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第六話 「強奪」

 パーチェスを含む十四人のギャングは馬に乗り、『天国草』を大量に積んだ『ガルゴス』の構成員が運ぶ荷馬車の予想ルートを先回りし、待ち伏せをしていた。


 荷馬車の目的地である『ガルゴス』のスラム街は小高い岩山の上にあり、到達するには岩肌に沿うようにして作られた幾つかの階段を使う以外に方法はなく、人間がかろうじて通れるほどだ。当然馬が登ることは不可能。それゆえにコルノン市の大通りを通ってスラム街の真下まで到着したとしても荷馬車に積んだ全ての『天国草』を運ぶには手間と時間がかかる。構成員が担いで階段を登り降りしなければならないからだ。


 スラム街に侵入する他のギャングを防ぐためには非常に防衛に優れた場所だが、こういった外からの運搬に関してはマイナスな一面がある。


 このような一面は当の『ガルゴス』達本人は十分認識しているため、運搬が行われる際はかなりの数の構成員を配置する。


 弱点を強固にしているためなかなか『ガルゴス』の物資を奪うことは難しいように思われる。


 だが、弱点を強固にしたからこそそこには油断が生まれる。


 運搬中の荷馬車は警備が薄いのだ。


 ほとんどの構成員はスラム街へと続く階段の警備についている。まあそもそも馬やモンスターに騎乗して荷馬車を警備できるような構成員が少ないからであるが。


 故にパーチェス一行は運搬中に奇襲を仕掛けることにした。それも階段にいる者から認識されない場所からだ。運搬中は警備が手薄いとしても手こずって階段付近まで荷馬車が移動してしまうと待機している多くの構成員に発見されてしまう。


 今回の奇襲には素早さが求められるのだ。


 川沿いに馬を横一列に並べ、川に架けられている割と横幅の広い石橋を渡ってくる荷馬車を待つ。


 今回唯一パーチェスが気になっているのは荷馬車の護衛にゾルジサウルスが二頭使われているという点だ。


 ゾルジサウルス。トカゲを馬ほどの大きさに巨大化したようなモンスターであり、全身を藍色の体毛が覆っており、頭に生えた黄色の角と足に生えたナイフのような爪が特徴的だ。トカゲに似ているが、歩行方法は全く異なり、後ろ足にあたる二足で大地を駆け抜け、前足は後ろ足に比べて小さい。注意しなくてはならないのは、パーチェスの部下が使うような簡単な攻撃魔法に耐性があり、人一人では相手にするのが難しいところだ。さらに鋭い歯を揃えた口からは酸を吐き出すことができる。


 単純に護衛の構成員が運搬中は手薄だとしてもゾルジサウルスがいることで、一気に戦闘能力が向上する。それが、今回は二頭。


(運搬にも手を入れ始めたか.... 今回は少しいつもより厳しいかもな....)


 パーチェスは内心いつものような強気モードではいられなかった。だが、表情には頑なに出さない。部下の士気が下がるようなことをするつもりはないからだ。


 そんな弱気の自分を押し殺していると、石橋を渡ってくる荷馬車一行が見えた。


「さあ 行くぞ!」


 パーチェスが声を掛けると、すぐさま部下たちは己の馬の腹に蹴りを入れ、


「ヒーーヤアっ!!」


 部下達も一斉に掛け声を入れる。


 そして、パーチェスを先頭にして二列の隊列を組み、『ロニロス』ギャング集団は川岸の石ころを撒き散らしながら荷馬車目掛けてトップスピードで追いかける。


 すると、『ガルゴス』の先頭を走る構成員が迫り来る集団に気づいたようだ。


 予想される進路を急速にコルノン市の市街地へと変更し始めた。


「別れろ!!!」


 パーチェスが部下達に命令すると二列の隊列が一列ずつに裂け、市街地の通りに入った荷馬車を左右に挟むようにして歩道に突っ込む。


 歩道を歩いていた者達は飛び跳ねるようにして一行を避け、道端に溜まっているゴミの山へとダイブする。

そして、意識のない廃人は先頭を駆け抜けるパーチェスの部下が攻撃魔法を飛ばして次々と吹き飛ばしていった。


「邪魔だああ どけええ!!」


 住民を吹き飛ばしながら突撃してくるパーチェス一行に対し、荷馬車の最後尾を走っている馬に騎乗した『ガルゴス』の構成員が攻撃魔法<火球(ファイアーボール)>を唱え、馬ごと焼き払おうと炎の球を飛ばしてきた。


