BEHIND OPS:06
耳障りな警告音と赤色のランプが船内を支配する。
ここはヴァニッシュ艦隊メイン砲撃船、「ネブカドネザル」の中。
黒服姿の軍服達が船内を駆け回り、各々の射撃台に攻撃魔法を設定していく。
彼らの顔に不安は一切見られない。いつも通りの仕事をこなしているだけ。そして船長はデヴォルカス共和国最強の男だからだ。
ベイジョン・ダウン・フォルスマス。
デヴォルカス軍の元帥であり、今は代理のヴァニッシュ艦隊船長でもある。
黒軍服がベイジョンに状況の報告をする。
「元帥閣下。デヴォルカス海域に複数の亜神の存在を確認。魚人族と大型のフォササウルスのようです。」
「標準砲塔を使って牽制を開始せよ」
「はっ! 全艦に告ぐ。標準砲塔で対象に向かって撃ち方始め!!」
黒軍服はベイジョンの指令を聞くとすぐさま通信マジックアイテムを使って全ヴァニッシュ艦隊に指令を伝えた。
数秒後。
爆音と共に連続した砲撃が始まった。
ドオオオオン!!!ドオオオオン!!!ドオオオオン!!!ドオオオオン!!!ドオオオオン!!!
ヴァニッシュ艦隊は海面目掛けて攻撃魔法で強化された砲撃を打ちかましていく。
荒れる海でもしっかり目で確認できるほど巨大なしぶきが吹きあられ、あたり一面を覆う。
数百もの砲弾が海面下に存在する亜人達に注がれた。
爆発の海に化した水中であったが、亜人達の反撃が砲撃の鳴り止みを合図にして一斉に開始された。
ゴンっ!ゴンっ!ゴンっ!ゴンっ!ゴンっ!ゴンっ!ゴンっ!ゴンっ!ゴンっ!
ネブカドネザルの隔壁を亜人達が突き始めた。
亜人。その中でも魚人族に区分される敵は体の表面が鱗に包まれ、鋭い牙を持ち、頭の先端には長い一角獣のような細長い角がある。手足は鳥のような細長い指の間に水掻きが付いているため水中でも自由自在にそして高速に泳ぎ回ることが可能だ。名前は「ソウフィッシュマン」。
ソウフィッシュマンは頭は人間ほど良くは無いが高い生命力と攻撃力を併せ持つため、アムソトラル王国がデヴォルカス海域に対して事あるごとに送り込んでくる特攻部隊である。
毎度のことヴァニッシュ艦隊が撃退しているのだが、攻撃の手が緩むことはない。
敵ながら同情しそうになるが、彼らにとって死はそれほど重要視されていないようだ。個よりも群に重きを置いた生命体ほど厄介なものはない。そももそ寿命も3年ほどしかないため、生死の循環サイクルも引くほど早い。
彼らの攻撃方法は基本的には2種類。
自慢の角による突撃と水系攻撃魔法『水流弾』だ。周りの水を圧縮させ、高速に水流をかけることによって水中にいながら無限に弾を生成することができる。この弾の威力は鉄の隔壁が変形するほどだ。
ギギギギっ! ベコンッツ!
ネブカドネザルの隔壁が悲鳴をあげ始めた。
「元帥殿。奴らの反撃が始まりました。どうされますか?」
黒軍服が若干だが不安そうな表情でベイジョンに尋ねた。
「ふむ。うるさいハエはこれでは鳴り止まぬか...ヴァークナイトの『千里眼』があればすぐに治るのだろうが...」
常時ヴァニッシュ艦隊の船長をしていたヴァークナイトは周囲の敵の位置を正確に把握することができる『千里眼』を持っているため、標準砲撃でも正確に敵を撃破することができたのだ。
「仕方がない。俺流でいこう。砲撃準備をさせたまま全艦隊を後退させろ。俺は今から甲板に出る」
「はっ!」
司令室に座っていたベイジョンは重い腰を持ち上げ、狭い船内の通路を抜けるとネブカドネザルの甲板に出た。
海上からは水中のソウフィッシュマンの姿はもちろん確認できない。
「ん?あのバカでかい背鰭は....フォササウルスのやつか」
荒れた海でもしっかいり目視できたネブカドネザルの全長にも匹敵する扇状の背鰭。
海のギャングとしても名高いフォササウルスの背鰭だ。
距離的には十分艦隊から離れているはずだが、面倒な敵である。
「では、まずはハエから処理していこう。<念力>」
ベイジョンが両腕を前に突き出し、掌を空に向けると
水中から次々と大量の魚とソウフィッシュマン達が上昇し始めた。
何が何だかわからない様子のソウフィッシュマン達は空中に浮遊しながら手足をバタバタと動かし抵抗をしている。
そして、空中に浮遊した魚、ソウフィッシュマン達が徐々にある一点へと集結し始め、群が形成された。
「全艦前方の塊目掛けて撃ち方始め!」
ベイジョンのすぐ後ろにいた黒軍服が指令を聞き取ると、すぐに甲板を降り司令室に指令を伝える。
数秒後ヴァニッシュ艦隊の砲撃が浮遊する塊目掛けて放たれた。
ドーーーン!ドーーーン!
