第二十四話 「レジスタンスの打ち上げ」
「ーーーーではよろしくお願い致します。両者にとって良い取引となりますように。 では。」
エマは起動させていた通信用マジックアイテムを切り、ウィル達に向かってピースサインをする。
ここはホンブル市自然区域の不毛地帯にある渓谷の端にひっそりと設置されたウィル達レジスタンスの活動拠点である。この渓谷は自然区域の森に隣接していて、大昔に森から流れていた川の流れによって長い年月をかけて岩が削られてできた大地の裂け目である。ウィル達は森と不毛地帯がすぐ近くにあるこの渓谷を絶好の活動拠点と判断してここ数週間生活していた。『モンスター』や自然区域を訪れる『人間』の存在を警戒しなくてはならないのだが、『モンスター』の方はジーンによって、そして『人間』の方は渓谷の周りに配置させた人型『モンスター』オリトゥによって渓谷のセキュリティは今のところ十分に機能している。
先ほどからエマがマジックアイテムを使って通信している様子を見守っていたレジスタンスの面々は緊張の糸が切れたのか、エマの通信が終わると各々喜びのあまりハイタッチをし合う。
そしてウィルはエマに一応確認のために、
「エマ! ホントか!? 交渉成立か!?」
「うん! とりあえず交渉成立!! ネイタウン住民が上手いこと説得してくれたみたいね! 市長はすぐには行動ができないけど魔法創作連盟に協力して『冒険者ギルド』設立に動き出すって!!」
「上手いこといったな! エマさんや 交渉スキルも高いのう 俺は年上ではあるが色々見習わなければならないな」
ウィルに続いてエマに声をかけてきたのはフォスの餌やりから戻って途中から参加してきたノックだった。
「いえいえ! これはノックさんが危険を顧みず、馬車交通に潜入して主要な馬車にこっそりとマジックアイテムを装着させて来て頂いたから成功したんですよ!」
「おう! そうか!そうか! そうだな!チームプレイだ! いつもはフォスと人馬一体となって孤軍奮闘していたけどよ、仲間と一緒に仕事するのも悪くねえな。 ただ 大変だったぜ馬車交通に潜入するのは。 俺はエマが製作したマスクで変装できたけどフォスは変装できないからな。一応馬界では有名な馬だから言い訳しながら御者達の目を掻い潜るのは至難の技だったぜ!」
「すぐ調子乗りますね ノックの旦那は」
様子を隣で見守っていたロルトが本心では尊敬しているが皮肉を込めてノックに話しかけて来た。
「おいおい 余生を楽しく過ごすことはいいことじゃないか! 許せや」
「もちろんです」
不敵な笑みでもってノックに返答したロルトは再びエマに市長との内容の詳細を尋ねた。
「そうね 詳しい内容は今後詰めて行くことになったけど、現段階で決まったことは、まず市長と魔法創作連盟は秘密裏に協力すること。これに関してホンブル市側の介入は今のところ皆無ね。ひとまず市長個人との契約よ。ホンブル市が表理に協力するのはネイタウン住民と共同で『冒険者ギルド』を設立して運営するところまで。」
「なるほど....ではマジックアイテム生産ルートはどうするんだ? 市長だけで実行できるのか?」
今度はウィルがエマに質問をして来た。
「その件についてはとりあえず自然区域近郊にいる職人を魔法創作連盟の傘下に入れることを市長が黙認するということになったわ。ホンブル市のシルンとかの中央街は政府の手がかかった者達が沢山いるから協力させるのは自然区域近郊の者達ってことね。まあ材料も自然区域から取って来やすいし。ホンブル市には街の繁栄のためという理由で職人達に材料の提供をするルートを確立してもらう。そして、魔法創作連盟傘下に入った職人達が材料の加工をしてマジックアイテムを作成。最後に『冒険者ギルド』が各冒険者にマジックアイテムを支給するという形になるわ。」
「職人は黙認されたことで自由なマジックアイテム作成でき、魔法創作連盟は直接表に出ることを回避できる上にホンブル市はあくまでも材料支給をするだけであって協力するのは住民達だけということに出来るということか!」
「そうね 今のところ順調なんじゃない? あとは職人の心を掴むだけね....」
「それについては職人のエマにお願いしたい。ただ『冒険者ギルド』の存在をどうアピールするかだな。」
「それについてはいい人が見つかったわよ。ソウルポリスでレジスタンスが暴れてからかなりの時間が経過したけど、今、街で密かにレジスタンス支持派が増えているらしいの。 増加の主な原因はウィル達の騒動が直接影響したわけではないけれど、騒動に感化されたソウルポリスの住民達がレジスタンス支持を促すポスターを街中に貼って宣伝活動をしているお陰ね。 で、その宣伝活動を促した中心人物を『冒険者ギルド』の宣伝をするために私達の仲間にできないかと」
「そんなことが! さすがにソウルポリスの情報までは俺の耳まで入ってこなかったな 誰情報?」
「馬車交通の馬車に通信用マジックアイテムを装着する数が最近、ノックさんのお陰でかなり増えてきたから、ホンブル市だけはなくて、ソウルポリスの情報までも入ってくるようになったのよ」
「かなり、実用性が高まってきたか!! いい調子ではないか! そうだな.... ではこれからの話をしよう! エマは職人の魔法創作連盟への勧誘。そしてノックの旦那はこれまで通り馬車交通の通信網拡大。ロルトはソウルポリスにいる宣伝活動の中心人物に接触してレジスタンスに勧誘してきてくれ! ジーンは自然区域の生態系バランスの崩壊を。 俺は『冒険者ギルド』設立の手伝いをする! 何か質問あるか?」
「ウィル もしソウルポリスで仲間の勧誘に成功したらホンブル市に連れてきた方がいいか? 複数人の場合も」
「できるだけ連れてきて欲しい。ただソウルポリスまでまだ通信する事は出来ないから現場の判断は任せる。ポスター活動主導者を見つけるための策はあるか?」
「..... ああ 当てはあるよ」
「分かった。他に質問は?」
拠点内にいる他のノック、エマ、ジーンは皆、首を横に振った。全員納得したのだろう。
「よし! では明日から作戦開始! 今日はまず 乾杯だ!!!」
「「「「「乾杯!!!!」」」」」
その夜、レジスタンスの活動拠点で五人は交渉成功の祝杯をあげ、大いに盛り上がった。皆、レジスタンスとしてソウルポリスからの騒動以降、不屈の精神で活動していたが、やっと心を落ち着かせられる時間が訪れ、久しぶりに全員集合した面々は心の底から喜びの感情を爆破したのだった。
これはかつて精神異常者系の『悪魔』として『人間』に恐れられていたジーンも例外ではなく、新たな仲間と呼べる者達と一緒にこの祝杯の場を楽しんでいた。デヴォルカスに連れてこられてから初めて、心置き無く笑い合えた瞬間だった。




