びをしてから姿見に目を向ける。

 そこに映る私は白と青地の膝上ほどまでの所謂軍服のようなデザインのワンピースを身にまとっていて、髪にはカチューシャのような形になるようにきれいな編み込みが結われていた。


「それじゃあ、今日も一日頑張ろう!」


 どんよりとした気分を入れ替えるために声を上げる私とそれを微笑ましそうに見守ってくれるリア。

 どんなひどい夢を見ようとも、今日も新しい一日が始まったのだった。

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