第七話 「赤」
「ごめんな.... カルカ....」
パーチェスはゾルジサウルスの攻撃によって負傷し、立ち上がれなくなった愛馬、カルカの目を見つめる。
その目は、主人の目をただまっすぐに見つめ、これからの自分の運命を悟ったかのように澄んでいた。
もう、自力で走ることは出来ず、馬としての一生を終えなければならないということを。
主人のヘルムの下を覗いたことはない。だからどんな顔をしているのかはわからない。もはやカルカにとって主人の顔はヘルムと同化している。故に感情を理解出来ないが、普段の自分に対する扱い方から主人との間には自然に見えない絆が生まれていた。
そして、今、カルカは初めて己の主人の感情を感じ取れた気がした。
ヘルムから唯一見える口元に二本の透明な線が流れていたのだ。
カルカはそっと目を閉じる。自分の運命を受け入れるために。
パーチェスは普段から肉を切る際に使っているナイフを取り出し、
なるべくカルカが苦しまないよう、首にナイフを刺し込んだ。
見事な手さばきとしかいいようがない、無駄のない動作であった。
カルカは即死した。
パーチェスが口元を拭うと、背後から馬に乗って駆け寄ってくる音が聞こえてきた。
ゾルジサウルスの酸によって全身の皮膚が爛れていた部下のジョージだ。
「パーチェスさん.... ご無事で何よりです」
ジョージはパーチェスの愛馬であるカルカが地面に倒れているのを見ると喉が詰まったが、それでも何か声を掛けずにはいられなかった。
「ああ.... 荷馬車の方はどうだ?」
パーチェスが返答してくれたことにホッとしたジョージは仲間達がさきほど確保した二台の荷馬車が無事に『ロニロス』の拠点まで向かったことを伝えると
「よし.... では最後の荷馬車を追うぞ!」
「いいんですか... その...最後の荷馬車はまもなく『ガルゴス』のスラム街付近でっせ?」
「部下の残った半分が追ってんだ 行くに決まってるだろう」
「わかりました! では俺の後ろに乗ってください! すぐに追いつかせまっせ!」
酸で顔の皮膚が爛れていたジョージであるが、パーチェスが追うということを聞くと顔に笑顔が蘇る。そして、パーチェスに対する尊敬の念がより一層強いものへとなっていった。
馬に乗った二人のギャング達はコルノン市の市街地を駆け、スラム街へと急ぐ。
その市街地を覆う木や石を主に使って建てられた建造物の高さが徐々に低くなってきた頃、目の前にスラム街がある岩山が見えてきた。
「もう ここまで来てしやいやした.... 不味いですね 襲ってこないのを考えると罠の可能性が...」
一帯は既に『ガルゴス』の縄張りだ。鎧を着ているパーチェスは特に目立つうえに『ロニロス』のギャングとして名が知れ渡っている。通り過ぎる廃人以外の住民達でもさすがに分かるのだろう。皆、パーチェスを乗せた馬が通り過ぎると睨むようにして目で馬を追う。
そして、ついに二人はスラム街へと続く階段の前へと到着した。
既に到着してしまっていた最後の荷馬車の周りを囲うように『ガルゴス』の戦闘ができる構成員が待ち構えていた。
数は最低でも五十以上。
その集団の先頭には顔見知りの者が五人。猿轡を擤ませられ、手足を拘束された部下達が一列にまるで見世物のように立たされている。
パーチェスが唇を噛み、その光景を見ていると、『ガルゴス』の集団の中から一人の赤髪の男が前に出てきた。おそらくこの集団を纏める者であろう。赤髪の男についてはパーチェスも話では聞いている。
名前はベレ。
『ガルゴス』の中でも指折りの殺人鬼と名高い残虐な男だ。以前、『ヴィリカス』のメンバーを『天国草』のために皆殺しにした後、刈った首を鈍器として使っていたらしい。その残虐性から髪が赤いのは地毛ではなく、血で染まってしまっているからだという噂がでたほどだ。
そのベレがパーチェスと向き合う。
