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空色の魔女見習い  作者: アル
第一章 転生の魔女見習い
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忘れられなかった悪夢

 私には前世の記憶がある。


 最初は小さな違和感だった。初めてそれに気がついたのはわたしが五歳だった頃だ。見覚えのない景色、身に覚えのない経験。パズルピースの様なその記憶達はわたしが成長するにつれて徐々に増えていった。

 それからニ年後、私が七歳になる頃にはただの違和感だったその記憶達はわたしの内に溶けていき、今まで見つけたものの殆どが溶け終わった頃にはそこには前世の記憶を持つ私としての意識や想いが確かに存在していた。


 この世界は魔法に満ちている。


 私はそんな世界が、魔法が好きだ。誰かを好きになるような、恋をしているようなそんな想い。それこそが私が前世から受け継いだ確かな想いの一つである。


「アイリスフィア姫様、こちらへお越しください」

「はい」


 アイリスフィア。アイリスフィア・ロードノア、それが今世での私の名前だ。ロードオア王国現国王の第一王女のアイリスフィア、それが私だ。


すべての準備を終えたのだろう、先ほどから何か準備をしていた老人が少し離れた教壇のようなものの上から優しげな微笑みを浮かべならがら私に話しかけてくる。


 今、私の眼下には子供程度の身長など優に超えてしまうほどに大きな魔方陣が白く恍惚と輝いている。だがそんなことはさておき、返事をしたからには相手を待たせぬようにと観察はほどほどにして疾くと歩き始める。向かう先は件の魔方陣の中央へと。


 今日は私が待ちに待ったとても大事な日なのだ。


 『洗礼』の魔法、それが眼下に広がる魔方陣の正体である。七歳を迎えた貴族の子供は『洗礼』の魔法を受けて初めて魔法が使えるようになる。


――これでやっと、ずっと憧れていた魔法が使えるんだ!


 表情では努めて冷静さを演じながらも心の奥底では今にも舞い上がってしまいそうな感情があふれている。


「緊張しなくてもよろしいのですよ」

「あ……はい、ありがとうございます」


 別に緊張ではないのだがポーカーフェイスを装っていたせいで表情が硬く見えてしまったのだろうか。少しばかり表情を崩し微かに笑みを浮かべた。


 私は魔方陣の中央についたところで改めて周りを見渡す。そこそこの広さのあるこの部屋は洗礼の間と呼ばれる洗礼の日だけに解放される部屋である。目の前の少し離れたところにある教壇の上では相変わらず人のいい表情で老人が立っており、その老人の目の前ほどの位置には私の胸元ほどの高さのある台座が鎮座している。そこから目を離し右方を見れば現国王である私の父と第一王子の兄が見守るように立っている。


「姫様、準備はよろしいでしょうか?」

「いつでも大丈夫です」

「それでは始めましょう」


 その返事を良しと心得、老人は『洗礼』の魔法の総仕上げに取り掛かる。


「『光よ』」


 呪文、祝詞、それは魔力を導く言葉。それらの導きによって魔力は世界へと影響を与える力になる。


「『彼の者に祝福を』」


 光の奔流だ! そう脳が認識すると同時に魔方陣が強く光り輝く。その輝きの強さに思わず私は目を瞑ってしまった。


 真っ白な世界の中、はっきりと聞こえた聞き覚えの無い一つの声。


――魔女(ワイス)


 えっ? っと反応する間もなく瞑っていた瞼の上に覆いかぶさっていた輝きは収まっていてそれを理解すると同時に瞼を開いた。

 先ほどの声の正体を探ろうとすぐさま辺りを見渡すが、次に映った景色は光を失いある意味ではただの落書きとなり果てた魔方陣があるだけでそれ以外には何の変化も見つけることはできなかった。


「……終わったのでしょうか?」

「はい、お疲れさまでした姫様」

「あ、ありがとうございます……あの、一つお聞きしたいのですが!」

「おや……いかがなさいましたか?」


 興奮冷めやらぬといった私の大声にも表情一つ変えずに答えてくれる老人に矢継ぎ早に質問を投げかける。


「――先ほどの魔法、途中で聞こえた魔女とはいったい何のことでしょうか?」

「なんと! アイリスよ、洗名を受けたのだな! それも魔女とは!」

「えっ、あ、そうなのです……かね?」


 答えが聞こえたのは前方からではなく右方からであった。答えの主は国王テオドール・レクス・ロードノア、私のお父様がこちらに近づいてきながら発した声だった。

 そんなにまくしたてるように言われても私としては何もわからないのだけれど……そんなにいいことだったんだろうか?


「こうしてはおられぬ今すぐにでも王国全体に告知を……いや先ずは枢機卿!」

「心得ておりますとも、落ち着いてくだされ」

「私は十分落ち着いているぞ。とにかく調べてくれ」

「……はあ、昔からお変りになりませんな。まぁいいでしょう、姫様混乱しているでしょうけれどともかくこちらへ」


 このお爺さん、枢機卿ってことは偉い人だったのかな。


 お父様とは対照的に落ち着いたままの枢機卿様に呼ばれ、ぱたぱたと私が向かっていったのは先ほどから見えていた台座の元だった。離れていた時にはよく見えなかった台座の上にはこれまた魔方陣……と水晶玉、だろうか。魔方陣の中央と均等な六方向の端っこに置かれた水晶がある。中央には無色の水晶があり、六方向の右側にはには赤、緑、紫が左側には青、橙、黄の水晶が順に並べられていた。


「これは触れた者の魔法適正を調べられる魔道具になります。急かすようで申し訳ありませんがこちらにお手を」


 そうして指示されたのは中央の水晶だ。迷わずその水晶に手を乗せる。

 直ぐに私の中から何かが吸い出されるような不思議な感覚がして、間もなく手を乗せた水晶と魔方陣自体が淡く光ったのだけれど、ほかの水晶には何の変化も見られなかった。


「これは……一体」

「なにかおかしいのでしょうか」

「……いえ、魔道具は正常に機能しております」

「それでは一体とは……?」


 言外に何故? という意味合いを込めての質問に枢機卿様は苦々しい表情ですっかりと重くなってしまった口を開く。


「姫様、気を確かに聞いてくだされ」

「は――」


 何か嫌な予感がした。


「姫様には魔法の適性が見受けられませんでした」


 なにそれ? 魔法が使えないってこと?


「何? 間違いではないのか? 魔女の洗名は――」


 最後にお父様の焦ったような声を最後に、その絶望から心を守るようにぷかぷかと浮かび上がるような感覚と共に意識が身体から途切れてしまった。


 それが私の魔法との初めての出会いだった。

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