一瞬にして塊は吹き飛び、魚の死骸、ソウフィッシュマンのかけらが海に落ちていった。
「今夜は魚料理だな」
ベイジョンがジョークをかましても聞くものは誰一人甲板にはいない。
すると、
バコーーン!!という衝撃とともにネブカドネザルの船体が大きく傾き始めた。
「なっ!? フォササウルスか!!」
ベイジョンが衝撃のした方を振り向くと先ほどかなり前方に存在していたはずのフォササウルスの背鰭がネブカドネザルのすぐ真横に現れていた。
「元帥閣下!!」
先ほど司令室に報告にいった黒軍服が甲板に再び姿を現した。
「全艦ジャインアントレールガンの準備! フォササウルスを艦隊が離れた瞬間を狙って砲撃開始だ!」
「はっ!直ちに!!」
さすがの百戦錬磨のベイジョンでも船ほどの大きさの相手と戦ったことはない。だが、そんな強大な相手でも怯まず戦ってきたらからこそ彼はデヴォルカス軍のトップに立つことができたのだ。
ブウウイイイイン!!
ネブカドネザルの魔法軍用兵器「ジャインアントレールガン」が攻撃魔法を充電する音が聞こえた。
「デカブツめ! <念力>!! うをおおおおお!」
ベイジョンがフォササウルスに向かってどんな物体でも自由に操作することができる攻撃魔法<念力>を発動した。
すると、フォササウルスが抵抗するように体を捻り、巨大な尾鰭をネブカドネザルの側面に叩きつけた。
ヴォオオーーン!!
船体がさらに傾き、側面に備え付けられたジャインアントレールガン2つの内、1つが破壊された。
「くそ! これではドラゴンに勝てないではないか... ならば!」
45度以上傾いた甲板からベイジョンは己に魔法をかけ、空中へと浮遊する。
そのままフォササウルスの体目掛けて水中へとダイブした。
(0距離ならば少しくらい剥がせるだろう...)
水中でも暴れるフォササウルスだったが、巨大故にフォササウルスの体に触れるのはベイジョンにとってはとても簡単な作業だった。
(<念力>)
フォササウルスの体全体を浮かすことに失敗したベイジョンだったが、体の一部に魔法を使うことはできた。
効果の効く部分ごとベイジョンは掴みながら空中へと向かう。するとフォササウルスの体の表面が抉られ、肉塊がベイジョンの周りを浮遊し始める。
体の一部が抉られ、大量の血が海へ流れ始め、ヴァニッシュ艦隊の周りは文字通り血の海と化した。
攻撃を喰らったフォササウルスは怒りながら体をロールしながら、海中を垂直に下へと泳ぎ始める。ある程度まで潜るとやがてフォササウルスは水面に浮かぶネブカドネザル目掛けて今度は垂直に上へと泳ぎ始めた。
大きな口を開け、数百ある鋭い歯を見せながらフォササウルスは突撃の加速を上げていく。
「残骸でも食っておけ!」
フォササウルスがネブカドネザルの腹を噛み砕こうとした瞬間。
ベイジョンは辺りに散らばった魚、ソウフィッシュマン、フォササウルスの肉塊などの残骸を<念力>を使って一塊にした後、その塊ごとフォササウルスの大きく開いた口の中へと放り込んだ。
口を塞がれたフォササウルスはネブカドネザルを噛み砕くことなく、そのまま鼻先をネブカドネザルに直撃させた。
ゴオオオオ!!
すると、ネブカドネザルがさらに傾き船体が横転する。
横転した衝撃でフォササウルスは水中へと追いやられた。
横転したネブカドネザルの残る3つのジャインアントレールガンの砲塔は水中のフォササウルスに向けられている。
衝撃、そして残骸を喰らって動きが鈍くなったフォササウルス目掛けてジャインアントレールガンの砲身が水色に輝き始める。
ブウィイイイイイン!!!
横転したネブカドネザル内では黒軍服が反転した司令室内でこの時を待っていた最中であった。
「よし! 今だ!ネブカドネザルのジャイアントレールガンをこいつに喰らわせてやれえええ!!」
ドオオオオオオオン!!ドオオオオオオオン!!ドオオオオオオオン!!
3本の閃光がフォササウルス目掛けて照射された。
そして、水中で大きな爆音が響くとそこには大量のフォササウルスの残骸が広がっていた。
「元帥殿、お見事でございます」
フォササウルスを撃退後、周りのヴァニッシュ艦隊の船の牽引とベイジョンの魔法によって無事横転したネブカドネザルを元の体勢に戻した後、傷だらけの船内で黒軍服達とベイジョンは報告を行なっていた。
「ヴァニッシュ艦隊は今までこんな大変な仕事をしていたのか?」
「いえ ソウフィッシュマンはいつも通りのことですが、あれほどまでに巨大なフォササウルスが出現したのは我々の任務上初めての経験です」
「...なるほど、この時期にこの攻撃か...我々の計画に感付きは始めたかアムソトラル王国は...」
「その件ですが、先ほどヴァークナイト提督より通信がありまして、コルノン市の作業は完了したとのことです」
「よし では早速ソルジャーゲームの準備にかかるとしよう! だが、どうもきな臭い。デヴォルカス海域の守りはヴァニッシュ艦隊に加えて、全海軍を出動することとする」
「ぜっ!全海軍ですか!?」
「『ソルジャーアイランド』までの輸送と海域の守りがある。それに俺はここからいなくなるなのだぞ」
「ですが、その頃にはヴァークナイト提督がお帰りになります」
「アムソトラル王国が本気になったとしたらお前達だけで海域を守ることができるのか?」
「そっ...それは」
「よろしい これ決定事項だ。そろそろ暇な陸軍にも動いてもらおう」




