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第十一話 「ホースチェイス」

「こちらブラボーチーム、対象の危険レベルは六十以上と判定した。よってソウルポリス内で巡回している全ての治安維持兵に対象の情報を渡すことを要求する 送れ」


「こちら本部。了解した。これより対象を指名手配犯としてソウルポリス内の全治安維持兵に通達する 以上」






 ーーーウィルはソウルポリス内のメインストリート沿いを行き交う人混みの間を巧みに避けながら全速力で後方から迫ってくるブラボーチームから逃げる。追手はさすがの<クリーンブラック>と言うべきか、先ほど吹き飛ばしたとは思えないほどのスピードで追いかけてきていた。


「やっぱ爆破しといたと方が良かったか? それだと俺も飛ばされるからなあ」


 自分の立てた計画を反省しても切りがないので、一度考えかけた頭を停止させ今は逃げ切ることに集中する。走りながらウィルは周りの人々の様子を窺っていた。普段の彼らの生活において全速力で治安維持兵から逃げる者の姿など当然見たことないからか、皆ウィルのことを目で追いかけていた。


「よし!とりあえず注目の第一段階には入ったか」


 そしてウィルは、目的地として設定した御者の休憩場に突入した。ここで、ロルト達と合流し、馬を奪って逃げるという寸法だ。馬車乗り場を選択しなかったのは、治安維持兵が時折巡回しているからだ。しかし、休憩場なら治安維持兵もおらず御者も気を許していることから、容易に馬を奪えると踏んだためである。


 既に休憩所内で幻術を使い潜んでいたロルトと合流し、逃走用の馬を探し始める。


「なあウィル ジーンはまだ来ていないみたいだが待たなくていいのか?」


「そんな余裕はない!すぐ近くまで<クリーンブラック>の連中が迫って来ている。それにジーンなら心配しなくても平気さ」


「仕方ないか」


「ああ....おい! ロルト! あのデカイ馬、速そうだな! あれに乗るぞ!!」


 ウィルが向かって行った方を見ると普通の馬車に使われる馬より一回り大きい立派な馬がそこにはいた。ウィルは強引に休憩場で休んでいた御者達をかき分け、その馬に接続された御者台に座ってロルトを手招く。


 ロルトも乗ろうとしたその時、怒鳴り声が聞こえて来た。


「貴様ら!! 何をしている!? フォスに何をする気だ!? 勝手に俺の馬に触るな!!」


 当然の反応だ。御者にとって馬は命の次に大切なものなのだからだ。ロルトが返答に困っていると、ウィルが代わりに答える。


「我々は抑圧してくる政府に牙を剥くものだ! 追手来る政府の犬から逃げるため、そして市内の住民に政府に対抗する我々が存在することを知らしめるために貴殿の最高の馬を頂戴する! 悪く思うな!!」


「.... !? ホントか!? そんな奴すぐに処刑されるだけだ! そんな野郎どもにフォスを渡すわけにはいかん!」


 再び怒鳴り声をあげた御者の男は勢いよくロルトに殴りかかってきた。高身長で恰幅のある体系の男のため、普通の住民相手ならかなりの強者であっただろう。が ロルトは男の拳を軽くかわし、首筋付近をチョップすると男は尻餅をついた。


「すまないな 俺たちは元治安維持兵なのだ。これくらいは容易い それにお前の愛馬も走る気満々だぞ?」


 見ると、その御者の馬は先ほどから鼻息を荒々しくし、四本の足はまるで早く走りたい少年が今か今かと待っているようにせわしなく、地面を蹴っていた。


「.....フォス 俺も腹をくくろう! ただお前らにフォスを操ることなどできんぞ フォスは元競馬場のエース級の馬、その辺の馬よりも一回り大きく、荷台をフォス一頭で引っ張れるくらいの馬力はあるからな!」


「俺らも命かかってんだ そのくらい何とか操ってみせるさ」


「ふん! 何を言う! フォスを操るのは俺だ! この俺ノック様が乗る! 乗りたきゃ乗らせてやる!」


「代金は後払いでいいかな? それと追加オーダーだ 全速力を出せ!」


「フハハハハ!! 任せておけ! フォス行くぞ!!! お前の全てを見せてやれ! はっあ!!!!」


 ノックの掛け声でフォスは勢いよく駆け出す。ウィルとロルトは感じた。こんなにスタートダッシュから速い馬はいないと。そしてこんなに加速力が速い馬はいないと。


「なんだこれ!?もの凄い速さでないか!これなら追手もついてこれまい。ノックの旦那!まずはメインストリートを全速疾走だ!混んでいたら空いてる歩道を使ってもいい! あともう一人追加するかもだが大丈夫か?」


「だろ!?フォスはこんなもんじゃねえ!これからが本番だ! もう一人くらい平気だぜ!」


 メインストリートに出ると全速力で走る馬車を避けるようにして人混みの群れが真っ二つに割れていく。そして開けた空間を風が切る。


 その後方、馬に乗ったブラボーチームが迫ってきていた。


「何!?先回りされている!治安維持兵にチクられたか! 風系攻撃魔法<突撃風>!!」


 ウィルが放った魔法はメインストリートの街頭や木、はたまた看板を吹き飛ばしながら、ブラボーチームの部隊目掛けて飛んでいく。

 しかし、ブラボーチームは飛んできた障害物を華麗に避けながら速度を変えることなく、突き進んでくる。


 この様子を見たノックはメインストリートの反対車線に入った。普通なら対向から向かってくる馬と衝突するのがオチだが、ノックとフォスは全速力でぶつかることなく隙を縫って進んでいく。


