第十五話 「もう一人の反逆者」
ウィル達がソウルポリス市内で起こした騒動により、市内はいつも以上に混乱していた。市内に設置された治安維持兵の関所や物見櫓の大半は破壊され、周辺には地面に倒れ込んでいる兵士達の姿が確認できる。こんな状況で、近くを通り過ぎる住民達はなるべく自分達が巻き込まれないように倒れた兵士達を助けけようとはせず、我先に見て見ぬ振りをして走り去ってしまう。普段からの目の上のたんこぶである治安維持兵を救いたいと思う者などいないのだろう。仮に助けたとしても、本心は後で自分に優遇してもらえるようにと偽善心から行動する者しかいない。
街のあらゆる箇所から煙が上がっている市内を見て、通り過ぎる住民達がお互いに何が起こったのかと情報を交換している様子が至るところで見られた。
「さっきの爆発見たか?」
「家の中で作業していたから詳しくは見れてないのよ」
「あれは見るべきだったね こんなことを言うのは不謹慎だが、あれは美しかった。」
「はあ? でも周りの被害は甚大よね もしかしてテロ?」
「治安維持兵ばかりが被害を受けているようだからな おそらくテロだろ」
「まあ この国でテロを起こす連中がいるなんてね」
「最近は怪盗ジャッジなんかも出て来たから そろそろ国民も黙ってられなくなってきたか」
「大きな声で言えないけど、そんなこと皆、暗黙の了解ってところじゃない。それでも我慢してたのに」
「噂で聞いたんだが、今回の騒動は怪盗ジャッジも絡んでいるらしいぞ! なんか恐ろしい事件のはずなのにどこかで喜んでいる自分がいるな!」
「私も でも恐ろしい連中ね どうせすぐに捕まるわ。あまり大口叩くと後で政府に目をつけられるわよ!」
「ああ 俺たちに被害が出なければいいんだがな 巻き込まれるのはまっぴらだ」
ーーー市内の爆発騒動はとても市民達に衝撃を与えたようだ。皆、心の内では喜んでいるものの、今回のテロはすぐに沈静化するだろうと思い、大ごとにはしていない。なるべく巻き込まれたくないのだ。それは当然の反応なのだが。
そんな爆発に魅了されていた者がいた。彼の名はコール・ガスナー。すらりとした細身の体で、顔には濃い髭を生やしている三十代前後の男性だ。普段は政府が発行する新聞のレイアウトをする仕事をしており、たまに貴族御用達の競馬試合の開催を宣伝するためのポスター製作なんかも手がけている。一般の住民がする仕事内容より特殊な仕事をしているためか、よくコールの周りにいる友人からは羨ましがられたりするのだが、当の本人はあまり現在の仕事に満足していない。
新聞製作にあたっては新聞を読む者のことを考えたレイアウト作りをしたいのだが、政府が上にいることもあり、ほとんどコールの考えは却下され、いつも無難で単調なレイアウトにされる。それ自体は仕方のないことなのだが、コールとしては自分の表現方法が否定され、政府の都合に合わせた仕事をすることが不服だった。
新聞製作における日々の不満が積もったコールは、ポスター作りに運良く携わることができた。そして、日々の不満を解消するために製作に没頭したコールはめきめきとポスターデザインの腕を上げていき、今では貴族の中でも名の知れ渡った人物に上り詰めていた。一見すると一般住民の中では成功した逸材ではあるが、コールは没頭したポスター製作も今では興味が無くなっていた。これ以上伸びしろが無いと感じたのだ。自分がポスターで表現できるデザインはいくつも挑戦した。そして、ポスターで表現するのはいつも競馬関連のためコールは自分の意思を含ませた自由な表現に限界を感じていたのだ。
しかし、コールは市内で起こった色取り取りの爆発を偶然仕事場からの帰り道に目撃したとき、新たな可能性を見出した自分に気が付いたのだ。
「これは!? なんという美しい爆発なんだ! 爆発を起こした本人が伝えたい感情を直接空に描いているようではないか!!」
「これ以上くだらん仕事などしていられるか!! 絶対にこの爆発を起こした人に会ってやる!! そこに俺の居場所があるはずだ!!」
コールは急いで、来た道を引き返し、仕事場へと向かった。大量に置かれている資料を漁り、この騒動の首謀者の情報と行き先を推測するためだ。もしかしたら何も情報などないのかも知れない。ただ、コールは不可能と決めつけて何も行動しないという事が出来なかった。少しでも会える可能性を高めるために動き出したのだ。
ーーー数日後、コールは仕事場で爆発騒動の首謀者の情報を探し続けたが、結局芳しい情報を得ることは出来なかった。
「はあ... 政府に反逆するような人を素人の俺がこちらから見つけることはできないか.....」
長時間の調査をしたものの骨折り損のくたびれ儲けとなった事実を受け入れながらコールは深い溜息をつく。そして、コールは一度先ほどまでの調査の事を考えるのをやめて、フラットな状態で最初から計画を練る事にした。
「俺から会うことができないのなら、向こう側が俺を探し出してくれれば良いのか.... しかしな貴族の数人は知っているかもしれないが、わざわざ俺を探すメリットなんて特にないしな。..... 俺の居場所があちら側にあると直感的に感じたのは何故だ? ......俺のデザイン能力を提供できると思ったからだ。 であるならば俺自身を売り込めばいい!!デザインを利用して!!」
「仲間を集めよう! レジスタンス運動を広めさせる!!」
硬く決心したコールは、今まで築き上げてきた人脈から信用のできそうな優秀な人物に片っ端から会いに行くことにした。
「待っていろよ!!」