「<鎧防御拡張壁(エクステンドアーマーシールドウォール)>!!」


 飛んできた<火球(ファイアーボール)>にわざと重なるようにパーチェスが突っ込む。


 すると、パーチェスが火だるまになるーーーーのではなく、直撃寸前で炎の球がまるで見えない壁に衝突したように球が割れ、炎が空中へと霧散し消えていった。


 消えていく炎を確認する前よりも早くパーチェスは最後尾を守る構成員まで近づき、


 鎧を着たまま、全速疾走をする己の馬に中腰でバランスを取るように立ったかと思うと、『ガルゴス』の構成員が乗る馬に飛び移った。


「!!!?」


 いきなり飛び移ってきたパーチェスに頭が混乱していた構成員は顔を掴まれ、強引に馬の進行方向とは九十度の方向へ持っていかれる。


 バランスを失った構成員はそのまま抵抗虚しくも全速疾走する馬上から地面へと叩きつけられた。


 新たな主人を走りながら得た最後尾の馬は、主人の命令に従い前方を走る荷馬車に急接近する。


 そこまでで、新たな主人は馬上から姿を消した。


 一瞬の間、最後尾の馬の主人となったパーチェスは荷車に飛び移り、荷馬車を操る御者に対して魔法を発動させる。


「<重拳>」


 <重拳>。剣を持たない鎧騎士の彼女は己の体を武器にする。この攻撃魔法の威力は生半可なものではなく、


 彼女が御者に拳を力に任せてぶつけると、バキバキという骨が砕くける音と共に御者の顔が曲がってはいけない角度まで回転をした。


「この荷馬車は確保した!! ベイハス!!! 後は任せたぞ!!!」


「任せてくださいっ!!!」


 確保した荷馬車をベイハスという部下に任せたパーチェスは口笛を吹き、最初に乗ってきた己の馬を走る荷馬車の隣まで呼び寄せると飛び移り、次の目標へと突撃を開始する。


 パーチェスが荷馬車を奪っている間に前方では他の部下達がゾルジサウルスに乗った『ガルゴス』の構成員と戦闘を繰り広げていた。


 すでに一人の部下の姿がない。


 爆発しそうな己の怒りを抑え、パーチェスは戦闘中の部下の横を駆け抜けて荷馬車を目指す。


 鎧騎士パーチェスにとって馬に騎乗しながらゾルジサウルスと戦うことは難しい。特に彼女は剣を持たずに敵のところまで突っ込むことで威力が発揮されることから適度な距離を保たれながら反撃される騎馬戦は得意ではない。さきほどのように馬から馬へと飛び移り、一対一で戦う分には問題ないが、酸を吐き、攻撃に慣れているゾルジサウルスは馬のようにはいかない。そのため最大戦力であるパーチェスは最も重要な目的である荷馬車確保を優先することになっているのだ。


 次なる目標の荷馬車の後ろまで迫ると、御者がパーチェスに気づいた。


 その顔はまるで化け物でも見たかのように驚いている。だが、この御者は迫り来る恐怖に耐え反撃をする。構成員達になんとか『天国草』を届けるために。


「<雷光弾>!」


 片手で馬の手綱を握ったまま御者はパーチェス目掛けて青白い稲妻の塊を発射した。この電撃に直撃すれば人間の体は感電し皮膚は焼かれ即死する。ギャングが使用する攻撃魔法の中でもかなり強力なものだ。御者にしてはかなりの強者であっただろう。


