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第二十一話 「供給」

ドンドンドドン!!


ボロボロの木製の扉がしなるほど、クロエは家のドアを叩いた。


「姉さん! 開けて! クロエよ!」


スラム街にあるクロエの家にアリアとクロエは到着していた。


ここは幸いと言って良いべきなのかわからないが、崖の上にあるせいかゾンビの数が少なかった。アリアにとってはスラム街をさまよっている者達がゾンビなのか、はたまた『天国草』の過剰摂取のせいでラリってしまった人間なのかもはや区別がつかなくっていた。


気にすることはない。アリアはクロエを家族に合わせるまでのことをすればよいのだから。


そのあとは逃げるか、ウィルを探すだけ。ウィルには会ったばかりであるのだが、ウィルを逃すべき男ではないとサキュバスの本能がそう呼びかけていた。


それにしても...。


「ねえ クロエちゃん 自分の家なんだからさ鍵くらい持ってないの?」

「鍵? そんなものないよ! あるのは扉の内側にかんぬきが一つあるだけ」

「ええ!?」


あまりの衝撃にアリアは驚いてしまった。玄関に鍵がない家など家と呼べるのだろうか。しかし、クロエが叩いている扉をよくみると鍵穴らしきものはどこにも見当たらない。


「まあ そういうことなら仕方ないわ 扉が開かないってことは中に誰かいることは確定なワケねっ クロエちゃん ちょっとどいて」

「なにすんの?」

「ん? こうするのよ」


訝しげにアリアを見つめるクロエ。


次の瞬間、


ドカッーーーンという扉が破壊される音ともに玄関の役割を担っていた扉がアリアのひと蹴りによって木片と化した。


「ちょっと! 何するのよ! うちの玄関が....」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ さあ入るわよ」


アリアは別に裕福な暮らしを送っていたわけではない。地下街での生活など高が知れている。それでもサキュバスであるアリアは金を持ってそうな商人や支配人の家に何度か住まわせてもらっていたことがあるので生活に困ったことはなかった。


そんなアリアはスラム街に来た時から気分が悪かった。予想の斜め上をいく治安の悪さと汚さに。


相当な覚悟を決めてクロエの家に入ったアリアであったが、


「あら わりと綺麗な部屋じゃない」


予想以上に汚いと感じる室内ではなかった。


「母さんと姉さんがいつも掃除してるからね」


自身に満ち溢れたクロエの顔。


「なるほどね で、あなたは何を?」

「...そのほかの雑用とか 色々だよ」

「ふーん ....ん?」


室内を見回したアリアが床のとある一点で目が止まった。


「あれは何? あそこだけ掃除してないの?」

「ん? ......まさか!?」


目を見開かせ、数秒沈黙したクロエが慌ててアリアが見ていた方へと走り出す。


床についた血痕を発見して。


「ああああ そんな.... 姉さん!!」


アリアもクロエの後に続いて行くと、


床に倒れている少女を発見した。クロエの姉だろう。


ゆさゆさとクロエが姉の体を揺すぶっているが反応がない。


「クロエ! あまり揺らさないで!」


アリアは倒れているクロエの姉の元へ駆け寄ると、手を首筋に当て、眼球を確認する。


「まだ生きてるわ!」

「よかった! どうすればいい!?」

「クロエちゃんは回復魔法使えないの?」

「....母さんならできるけど」

「わかった 私がやるわ!」


スラムの子ができるとははなから期待などしていなかった。だが母親ができるとは意外だった。回復魔法は生活魔法の中でも上級魔法にあたる。どこかで身につけたのだろう。


体を観察すると、背中からの出血がひどい。肩から腰にかけて一本の線のような傷だ。


これはゾンビによるものではないだろう。ほぼ死体みたいなゾンビにできる芸当ではない。剣で切られた傷だ。


しかしこのくらいならアリアに直せる。種族に女しかいないサキュバスは生き抜くために回復魔法の取得は必須なのだ。


「<消毒> <組織結合> <皮膚縫合> <免疫向上 改>」


傷口が閉じ、出血が治る。


「これでもう大丈夫だわ 本当なら半日は安静にしてないといけないけれど どうしたものかしらねえ」

「あ...ありがとう! ほんとうに....ありがとう アリアの回復魔法ってすごいのね 母さんを越える人は初めて見たわ」

「人ね... 一応私サキュバスなんだけど....」

「あっ ごめん 無神経だった...」

「いや すごく嬉しいわっ 亜人ってこの国じゃあ呼ばれてるけど、それ本当は差別用語だからね」

「そうなんだ でもあんまり関係ないね 人も亜人も アリアを見ていると心が繋がっていれば仲間だって思えるよ」


アリアとクロエはクロエの姉...ミーシャという名前らしい。ミーシャをベッドへと連れていくと居間に一旦あつまり休憩をした。


アリアは考えていた。


もうウィルの方へ行っても良いだろうか。


しかし、この姉妹を放っておいてはいられない。


「あっ! ダリスは!? ダリスはどこに!」

「ねえ 今度はどうしたの?」

「弟がいない!」


今度は弟か。クロエには家族が多くいるらしい。


「姉さん!」


あれほど安静にと言ったはずなのにクロエはベッドで寝ていた姉のミーシャを起こしに行ってしまった。


「姉さん 起きて 姉さん!」

「....っ! ああ なっ....何? クロエ! クロエよかった...無事でえええ」


起きて早々に涙を流したミーシャがクロエを抱きしめる。


「姉さん! ダリスがいない」

「.....ダリスは...治安維持兵に連れて行かれたわ....」

「え?....」


その場の空気が一瞬にして氷付いた。


「ウィルさんがクロエを探しに出た後、ダリスも探しに行くって言ったから一緒に外に出たんだけど....町のはずれまで行った時に治安維持兵に見つかって」

「治安維持兵!? コルノン市にはほとんどいないはずでしょ!」

「でもいたの!! 町の外は治安維持兵達に囲まれているわ! それも大量に ひたすらダリスと一緒に逃げたけど...ダリスは捕まって....私は背中を切られた....なんとか私は運良く逃げられたけど....あああどうしよう!姉失格だわ.... 」

「そんな....」


アリアはかける言葉が見つからなかった。弟を置いて逃げたのは仕方がない。だが自分の責任に感じてしまうのも仕方がないだろう。


「ダリスはどうなったの...殺されたの?」


クロエは言葉を慎重に選ぼうとしているようだが、結局単刀直入になってしまった。


「....多分それはない...ないって信じたい。ソルジャーゲームに出場させるとか言っていたから...」

「ソルジャーゲーム!? あれは大人の戦士とかが出るやつでしょ...」


カオスだ。


治安維持兵は本来なら町の治安を守るための者達のはず。どうなったらこうなるのだろうか。


ソルジャーゲームではゾンビが使われるという。そのゾンビをコルノン市が提供しているのだ。貧困層の市民をゾンビに変えて。今回は規模が大きすぎる。治安維持兵はもはやコルノン市に住んでいる者達を人間として扱ってはいないようだ。


「ウィル....あなたはどうするの?」



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