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第二十三話 「民との交渉」

「ネイタウン住民の者達よ!ホンブル市市長が直々に訪問なされた!お出迎えの準備をせよ!!」


 ホンブル市役員の声がネイタウン市民会館に響き渡った。


 すると、大広間にいた住民達は二手に分かれて扉から壇上までの道を形成する。簡素な動作だが、田舎街なりの歓迎の仕方だ。


 壇上からその様子を見守っていたリンは握った手の内側が湿っていることに気付き、急いで服の袖で汗を拭う。これから市長が訪れるという緊張に対する自分の体の反射的機能によって相手を不快にさせないようにと。


 現市長になってからホンブル市中の規律検査が行われている。さらに住民達にとって一番の不安の種は市長自らが訪問しに来るということだ。前市長はかなりの浪費家で市の負担を住民達の市への増税によって賄っていた。そのイメージが住民に染み付いた所為か市長は住民にとって最悪の役人というイメージがついているため、なるべく住民達は市長との直接の接触を避けてきていたのだ。


 壇上にいたリン達、街の代表者は階段を降りて待機をする。


 数分後、大広間の扉が開かれた。


 住民達はお辞儀をし、扉から護衛を引き連れてゆっくりと歩いて来る市長を招き入れる。市長がリン達の前まで来たのを確認すると、リンは頭を上げてこちらから先に挨拶をする。


「ネイタウン住民のリン・フォールと申します。市長自ら我々の街までお越し頂き誠にありがとうございます。街の者全員が歓迎を致します。」


「歓迎を感謝する。私はホンブル市市長のナリス・フォン・ベイルだ。固い話は抜きにしよう。ナリスと呼んでくれて構わない。」


 リンは驚いた。リン自身今まで市長に直接会ったことは無かったが、市長はもっと横暴でメンドくさい存在ではなかったか?と 今、目の前にいる初老の男性は第一印象はそんな感じがしない。というかむしろ好印象だ。


「何を仰られますか。私はただの市民です。そんな呼び方はさすがにできません...」


「そうか?構わんのだがな..... 私も元は自然区域周辺で生まれたただの市民だったぞ? まあいい 今日はこの街の視察に来た。最近自然区域からの『モンスター』襲撃による事件が増えていると報告を受けたのでな。住民達の生の声を聞きたいのだよ。」


「我々も市長にお話したい事がありまして.... 壇上で続きをお話ししてもよろしいでしょうか?」


 リンはネイタウン代表の者達と共に市長を壇上へと案内した。そして、市長と市長の後ろを歩く役員の者達を壇上に設置したこの街で一番高級な椅子へと座らせる。


 普段の規律検査では、治安維持兵が市民会館を占拠し、住民達を列に並ばせて順に取り調べを行っていく。内容は確定申告の確認、デヴォルカス政府への忠誠度テストなどだ。しかし今回の視察は例外中の例外のようだ。住民達は異質な現象を固唾を飲んで静かに見守る。


 まず、口火を切ったのは市長の方からだった。


「君たちの話を先に聞きたい。話してくれ。」


「発言の場を設けて下さり感謝致します。では.... 我々ネイタウン住民の意見をお聞き下さい。」


 リンの発言を聞いた市長が前のめりになる姿が見えた。


「近頃、ネイタウンは自然区域から来た『モンスター』によって被害が出ています。今のところ死傷者の数は計十八名です。この数は決して少なくありませんが、ネイタウンのような自然区域近郊に位置する街の中では低い値になっています。」


 市長は隣に座った市の役員に内容の確認をしたようだ。役員は「確かそうだったはずです。」と言ったのを聞いた市長はあからさまに溜息をつく。


「この値は奇跡によるものではなく、この街を訪れた二人の戦士によって成された値です。実際に私も仕事からの帰り道に通常のイノシシの五倍ほどはある巨大なイノシシに襲われたのですが、その戦士によって助けていただきました。」


「君たちが話したい内容とはその戦士を我々に紹介することかね?」


 席に座った役員の一人がリンの話を割って質問してきた。すると、周りの役員達が小さく笑い始める。


「違います。紹介ではなく、事実をお話しただけでございます。」


「何?」


 役員が不機嫌そうに返答したが、すぐに市長によって制された。


「続けろ」


「畏まりました。戦士の方々によって最悪の事態に陥る事は回避できたのですが、今だにこの街を襲撃する『モンスター』の数は減る事なく、むしろ増加してきています。そのため、戦士の方々の対応も限界が来ているのです。」


「治安維持兵はどうした?」


「市長お言葉ですが、この街に治安維持兵の方々は現在おりません。隣町にいた方々も全滅してしまいました。」


 リンはあえて住民達を見捨てて、逃亡した兵達の事は伏せておくことにした。


「なんだと!? ヒスタ本当か?」


 市長の側近らしき者が頷く。


「さすがにこれは市の問題だ。 報告がなっておらんぞ!!」


「申し訳ございません。」


「はあ それで、意見とは何かね? 今のはただの報告だろ? まあ俺の部下達よりは優秀なようだが」


 役員の者達が唇を噛み締めている様子が見える。滑稽だ。


「このネイタウンに『冒険者ギルド』を設立する協力をして頂きたいのです!」

 

