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第三十話 「悪の正人」

「新たに二人のギャングメンバーが治安維持部隊に投降したようです」

「ふむ...予想より多いな...どっちの方だ?」

「おそらく異端派かと...」

「なるほど...」


ニヤリと笑った男は秘書の報告を聞くと、再び目の前に並んだ豪華な食事の続きを楽しむことにした。

彼の名はレヴィアス・イール・ロルウス。コルノン市の市長、又の名を「飼育員」もしくは「自己中心男」と呼ばれる中肉中背の代表格と言っても過言ではない、なんともパッとしない姿をした男である。そんな男もコルノン市中心部の城壁内に存在する貴族の中では評判は良い方だった。その理由は単純で貴族に甘く、市民に厳しいからだ。レヴィアスがコルノン市の市長に就く前はコルノン市は今ほど治安が悪い市ではなく、市民の半分以上は職に就いていた。しかしながら、レヴィアス市長就任後、市の経済は大幅に悪くなり失職者が右肩上がりに増え、病気になる者も後を絶たなかった。失職者の住居を次々と奪う一方で貴族の住宅は煌びやかになっていく。これが貴族から愛される市長になった理由の一つでもあろう。貴族は彼を無能の市長と陰で呼びながらも、自分達に有利な政策を持ってくるレヴィアス市長を金のなる豚として大切に育ててきていた。


(ここまで長かった...)


レヴィアスは己のこれまでしてきた「仕事」を振り返った。


市長就任後、すぐさまコルノン市の川全域に身体の一部機能を失わせるほどの毒をばら撒き、回復魔法が使える医療職員達を外部の市に金と交換で援助という名の医療の廃止を行った。そして各地に毒は伝染するという噂を広め、貧困層にはギャンググループを形成させ恨みを市民同士にぶつけさせた。さらに国にはソルジャーゲームのために提供する素材を増やすという提案を持ちかけ、見事地方援助金を獲得したのだ。


(なんとも...酷いことをしたものだ)


レヴィアスは己のこれまでしてきた「悪行」を嘆いた。


嘘ではなく、本心として。


彼は元々、コルノン市の市民だったのだ。成り上がりで市長まで漕ぎつけたレヴィアスは市民を貧困に追いやる決断をした。


それは、市民のために。


デヴォルカスの国民は定められた魔法を使うことしかできない。そもそも法律で認められていない魔法を使える者などいないのだが。


この縛りこそがレヴィアスの考える人類の進化の妨げであった。


人間の魂をエネルギー源とし発動する魔法は本来ならば無限の可能性を秘めた道具なのだ。にもかかわらず、ここ数百年の人類の文化レベルはちっとも進んでいない。


何としてでもこの大問題を打開する策を繰る日も繰る日も考え抜いたレヴィアスはある結論に辿り着いた。


政府の行動にこそ人類の進化に対するヒントがあると。


つまり、国民に魔法制限をかけているのは魔法制限が解かれた自由な魔法行使を政府が恐れていると。


デヴォルカスの生活は決して自由とは言えない。決められた日々が毎日毎日繰り返される日常は吐き気がするほどだ。自由な日常。必死に生きる日常があればこの状況を突破できるのではないかと考えたレヴィアスはデヴォルカスに滅ぼされた国々の歴史を参考にコルノン市を貧困に変えることにした。


貧困になれば必死に生きねばならない生活が待っている。そして金と地位に縛られた雁字搦めの日常はなく、毎日が非日常。そんな非日常で生活する者ならば、環境に適応するため本来は制限されている魔法を使えることができるようになるのではないか。


この予想は見事に的中した。


ギャングのメンバーに所属する数名が治安維持兵ですら使ったことのないような特殊な攻撃魔法を使うようになったのだ。そして、医療機関がないのに関わらず回復魔法を扱える者達まで出現し始めた。


レヴィアスは見事証明した。


制限魔法を突破することが自力でできるということを。


人類の進化が止まってはいなかったということを。


だが、そんな彼らもソルジャーゲームの駒として政府に連れ去られてしまう。


「なんと酷いことだ...」

「レヴィアス市長...自ら悪者になってまで証明をしたではありませんか!」

「ヨースス。今まで俺を理解してくれた者はお前しかおらん...だが証明をしても実行をしなければ意味が無いのだ」

「ウィル・クェーサーという男がレジスタンスを引き起こしたのも偶然ではないかもしれませんよ」

「...あいつは気になっていたが...囚われたのだろう?」

「ええ...」

「俺は世紀の大発見をしたのだと思ったのだが...どうも...しっくりこない」

「...それはどういうことでございましょうか?」

「俺は政府側の駒に過ぎず、ただ単に政府のプロジェクトを進めるためにコルノン市を殺しただけなのではないかとな」

「それは否定できませんが...今年のソルジャーゲームは例年のものとは違うらしいです」

「何が違うのだ?」

「ベイジョン元帥殿直々のイベントという点です」

「ベイジョン...今まで政府が魔法を制限してきたくせにどうもこの頃、取締り方に一貫性がないと思ってはいたが...ついに動くのか?政府が」

「ええ... これは噂ではありますが...」

「スパイからの情報か?」

「左様でございます。今まで魔法を制限してきた政府が魔法の自由化、解放を図っているとのことです」

「!? 国民のためにそのようなことを政府が!?」

「...正しくはベイジョンに従う者にだと思いますが」

「『MAGIC CODE』を実行するならそれは無理だ。実行すれば思想、人種、あらゆる区別に関わらず、魔法行使者全員に効果が付与される。ベイジョンの思想に従うかどうかで割り振れるものではないだろう」

「何を考えているのでしょうかベイジョンは」

「それは俺も聞きたいね...これでは俺はどちら側につくべきなんだ...ベイジョン・ダウン・フォルスマスかウィル・クェーサー...悩みの種がまた増えたな」

「どちらについても殺されるのがオチですな」

「言うようになったのではないか!! ハハハハハっ!!」


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