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第二十二話 「逃走、攻撃...」

地下街でゾンビの群れの相手を一通りこなしたウィルは地上に出ることになんとか成功し、今はコルノン市から脱出するべく、市の外へ通じる川沿いの道を走っていた。


ゾンビは『天国草』を過剰に摂取した者しか襲う傾向がない。そのためウィルにとってゾンビを駆除することはさほど大変ではなかった。


今頃アリアがクロエを家族のもとまで連れて行っているだろう。何だかんだでアリアは面倒見がいい。ウィルはアリアを信頼していた。そして同時に面倒くさい作業は任してしまおうという気持ちもあった。


正直、受けた恩はもう返し切っただろう。これ以上コルノン市に固執することもあるまい。ホンブル市に突如出現したバウンティハンターと父親のせいでこんな市に流れ着いてしまったが、そろそろ帰らなければならない。


レジスタンスのメンバーなら心配はないだろうが、あまりにも長い間会っていないと不安にならずは得なかった。


既に二ヶ月以上は経っているだろう。漂流していた間の記憶がないのであまり正確な時間経過はわからないが。


地上にも既にゾンビの群れで溢れかえっていた。倍々に増えるゾンビの相手をできる者はここの市にはいないだろう。ウィルが走るこの川沿いの道にもデモ隊のように雪崩れ込んでくるゾンビの群れがボロい木でできた建物を少しずつ壊しながら街中を歩き続けている。『天国草』を過剰に摂取した新鮮な逃げ惑う人間を目指して。


ウィルは襲われることなく、何体ものゾンビが横を通り過ぎて行った。


あちらこちらで悲鳴や破壊音が鳴り響いているが知ったことではない。


川に架けられた橋を渡り、邪魔なゾンビ達を数体川に蹴飛ばしたウィルはついに関所が見える高さの小さな丘までたどり着いた。


丘と言っても瓦礫の山のことなのだが。


コルノン市から出るための関所付近の様子を観察する。


「人が多すぎるな...」


当然だ。まだ生きている住民達は皆、ゾンビから逃れるために市からの脱出を図り、関所に群がっていた。


さすがにあの数の人混みを掻き分けることはできない。人口の約20%以上はあの関所に集まっているように見える。


コルノン市の関所はここだけではないはずだが、どこに行っても空いているところはないだろう。


「アリア様に頼むか?...」


アリアはサキュバスであり、背中に生えた翼を使って空を飛べる。空中からなら容易に脱出することができるに違いない。


必要なときにだけ頼るのはどうかとも思ってしまうが、他に方法は無さそうだ。崖の上のスラム街に今はいるだろう。ウィルはアリアに会うために崖を目指す事にしたその時、


橋の方向からバキバキと何かが砕ける不快な音が聞こえてきた。


音のした方を振り返ると、


金属製の鋭利なトゲがいくつも付いた歯車を横一列に6つ繋げた巨大な掘削機のような塊を後ろから押している2体の巨大なファーバッファローの姿が見えた。ファーバッファローは牛よりもふた回り大きい全身毛むくじゃらの動物だ。重い物を運搬するのが得意なので運搬用として飼育されている。頭部の太い二本の角は突進した際に薄い石壁なら簡単に破壊するほど頑丈な角らしいが温厚なファーバッファローが突進したシーンを見た者は数少ないという。


前方の掘削機が橋にいるゾンビたちを次々に潰している。地面には潰されたゾンビの残骸が生まれている最中であった。


あの不快な音の正体は肉袋が潰されて血が噴き出す音だったのだ。


ファーバッファローに注目し過ぎてしまったが、よく見ると後ろから荷馬車の集団が続いてきていた。


御者は、


「なっ!? 治安維持兵だと!?」


馬を操る者はフルプレートの鎧を着た治安維持兵だった。


ギャングが言っていたことはどうやら本当のようだった。やはり治安維持兵がここに来ているのだ。


「何している...」


彼らも『天国草』などやってはいないのでゾンビに襲われる心配はないようだが、それにしてもわざわざこんなカオスな街を動き回る意味はないだろう。


なにかヒントはないかと荷馬車に目を向けると、


鉄格子の囲いの中に人間達が収容されていた。


総勢10人ほどが荷台に積まれており、そのような荷馬車が何台も後から連なっている。


中にいる人達はゾンビにはなっておらず正常なようだった。それにコルノン市にはラリっている者ばかりだが、収容されている人たちはまともそうだった。中には亜人と呼ばれる者も混じっており、老若男女様々だ。


「あんな年寄りから子供まで捕まえたのか... クソッタレだな治安維持兵の野郎は」


ウィルの残った右手に力が込み上げてきた。


治安維持とこれが言えるだろうか。むしろこの街をめちゃめちゃんにしたはほぼ治安維持兵の仕業だろう。


怒りしか湧いてこない。


この集団の行き先はおそらくコルノン市の貴族エリアだろう。カオスな街中で安全な場所はもはやあそこしかない。


殺したい気持ちが湧き始めたのだが、さすがに治安維持兵の集団にはウィル一人では叶わない。ジーンとの修行の甲斐もあり新しい攻撃魔法を習得したが、4,5人の治安維持兵を相手にできる程度だろう。ここのギャングは攻撃魔法の取得がそこまででもなかったのでなんとかはなったが、ウィルと使える攻撃魔法の基本レベルはほとんど同格かそれ以上の者達なのだ。


唾を飲み込み、瓦礫の上からただ静観することしかできない自分を情けなく思ってしまう。


そんな一行を観察していると、


「ん? ...あれは...嘘だろ....」


思考が停止する。怒りの感情すら一瞬消えてしまったほどに。


見覚えのある人物が収容されていたのだ。


あの無邪気な男の子。


ダリスが。


「クソがああ!」


(どうすればいい? さすがに放っては置けないぞ.... だが奴らを倒すこともできない.... 逃げるか?....いやそれはできない.... あああ!! どうする!?)


逃走も攻撃も無理なら。


これしかない。


潜入だ。



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