 リンは先ほどよりも熱を込めて市長に訴える。どうやら市長は住民達に目線を合せて聞く耳を持ってくれる人のようだ。このデヴォルカス政府内にこのような人が存在すること自体不思議でたまらない。もしかしたら政治家特有の表面上だけの態度かもしれないが、表面上だけだとしてもこの市長に頼るしかない。


「『冒険者ギルド』だと? なんだそれは?」


「今回我々を救ってくれたような戦士の皆さんを募集して、自然区域の『モンスター』を退治する仕事を提供する組織でございます。」


 再び役員側から笑いが起こったが、市長は気にせずに質問してきた。


「現実味に欠けるな.... まずそんな戦士をどう募集する? そして我々が協力するメリットは? 市も『モンスター』退治ができるならとっくにしているぞ」


「我々を救ってくれた戦士の人が存在するように、世界には未知を求めて冒険したいと思う者や、強者と戦いたいと思う者がいます。しかし、現実は生活していくための仕事に追われてそのような危険を冒す人はほとんどいません。ですが、『冒険者ギルド』のように仕事として提供できる存在があればこの問題は解決できます。そして、メリットについてですが自然区域の『モンスター』が減り、市としては領地の拡大に繋げることができる上に、まず自然区域近郊の街を襲撃する『モンスター』がいなくなり住民の安全が保障されます! 『冒険者ギルド』は募集をする形なので治安維持兵の方々へのコストもかかりません!」


 先ほどから小馬鹿にするように笑っていた声が止んだ。


「.... 確かに魅力的ではあるが... その冒険者が『モンスター』を倒せる保障はあるのか? 現に治安維持兵では勝てないのだぞ。」


「...それについては... 確固たる保障はありません。 冒険には危険がつきものですから!」


「甘いな 例え勇敢な冒険者が集まったとしてもいずれは全滅するのがオチだ。」


「治安維持兵の方々は街の治安維持をするための目的を満たす程度のマジックアイテムが支給されていますよね? 冒険者にも『モンスター』を退治するための目的を満たす程度のマジックアイテムの支給をすれば解決できると思っております。」


「!?」


 ナリスは頭の中で徐々にパズルのピースが出来上がってきていること気付いた。馬車でネイタウンを訪問する道中に突然通信をしてきたあの魔法創作連盟のローズと名乗った者が言っていたではないか「マジックアイテムを生産したい」と、そして「ホンブル市の自然区域の問題を一挙に解決できる」と。おそらく偶然ではないだろう。タイミングが良すぎる。魔法創作連盟と住民はグルなのか? ただ住民全員が謎の集団のいいなりになっているような雰囲気はしてこない。住民たちが自分で意見をしていることはナリスにも十分わかるからだ。訪問する前は住民は意見などしないだろうと決めつけていた自分が愚かだった。市民のことを考える者の長であるからこその市長なのだ。ここで全てを否定すれば部下が報告しなかったように気付くことなく、また尊い市民の命が失われていくだろう。どうせ、市長になったのだから例え政府への裏切り行為の要因となろうが、せめて元一般市民として市民のために働いてみようと決心する。


「大体は理解した。全治安維持兵を動かすよりはその『冒険者ギルド』を承認した方が市の負担も少ないだろう。最初は実験的に行う。ただすぐに事にあたることはできない。大きな組織は小回りがきかんのでな。追手連絡するとしよう!」


「市長良いのですか? 意味の分からない仕事を承認しても」


 側近のヒスタが面倒な事を聞いてくる。


「お前は話を聞いて市にデメリットがあるなら質問しろ! ないなら質問はするな!」


「マジックアイテム制作は政府が制限しています! これを承認しては違法です!」


「ならコルノン市はどうなのだ? 違反薬物によって成り立っているようなものだぞ! 別に我々は違反する気はないがな そもそもマジックアイテムの製作規約は国民の生活魔法用具の制限と一般治安維持兵が所持するマジックアイテムの制限だ。冒険者という職業に制限はないはずだが?」


「.............」


「.... ではそろそろ我々は行くとしよう! それでは住民の皆さん失礼した。」


「あ ありがとうございます!! 市長さん!」


 リンのお礼の挨拶を見た住民達が後に続き、一斉にナリスにお辞儀をした。


 ナリスは初めて市長になってから認めてもらえたような実感がした。これからはなんとしてでも『冒険者ギルド』設立を実現しなくてはならないと己の胸に杭を打ってからナリスはお辞儀をする住民達の間を抜けて市民会館を出る。


 馬車に戻ったら早速、計画を進めなくては。







「戻ったぞ」





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