双方の部下達に緊張が走る。圧倒的に有利な立場にある『ガルゴス』の部下達であっても両ギャングの強者が同じ場にいるということはそれだけで邪悪な雰囲気を醸し出すのだ。
「ごきげんようパーチェス嬢 早速だが お前が奪った我々の『天国草』。返してもらうぞ。断った場合は....説明しなくても分かるよな?」
ベレは片手に持った身長の半分ほどはある長方形のギロチン包丁をこれ見よがしにちらつかせた。
パーチェスはベレを睨んだ後、囚われた部下達に視線を移す。
皆、小さく頷いていた。
覚悟は出来ていると。
部下達の思いを受け取ったパーチェスはベレを無視し、部下達に賞賛を送る。
「さすが私の部下である!! 誇りに思うぞおお!! 首を切られたとしてもその目でしかと見ていろおお!」
「狂ったかああ! 話の通じない奴のようだな」
突然、大声で喚き出したパーチェスに飽きれたベレはすぐさまギロチン包丁を一番近くで立っていた『ロニロス』のギャングの首目掛けて振り下ろす。
地面に落ちた首を確認したベレは満面の笑みでパーチェスに振り返ろうとした。
だが、
ベレのすぐ目の前に鎧の塊が接近している。
「何!?ーーー」
鎧騎士の姿を確認する前にベレは正面からパーチェスの突進を喰らい、後ろに控えていたベレの部下の元へと吹き飛ばされた。
何人かのベレの部下達がドミノ倒しのように倒れていく。
「あの鎧騎士を殺せええ!!!」
荷馬車の周りにいた『ガルゴス』の構成員達が弾かれたように一斉にパーチェス目掛けて行動を開始する。
しかし、
「<流星飛来>」
パーチェスが体の周りに赤色のオーラを纏い、人二人分ほどの高さまでジャンプした。
そして、パーチェスを殺そうと迫ってきた『ガルゴス』の構成員の肩へ着地すると、その肩が爆発し、構成員だった者が肉塊と化した。爆発の衝撃を利用し、パーチェスは再び空へ舞うと迫る『ガルゴス』の構成員の肩へ着地する。
爆発する。
肉片が飛び散る。
パーチェスが飛ぶ。
肩へ着地する。
爆発する。
肉片が飛び散る。
パーチェスが飛ぶ。
肩へ着地する。
爆発する。
肉片が飛び散る。
パーチェスが飛ぶ。
肩へ着地する。
爆発する。
肉片が飛び散る。
この一連の鎧騎士の進行が止まったのはベレが再び起き上がり、反撃を仕掛けてきた時だった。
「調子に乗るなあああ!!! <重剣>!!」
ベレが空を舞うパーチェスの元まで一飛びで接近すると、両手で握ったギロチン包丁をパーチェスの鎧に直撃させた。
急速に地面に落下したパーチェスは受け身を取れず、体全身で地面を受け止めたことにより、衝撃で骨が砕け、体のありとあらゆる箇所が震え始めた。
血の海と化した地面で横たわるパーチェスの元まで近寄ったベレはギロチン包丁を鎧に当て、完全に息の根を止めようと首に狙いを定める。
鎧を纏っているが、<重剣>の魔法で強化したギロチン包丁はアダマンタイトの金属以外であれば斬り裂けるだろう。
ベレは数秒、倒れているパーチェスを睨んだ後、意を決してたかのように目を閉じ、周りにまだ生き残っていた部下に告げた。
「こいつは一度捕らえる! このまま意識がないのに殺しても意味がない。絶望を知ってもらわねばな.....ヘレンを連れてこい!!」
殺人鬼と呼ばれたベレの顔には何かを諦めたような苦渋の表情が広がっていた。
お久しぶりです。
MAGIC CODE Season2 如何でしょうか?
Season1に比べてダークな感じになってきましたが、通しでもし読んでいる方がいらっしゃったら幸いです!
処女作でもあるこの作品には自分でも思い入れがあるのですが、読者の方にも気に入ってもらえたら嬉しいと思いつつ、今後もこの作品を進化させていければと....思っております。
では、読んで頂きありがとうございます!
今後もよろしくお願いしますっ!




