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第五話 「孤高の鎧騎士」

「パーチェスさん 2-A地区の連絡通路から『ガルゴス』のスラム街行きの荷馬車を確認しました。おそらくですが、荷馬車の大きさから構成員の三日分は賄えるほどの『天国草』の量はありまっせ。奇襲しやすか?」


「護衛は?」


「荷馬車三台に対し、馬に騎乗した護衛構成員が隊列の前方に二名、後方に二名。荷馬車の間にはゾルジサウルスに騎乗した護衛構成員が一名ずつおりやす」


「ゾルジサウルスか....厄介だな」


「....あおずけですか?」


「フンっ つまらん 強奪するに決まっているだろう」


「さすがっす ではメンバーは俺が集めておきます!」


 部下が去って行くとパーチェスはただ一点を見つめ考え事をしだした。


 コルノン市四大ギャングの一角である『ロニロス』。その構成員で切り札的存在でもある鎧騎士パーチェス。全身黒色の鎧で身を覆っており、頭を守るヘルムは口元以外を完璧に包み込んでいる。口元だけを隠していないのは魔法詠唱時に声が籠るのと戦闘以外でも常時身につけているヘルムを脱がずに食事をしたいという彼女の希望のようだ。


 そうパーチェスは女性なのだ。


 女性ながらも身につけている鎧がなによりも威圧感を放っているので、後ろからパーチェスの姿を見ると女性であることを部下でも忘れてしまいそうな出で立ちであるが、ヘルムによって隠されていない彼女の口元はごつい鎧に反して女性らしい綺麗でほっそりとした妖艶さを感じさせる。これはもしかしたらパーチェスの狙い通りなのかもしれないが。


 鎧騎士と呼ばれているパーチェスであるが、実際彼女は騎士ではない。騎士以前に彼女はスラム出身の住民であるし、そもそも戦闘時には剣を使わないのだ。


 使うのは鎧のみ。


 鎧自体が彼女の防具であり、武器であるのだ。


 鎧はスラムに落ちていた金属を拾い集め、パーチェス自身が魔法を使って制作したようだ。自身の身を守る物を製作するにあたり、金属を魔法で強化しているので拾った物と言えども治安維持兵達に支給されている鎧よりも硬い強度を誇る。


 そして、今彼女は考えていた。


 『ガルゴス』のスラム街に住んでいる姉のことを。


 コルノン市の住民にとって当たり前のように摂取されている『天国草』であるが、摂取したことによるデメリットはメリットを遥かに凌ぐほど大きいことは誰でも知っている。だが、一度摂取した者は中毒になり、なかなか引き返すことができない。それは彼女の姉も同じだった。


 金貨よりも流通している『天国草』は住民にとっての金であり、通貨であり、農産物であり、娯楽品でもある。故にギャングはこの『天国草』の売買で昔から富を得ていた。


 そしてギャングはほとんどの住民にとっての唯一の救いであり、仕事でもある。それゆえパーチェスの姉は『ガルゴス』の構成員となり、日夜辛い労働をさせられていた。


 それに見かねたパーチェスは姉とは違うギャング組織で働くことで姉に援助を送ることにしたのだ。同じ組織に属すると何かとお互いに足を引っ張ることになり責任を取らされるからだ。ただ、パーチェスは時には構成員の回復係、時には娼婦になる姉のような仕事をしたくはなかった。そうパーチェスは選んだのだ。


 ギャングの女戦闘員として、男達よりも働くということを。


 これはとても女性にとっては辛く、難しいことだ。


 それはパーチェスにとっても同じで、差別や蔑視を受けた。


 だが、ギャングで教わった魔法と日々の努力、そして鎧を作るなどの工夫をしてパーチェスはついには『ロニロス』最強戦力まで登り詰めたのだ。


 何度も他のギャングと戦ってきたパーチェスだが、勿論『ガルゴス』の構成員を殺したこともある。ただ幸いなことに今だ姉に出くわしたことはない。しかしながら、毎度パーチェスは戦闘前に考えてしまう。姉に会ったらどうしようと。姉のために入ったギャングなのに姉を殺す事になるようなことは絶対にしたくないのだが、親しくなってきた部下のことを考えると迷ってしまう自分がいた。


(余計な不安は禁物! 前に決めたからもう迷わない!!)


 自分に喝を入れ、姉の子供達について考えることにした。


 姉は中毒者だが、尊敬できるところがある。


 それは家族を持っているということ。


 パーチェスは独身で、彼氏もいない。日々戦闘兵としてアドレナリンを分泌している彼女には男の素晴らしさが全く理解できないでいた。憧れたり好きになったりするのは自分が持ってない部分を男性は持っていたりするからだ。例えば女性にできない外での乱闘など.... だがパーチェスにはできてしまう。故にパーチェスは男に魅力は感じないと自身に言い聞かせていた。


 男はどうでもいいが、パーチェスは子供を持ち、世話をするというのは生物として正しいことだと思っている。故に自分が持っていない家族を持っている姉のことは尊敬している。


(ああ... 早く会いたいな....)


 そんなことを考えているとなんだか実際に会いたくなってきた。


 しかし、残念ながらパーチェスが考えていたことは部下の声によって霧散した。


「パーチェスさん 準備が整いました!」


 パーチェスが若干イラっとしたが、顔の大部分はヘルムで隠れているので部下には理解できないだろう。しかし、もう長いこと共にしている部下の男はイライラしているということを感じたようだ。顔が引きつっていた。


「ああ じゃあ 行くか」


 綺麗な女性の声に似つかわしくない鎧の塊がゆっくりと立ち上がると部下達に気合が入り、その内の一人が鼓舞する。


「よっしゃあ!! 『ガルゴス』の野郎どもに痛いめを見せてやれええ!!」


「おおおお!!!!」

「おおおお!!!!」

「おおおお!!!!」

「おおおお!!!!」

「おおおお!!!!」

「おおおお!!!!」


 後に幾人もの部下達の掛け声が続いた。



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