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空色の魔女見習い  作者: アル
第一章 転生の魔女見習い
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おはよう その一

 浮上する意識、その先あったのは夢から覚めたばかりの私の身体だった。夢から目が覚めたばかりで未だに重い身体を無理に起こしてこれまた重い瞼を擦る。それでも身体は眠気を我慢できないようで力無くパタリと倒れてしまう。

 瞼が開きかけてきたところであたりを見渡すと視界に映るのもちろん、私の部屋だった。

 白い天井と落ち着いた色合いの壁に簡素な家具と調度品の数々、それは到底王族のイメージとは程遠いものだ。


「そりゃ……夢だよね」


 小さなため息をつきつつふと漏れてしまったそんな独り言。


「あーべとべとだぁ……」


 眠っているときに随分と寝汗をかいてしまったみたい。衣類が肌に張り付く感じが少しだけ気持ち悪い……。

 とにかく目を覚ますために体を動かさないと、と眠っていたベッドの上を這う様に移動して何とかやっとの思いで縁にまで到達するとそれからは身体をもう一度起こしてから先に足を放り出してからゆっくりと立ち上がった。

 

 ふらふらとした足取りでのっそりと歩いて部屋の隅、鏡台の前に置かれたスツールへと腰かけ、落ち着いたところで鏡台とは別に傍らに置かれた全身を見渡せるほどの姿見に目を向ける。


 その鏡に映っているのはアイリスフィア・ワイス・ロードノア、私自身。あの日に洗名を受け、月日が流れて十四歳となった姿だった。厚手のネグリジェに身を包んで、気だるげな表情の青い瞳とセミロング程度に伸ばした空色の髪。お母様譲りであるこの髪色が私はお気に入りなんだけれどその髪も今は寝起きだからか何故かは知らないけれど精彩を欠いてしまっているみたい。


 多少身体を動かしたところで少しずつ意識が覚醒してきて頭を働かせられるようになってきた私は、鏡台から取り出したコームで髪をかるくなでながら改めてあの日のことを思い返していく。

 洗礼の日、あの日に私は希望と絶望を同時に貰ったんだ。

 この世界は魔法で満ちている。でも私に魔法を使うことはできなかった。……それでしばらくは抜け殻のようになっていたこともあったけれどそれと同時に希望もあった。


――魔女。


 洗名として私が受けたその名前には必ず意味があるはず。そう思って私は一念発起して今日のいままでその道を、魔法を使えるようになるという道を探してきた。それからはその研究にのめり込むようになってしまったけれどそれのお陰もあってか今となってはある程度の解決策も見えてきたところなんだ。


 コン、コン、コン


 髪の調子を少し整えたところで一旦手を休める。それから「んー」と小さく声を漏らしながら掌を上に向けるように大きく背伸びをしたところで不意に部屋の扉から聞こえてきた小さなノック音。


「おはようございます、姫様」


 扉の向こうから聞こえたのは感情を感じさせない声。その声に返事を寄越そうとするけれど、元から私が起きてはいないと思っていなかったみたいで返事をする間もなく扉は開かれた。


「おはよう、リア」

「あら、既にお目覚めだったのですね。明日は雪でも降るのでしょうか」

「朝からご挨拶だね……」

「ふふふ、もちろん冗談でございますよ」


 そんな会話をしながら挨拶と共に姿を見せたのは癖っ毛のある肩にかからないぐらいの黒に近い灰色の髪、金色の瞳を持った若い女性。

 リアは私の専属の従者だ。彼女は給仕服をまとい、入ってきた扉を静かに閉めてから扉の前に待機している。

 ちなみに主従の会話にしては少し砕けた会話ではあるけど私には咎めたりする気は全くない。むしろアイリスとしてのよりも前世の人格が強いせいで畏まられるのは結構しんどいんだよね。

 

「……お嬢様?」

「うん?」

「顔色が優れないようですがいかがなさいましたか?」


 さっきまで人のよさそうな表情だった彼女は、こんどは心配そうな表情になってそんなことを聞いてくる。

「大丈夫」と私は答えてから片手で胸元をひらひらを揺らしながら「それよりもちょっと汗かいちゃった」と彼女に心配はいらない様に示すことにした。


「大丈夫ならいいのですけど……それでは多少準備に時間はかかりますけど朝食よりも先に湯浴みにしますか?」

「身体拭くだけでそこまでしなくていいよ」

「ですが汗をかいてしまったのなら清潔にしませんと――」

「いいからー」

「……畏まりましたすぐに準備をしてまいります」


 私はネグリジェから手を放して今度はその手だけをゆらゆらさせて本当に心配ないという意味を込めて彼女を急かすと彼女は不満ながらも納得してくれたようで丁寧に一礼をしてからせわしなく部屋から出て行ったのだ。

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