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第三十六話 「再会、そして再開」

「及第点だな...」


 ホンブル市闘技大会の闘技場。剣闘士待機室で持参した己の武器をチェックしながら、ため息をつく男の姿があった。


 ラファエルだ。


 ケフトス家から譲り受けた最高級品の防具と剣の筈であるのだが、どうやらこの男はイマイチ納得がいってないようだ。それもそのはず、彼が以前愛用していた剣はジオカイア王国の国宝、『オリジン』。お金によって十分な価値が付けられた剣なんかと比較することが烏滸がましい代物だったのだ。


『さあ、まもなくホンブル市闘技大会第二回戦が開催されます! 観客の皆様見逃しのないようにお早めに御着席下さい! 何と言っても第二回戦には名だたる英雄達が出場致しますよ!!!.......えええその歓声はごもっとです。私も待ち遠しい!!』


 外では相変わらず司会役の男が観客達を盛り上げているようだ。


(楽な仕事などないな... 本人が望んでいれば何でも苦ではなくならなくなるのだが...)


 ラファエルは司会役の男が乗り気ではないという想定の元、勝手に同情していた。


「第二回戦に出場する剣闘士の方々は至急、開場スロープまでお越しください!!」 


 冒険者ギルドと名乗るスタッフの掛け声のもと、ラファエルは他のこれから殺すことになるであろう剣闘士の同志達と共に招集場所まで向かうことにした。


 そのとき、


「...ラファエル王... まさか! ラファエル王ではないですか!!!」


 ラファエルの後ろから駆け寄ってきた男は、ラファエルと同じく大柄な男で顔中に伸びた髭を生やし、鍛え上げられた体には全身、傷や痣ができている者だった。


 ラファエルはほんの数秒、その男が誰であるのか理解するために頭を回したがすぐにその男の正体がわかった。髭と傷のせいで以前の面影は消えつつあったが、彼は元ジオカイア王国の精鋭部隊に配属されていたラファエルの直属の部下であるマノン・ランスロットだった。


「...マノン? マノンではないか!!?」


 両者はお互いに抱き合っていた。以前のジオカイアでの勤務中に王と臣下の者がこのような行動などとる筈はないが、お互いの苦難な歴史というフィルターが掛かったことにより、息苦しい規則は今、この二人の間には一切無かったのだ。


「やはりラファエル王でしたか...ご無事で何よりです! ...! 失礼しました。出会い頭に男が抱き合ってしまい...無礼をお許し下さい!」


「気にするな もはや私は王ではない。民を守れなかったのだから... 」


「何を あれは我ら家臣の力不足の所為でございます。 あの日を一度も忘れた者などございません! いつかラファエル王にまたお仕えできる日を夢見て、なんとか我らは今まで生きておるのです。」


「我らとな... マノンの他にもいるのか?」


「はい! 私以外にもギズ・バーティミアス、ダニエル・ヴェット、シーフォル・ロコタ、二クス・レイアウトがこの大会に来ております。お呼びであれば直ちに連れて参ります!」


「皆の顔が見たい。連れてきてくれるか?」


「はっ!!」


 マノンはラファエルが今まで聞いた中で最も覇気のある応答をした後、他のラファエルに仕えていた部下達を呼びに行った。


 そして、その後すぐにマノンを含めた五人の屈強な戦士達がラファエルの前に現れ皆、片膝、片腕を地面に付けラファエルに敬意を表す体制で挨拶をした。中には主人の存在の確認をできたためか感動のあまり目に涙を浮かべている者もいたが顔を伏せて必死に涙が垂れないように堪えている。


「我らジオカイア精鋭部隊。今ここにラファエル王のもとに参上致しました!」


「その姿勢は止めよ。今は私を含めて皆剣闘士なのだ。立て。」


 ラファエルに言われるとやがて五人の戦士も立ち上がり、ラファエルと目を合わす。


「皆よく生きていたな お前達を誇りに思う。 これから戦場はすぐ上の闘技場だ。 覚悟は出来ているか?」


「はい! 我らの命はラファエル王のものです。一丸となってラファエル王をお守り致します!」


 見ると戦士全員が拳に力を入れていた。


「お前達の今の主人がいるだろう 闘技場では皆が敵になるのだぞ?」


「我らの真の主人はラファエル王のみであります。ご命令であれば我れらで戦いますが、ラファエル王を攻撃するという愚行は決して行いません! ラファエル王が我らの命を奪って下さい!」


 ベイジョンの部下に負け、ラファエル王を支援することが出来なかったという過去の悲劇が彼らを常に苦しめていたのだろう。彼らの瞳は真剣そのものだった。


「...仕方がない...好きにするがいい。」


「はっ!!!」


 ラファエルは部下が求めるものを何とか提供してあげたかった。今は何の権力も持たない彼であるが、少しでも彼らが望むのであれば護衛をしてもらうことにした。何が良い行動なのか人によって異なるとレイチェルに言ってしまったので仕方がない。他人に意見をするということは自分に意見をすることにもなるのだ。


「ラファエル王 質問してもよろしいでしょうか?」


「良い」


「ラファエル王に主人と呼ぶような人はいたのでしょうか?」


「いたな...」


「何!? やはりいましたか...申し訳ありません。何れ我らがラファエル王の報復を約束します!」


「おいおい早まるな!! 主人はお前達が想像するような人の感情を持たない生き物では無かったぞ。かなり優遇してもらった方だ。 むしろお前達の主人の方が気になる。」


「そうでしたか 少しほっとしました。私の主人は本当に... はあ 止めておきます。 ただいずれは殺しますよ」


「なるほど...」


 ラファエルと五人の戦士は招集場所に行き、出場の準備を終えた。


『皆さんお待たせ致しました!待ちに待った第二回戦の開始です! 出場者の入場!!!』


 司会の合図とともにラファエル達はスロープを登り、闘技場へと出る。


 溢れんばかりの声援が観客席からこちらに向けられていた。恐らく自分が元ジオカイア王国の王だということを知っているのだろう。正直言って先ほど司会が言っていた名だたる英雄達は自分達の事を指している。


 何故なら戦士の国の王であり、ベイジョンと戦った男だからだ。


 しかし、ここでラファエルは妙に思った。


 この声援は全て自分達に向けられたものではないと。確かにラファエル以外の剣闘士全員にこれからの戦闘を期待するという意味で声援を送っているのかもしれないが、ラファエル達以外に声援を直接送られている者達がいるようだ。


 ラファエルはその声援の中心となっている人物を探した。


 そして見つけた。他の入場口から出てきた男。というか老人だった。


 その老人はジオカイア王国の王のラファエルでも知っている者であった。


「あれは... まさか... ありえない!」


 ラファエルの後ろで叫んでいる部下の声が聞こえた。



 ーーー観客席からウドヴァスと第二回戦に出場する剣闘士を確認していたナリスは、その豪華な顔ぶれに思わず身を乗り出していた。


 元ジオカイア王国の王、ラファエル王とその精鋭部隊。


 元<クリーンブラック>に配属されていたキーシャ・ラングレイ。


 犯罪王、ガルデモ・シーク。


 そして、今は老人のモヴィルス・シカイ・ショック。


 あの骸骨頭の男、ベイジョンを骸骨にした人物である。



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