 敵となる相手がパーチェスでなければ。


「<鎧防御拡張壁(エクステンドアーマーシールドウォール)>!!」


 青白い稲妻はまたも見えない壁に衝突し、電撃が四方に散った。


 そして、ヘルムに隠れていない口元がニヤリと笑うと、御者の首が飛んだ。


 パーチェスに気を取られていた御者は反対側が迫ってきていたパーチェスの部下に気づかず、そのまま首を刎ねられたのだ。


「よくやった ニール!」


 スキンヘッドの部下、ニールが親指を立てたのを確認するとそのまま荷馬車はニールに任せ、最後の荷馬車確保へと馬を走らせる。


「クソがああああ!! 鎧女がああ!! 死ねええええ!!」


 全速疾走をしている馬上にいてもはっきりと聞こえるほどの大声が聞こえた方を振り返ると、


 ゾルジサウルスに乗った『ガルゴス』の構成員がパーチェスに突っ込んできていた。


「!?」


 市街地の通りは今のところ一本道で避ける空間がない。馬の速度を緩めて突撃を躱そうとするが、ゾルジサウルスに怯えた馬が緩めるどころか走るスピードを変えずに必死で逃げようとしだした。


 (クッソ このままじゃ 不味い!)


「姉貴!! <火球(ファイアーボール)>!! 食らいやがれ!!」


 後ろからパーチェスの後を追っていた最も信頼の厚い部下であるジョージがなんとか注意を引くため、ゾルジサウルスに攻撃魔法を放った。


 それにより、間一髪のところでゾルジサウルスの突進を回避したパーチェスであるが、


「だああああ!! 姉貴!! 先に行ってくれえええええ!!!」


 耐性を持つゾルジサウルスに攻撃魔法は効かず、酸の反撃を受けたジョージが身体中から白い蒸気をモクモクとたてながらパーチェスを先に行かそうと叫んでいた。


(すまぬ.... クソが!)


 己の無力さを呪いながらパーチェスは最終目標を見据える。


「先に行かせるかよ!! 死ねええ!」


 ゾルジサウルスに乗った構成員がパーチェスの後ろから迫ると、


 構成員を背中に乗せたまま、ゾルジサウルスが地面を蹴飛ばし、パーチェスの上空まで飛んだ。


 そして、パーチェスの真上まで到達すると、酸を吐き出し、鋭い爪でパーチェスの首をかっ切ろうと後ろ足を空中で高く振り上げた。


「なっ!? <鎧防御拡ーーー」


 魔法詠唱が間に合わないと悟ったパーチェスは瞬時に顔を引っ込めた。


 次の瞬間、鎧の肩に大きな衝撃が走り、そのまま馬から転落していた。


「グッはああ!」


 ヘルムに隠れていない口元から血が噴き出す。


 地面に叩きつけられた衝撃に耐えながら、ヨロヨロと立ち上がると己を守る鎧の右肩が裂けていた。黒色の鎧がじんわりと赤色に染まっていく。


 しかし、さすが鎧と言うべきか破損をし、肩に傷口ができたものの致命傷にはなっていないようだ。だが、破れた箇所から酸が沁みてきて傷口が悲鳴をあげる。


 地面に着地した衝撃により姿勢を崩したゾルジサウルスを騎乗する構成員であったが、すぐにバランスを立て直し、立ち上がったパーチェスと睨みあう。


「お前さえ倒せば『ロニロス』も終わったようなものだ 感謝せねばな」


「感謝するにはまだ早いぞトカゲ使いよ 私の部下が最後の荷馬車を襲っている頃だろう」


「かもな... だが周りを見てみろ。 その最後の馬車はもう我々『ガルゴス』の構成員が守る領域に侵入しているぞ。例えあの荷馬車を奪われたところで意味がないようだな」


「なら 今すぐお前を殺して向かうまでだのことよ」


「やってみるが良い。どうせゾルジサウルスには勝てまい」


 そして、数秒の間両者が睨み合うと、


「....<猪突猛進>!」


「行け! フォンヌス!」


 体に赤色のオーラが出現したパーチェスは鎧の塊と化し、猛スピードでゾルジサウルスに向かって突進した。


 そして、人間がゾルジサウルスに単騎で敵うわけがないという構成員の考えは自身の死ともに消え失せた。


 

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