11.『君の名は*』(3)コンテンツの寿命
昨日は(私基準で)多くの方にご覧いただいたようで、ありがとうございました。……調子に乗って長文になってしまいました。
『君の名は』と『君の名は。』の比較の三回目、今日で最後です。よく耳にする「近年ではコンテンツが短いサイクルで消費されるようになってきている。質の悪いものの使い捨てで後世に何も残らない」といったたぐいの主張について考えてみたいと思います。
「9.『君の名は*』(1)」でお示しした表をもう一度ご覧下さい。『君の名は』の観客動員は三作合計3000万人、一作当たりにすると1000万人で『君の名は。』の六割程度となっています。
両者を比較するには、社会における映画の位置付けの変化を理解しなければなりません。『君の名は。』の公開当時、映画はまさに娯楽の中心にありました。民間テレビ放送が東京と名古屋でようやく開始された時代で、映画全体の観客数は1955年で8億6千万人を超え、現代の5倍近くいました。にもかかわらず、『君の名は』はこの程度の動員なのです。
それもそのはずです。当時の映画はプログラムピクチャーと呼ばれ、大量の需要に応えるため計画的に量産されていました。ですから、番組編成も予め決まっており、ヒットしても次の映画にスクリーンを譲らねばなりませんでした。
対して、現代の映画館はより柔軟ですから、『君の名は。』はロングラン上映され、多くの人が楽しむことができました。
上の変化は映画に限ったことではありません。我が国の明治以来の小説の流通の変化を追いますと、次のようにまとめることができます。
①新聞の時代
日本における近代的な小説の始まりは新聞でした。当初、庶民向けの小新聞に連載され、後に大新聞も掲載を始めました。明治後期になると、家庭小説と呼ばれる女性向けの通俗小説も登場しました。二葉亭四迷や夏目漱石も新聞社の社員として筆を執りました。
②雑誌の時代
1920年代の歴史小説を中心とした大衆小説の登場とともに、雑誌が主役になりました。『キング』や『週刊朝日』などが当時の中心でした。のちには『オール讀物』『講談倶楽部』のような小説主体の雑誌が刊行し、戦後の中間小説の発展につながりました。
③書籍の時代
ミステリの拡大など、小説の分野が多様化、細分化するにしたがって書き下ろしで発売される作品が増えました。そうでない場合にも、連載開始時から単行本の発刊を前提に企画する場合が多くなったと思われます。ライトノベルに至っては、その誕生から文庫書下ろしが基本です。
※分野により変化のタイミングは異なるように思われます。『雑誌の時代』について見ても、純文学の五大誌が出揃ったのは1970年ですし、週刊少年ジャンプの発行部数ピークは1995年です。
①よりも②、②よりも③の方が長寿命であることは明らかです。この事実を見るだけでも、冒頭の主張は疑わしいと感じられます。ところが、この疑念をサポートするような、より強力な変化に我々は直面しています。
今日の図にお示ししたのは、1996年と2016年のカラオケランキングトップ30の発売年の構成です。
データ自体は以下によっていますので、個別の楽曲はリンクをご覧ください。
1996年:http://entamedata.web.fc2.com/music2/karaoke1996.html
2016年:http://entamedata.web.fc2.com/music2/karaoke2016.html
1996年のランキングはその年にリリースされた楽曲が過半で、最も古いものでも1994年です(小室哲哉すごい……)。一方、2016年ではその年にリリースされた曲は2曲しか入っておらず、1999年以前の曲も4曲入っています。
これはweb上のアーカイブにより古いコンテンツに触れやすくなった結果ではないでしょうか。今や我々は動画サイトを通じて過去の大量のデータに容易にアクセスすることができます。若い人が過去の名作に触れる機会も多いはずです。
勿論、カラオケの客層自体が変化している側面もあるでしょう。スピッツ『チェリー』(1996年5位、2016年22位)は同じ人がずっと歌い続けているように思われますし、石川さゆり『天城越え』(2016年30位)は元来通信じゃないカラオケで歌われていたのかもしれません。しかし、中島みゆき『糸』(2016年2位)は、シングル売上の面では歌手の代表曲とは言い難く(そりゃカラオケで別れただのうらみますだの歌われても困りますが)、結婚式にぴったりの曲としてスコップされた結果でしょう。
小説でも同じようなことが言えます。「小説家になろう」の累計ランキングをご覧ください。ポイント算出方法からすれば当然ですが、長きにわたりランキングにとどまっている古い作品がいっぱいあります。累計ランキングは初めて「小説家になろう」に来た人が見るであろう、言わば玄関です。現実の書店で、入り口の平積みが長期間変わらないなんてことがあるでしょうか? 過去の作品なんて直木賞すら絶版のオンパレードです。




