10.『君の名は*』(2)聖地巡礼考察
前回に引き続き、『君の名は』と『君の名は。』の比較です。
『君の名は』では主人公二人がすれ違いを繰り返す中で、舞台が日本国内のあちこちを転々とします。協賛には各地の自治体や交通関連の企業が名を連ねており、地域の観光振興に一役買いました。経済成長で国内旅行が拡大する中で、多くの観光客が撮影地を訪れたのです。
表に示しますように、対象地は名所や景勝地が主体でした。この観光は作品の舞台であるがゆえに人が訪れたというよりも、作品の舞台であることをきっかけに人が訪れたという性質の強いものでした。今でいえば、『サザエさん』のオープニングです。月替わりでサザエが各都道府県の観光地を旅をするというものですが、あれを見て、楽しそうな場所だから行ってみたいと思う人はいても、サザエの旅程をトレースしようと考える人は稀でしょう。
翻って『君の名は。』では「聖地巡礼」が話題になりました。この用語自体は古くから使われておりましたが、2016年のユーキャン新語・流行語大賞トップテンにも選出されていますように、『君の名は。』によって普段アニメに関心がない層にまで広がったと言えましょう。
三葉の住む糸守町のモデルの一つとなった岐阜県飛騨市の飛騨市観光協会のホームページでは、聖地巡礼のコースが紹介されています。
http://web.archive.org/web/20160925171505/http://www.hida-kankou.jp/model/1000000603/
コースの中で合わせて訪問することが推奨されているように、飛騨市には作品とは無関係に魅力的な観光名所が多くありますが、聖地になっているのはそういう場所ではありません。これはまさに観光は作品の舞台であるがゆえに人を集めていると言えます。もはや場所はどこでもよいのです。図書館、バス停、向かいのホーム、路地裏の窓、こんなとこがただ作品に登場したというだけで聖地になるのです。
この点に関しては、本来的な意味での聖地に非常によく対応しています。例えば、サンティアゴ・デ・コンポステーラはカトリック三大聖地の一つに数えられ、多くの巡礼者を集めていますが、奇跡的に発見された聖ヤコブの墓がなければ、人口10万人にも満たない田舎町にすぎません。
どこでもよいというのはweb小説にとって光明です。「1.未開拓の領域はどこだ?」では金にならないと書きましたが、地域のプロモーションという観点からお金を引っ張ってくることができるかもしれません。この点も本来の聖地と同様で、サンティアゴ・デ・コンポステーラも、キリスト教徒によるイベリア半島再征服運動の強力なプロモーションとして創造され、今日に至るまでその威力を発揮しています(※)。
もちろんステルスマーケティングは嫌われますので、細心の注意を払う必要があります。『サザエさん』は最近、日産の露骨な宣伝をやって顰蹙を買いました。いっそ副題にネーミングライツを導入していた『秘密結社鷹の爪』の激情版シリーズのように、堂々とやってしまうといいかもしれませんが、聖地巡礼はややハードルが低いように思われます。『サザエさん』のオープニングもあからさまな宣伝ですが、批判的な意見は聞きません。
※大事なことなので繰り返しておきますと、この文章はフィクションです。