 すると後方から追ってきたブラボーチームの先頭の馬の一頭が対向の馬車と衝突し、乗っていた兵士が歩道付近まで吹き飛ばされている姿が見えた。どうやら<クリーンブラック>でもノックとフォスについてこれる者は少ないようだ。


「ノックの旦那!ビンゴだ!!」


「フハハハハ!! 阿呆が!」


 後ろを振り返ったウィルは少しずつブラボーチームとの距離が離れてくるのを確認した。が、そのとき。


「ウィル!!避けろ!!」


「七式<破裂特攻>!」


 後方のブラボーチームが放った魔法がウィル目掛けて驚くべき速さで飛んできた。ウィルは突差に左手で庇うように治安維持兵の際に支給されたマジックアイテムによって防御魔法を発動させる。


「<防御の盾>」


 発動すると赤みを帯びた半透明の膜のような長方形の盾がウィルの左手付近に出現した。このマジックアイテムは使用回数が制限されているが、大体の基本となる魔法をほぼ確実に防いでくれる物だ。


 そのはずだった。しかし、ブラボーチームに放たれた魔法はウィルが発動させた盾を容易に突き破り、左手に命中した。


 ーーーそして、ウィルの左腕が中空を舞う。全速力で駆け抜ける馬車から飛び出した左腕がメインストリートの地面に叩きつけられる。


「グっわあああああああああああ!!」


 今まで感じたことのない猛烈な痛みがウィルの左側を中心として全身に伝わっていく。もはや自身で耐えることはできない。


「クソ!! ウィル! 落ち着け! すぐに治療する!」


 ロルトは慌てながら、揺れる馬車の上で己の懐からポーションを取り出した。このポーションはとても貴重なもので貴族くらいしか買うことができない代物だ。瞬時に傷口を塞ぎ、人間の回復能力を格段に上げることができるのだ。こんな物を持っていられるのもロルトの父親によるおかげなのかもしれない。


 ロルトは急いでウィルの左肩付近にポーションを垂らし、傷口を塞いだ。そして、幻術でウィルの痛みを消す。


「幻術<消去幻肢痛(デリートファントムペイン)>」


「ノックの旦那! メインストリートを抜けて、運河を目指してくれ!!」


「了解! 行くぞ!!」


 メインストリートを全速力で駆け抜けたウィル達は方向転換をし、運河を目指す。もの凄い速さで走っていたフォスは、急な方向転換により己の速度を殺しきれず、メインストリート沿いに設置されていたカフェテリアに突っ込むが、気にせずにそのまま窓を突き破ってどうにか曲がることができた。その後一行が噴水がある広場を人を掻き分けながら突進していると、今度は前方から巡回中であった治安維持兵の部隊がこちらに迫ってくる姿が確認できた。


 ロルトは数少ない幻術以外の火系の攻撃魔法を使って噴水目掛けて魔法を打ちこんだ。すると噴水が爆発し、あたり一面に大量の水が放出され、治安維持兵達に襲い掛かった。慌てふためいた彼らを尻目に路地を突き進んでいると、建物の屋上からこちらの馬車目掛けて落ちてくる者がいた。その姿を見たロルトは少し安心した。その者はかつての敵、そして現在の強力な助っ人ジーンだった。


「ごめん 少し 手間取った けど 奴らは片付けたよ! って! ウィルどうしたの?」


「....っ! おおジーン戻ったか! 俺は....大丈夫だ。 ロルトに手当てしてもらったからな」


「もうすぐクライマックスだ! ジーン、全て完了したか?」


「うん 設置済み 今から私...達 の作品をみんなに見てもらおう!」


「<打ち上げ花火>」


 ジーンが魔法を唱えると、街中のあらゆる箇所から発射された色とりどりの花火が空中で爆発した。あらゆる建物と言ってもほとんどは、治安維持兵の関所や街中に設置されていた物見櫓であるので、爆発の被害者は治安維持兵のみだった。


「おおお! こんなに市内の空が色鮮やかになったことはないそ!! 美しいなフォス!!」


「これだけの数よく設置したな ジーン」


「ホントだよ どんだけ治安維持部隊の数多いの この街 は!」


「これは良い宣伝になるのではいか? これからの俺らの活動次第だが!」


「なあ お前達よ 俺とフォスのこと忘れてないか? こんな事態に巻き込んだんだから責任とれよ」


「わかった。それでは俺らがお前を脅してたってことでいいだろう」


「それではあいつらのことだ。難癖つけて処分されてしまう。折角走れる機会が巡ってきたんだ。俺らもお前さん達の仲間に入れてくれや!」


「ホントか? では、あとでお前がスパイじゃないか確認したら仲間にしよう! まだ少数しか仲間がいないので慎重になってしまうのを許してくれ」


「ああ オーケーだ」


 一連の逃走劇が終わりを迎えて少し心に余裕がでてきた一行は運河を繋ぐ橋の近辺まで来ていた。そして橋の中腹まで渡った頃、ロルトが気づいた。


「おい! この先に俺らのことを待ち構えている集団が見えるぞ!」


「<クリーンブラック>か! しかも先ほどより人数が多いな! ここで奴らを完全に撒く予定だったんだが...どうしたものか」


「ここは私に 任せて」


「ああ だが逃げる案のことを考えておけ!」


「わかった」


 そう呟いたジーンが<クリーンブラック>に魔法を放とうとした瞬間、空から滑空してくる三人の人影が見えた。そして彼らはウィル達と<クリーンブラック>が睨み合う間の空間に着陸し、そして、



「我々は怪盗ジャッジ。今宵はこの街の住民の冷えた心を奪いに参上した! さあここにいるどちらが我らの敵なのかな?」



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