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保健室の中で入れ替わり  作者: 孑孑(ぼうふら)
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第6話〜身体は正直、クセはもっと正直

お互いの「普段の仕草」が牙をむき、学校生活は一瞬にしてスリル満点の地獄絵図に!

ボロを出さずに放課後まで生き残れるか、尊厳をかけた2人の限界バトルが始まります。

「くん!?」

木村の顔が、あり得ないものを見たと言わんばかりに引きつっている。

佐藤(中身)の背中に冷たい汗がドッと噴き出した。女子校育ちの丁寧な言葉遣いが、完全に無意識の防壁を突き破って漏れ出てしまったのだ。

(やばいやばいやばい! 男子が男友達に『くん』付けなんて絶対にしない!)

「あ、いや……!」

佐藤は引きつりかける顔を必死に抑え、脳内の「男子高校生・平野」のイメージを必死に稼働させる。低くて、ぶっきらぼうで、ちょっと面倒くさそうな声。

「『木村、配られたプリント、くんね?(くれね?)』って言おうとしたんだよ! 噛んだわ! 滑舌死んでんだよ!」

「……あ、なんだ、噛んだだけかよ。焦らせんなよ。マジで脳にバグ湧いたかと思ったわ」

木村が「ハハハ!」と豪快に笑いながら、佐藤の肩をバシバシと叩く。その衝撃で佐藤の華奢なはずの体が揺れたが、今の身体は頑丈な男子のものだ。

「ほらよ、プリントとノート」

差し出されたノートを、佐藤は思わず両手で恭しく受け取り、胸の前に大事そうに抱え込んでしまった。

「……お前、なんで今日の持ち方、女子大生みたいなんだよ」

「あ」

怪訝そうな木村の視線が、胸元のノートに注がれる。佐藤は心臓が口から飛び出そうになるのを堪え、慌ててノートを片手で乱暴に掴み直し、脇の下に挟み込んだ。

「……脇が蒸れてたから、冷やしてんだよ!」

「お前、本当に今日おかしいぞ!?」

「うるさい、便所行く!」

これ以上の会話は自滅を招くと察した佐藤は、ノートを机に放り投げ、教室を飛び出した。

だが、廊下を走るその姿は、内股かつお尻を小さく振る完璧な「女子の走り方」であり、通りすがりのクラスメイトたちが二度見していたことに、本人はまだ気づいていなかった。

## 後半:平野(中身:佐藤)の戦場「スカートの絶対領域」

一方、旧校舎のミーティング室。

平野(中身)は、別の意味で人生最大の危機に瀕していた。

「おい、佐藤。何でさっきからそんなにガタガタ震えてんのよ」

女子バレー部部長の鋭い眼光が、平野の顔を射抜く。

無理もない。平野は今、スカートの裾から下着が見えるのを防ぐため、内股にすべての魔力を込めて膝を限界まで閉じているのだ。生まれた初めて使う内転筋が、悲鳴を上げてプルプルと痙攣している。

(死ぬ……! 男の脚って、なんでこんなに閉じにくいんだ!?)

「あ、いえ! ちょっと、今日のスクワットの負荷が残ってまして……!」

「あんた今日、見学だったでしょ」

「あ」

嘘が秒速でバレる。平野は冷や汗を流しながら、この「大股開き癖」をどうにかカモフラージュする方法を考えた。

(このままじゃ膝が爆発する……! ええい、これならどうだ!)

平野は意を決し、両脚を揃えたまま斜め横に流し、足首を上品に交差させた。いわゆる「モデル座り(お嬢様座り)」である。

「…………」

ミーティング室に、静まり返った沈黙が流れた。

身長175センチオーバーの、普段はがさつな男子バレー部員(中身は女子だが、見た目は男)が、パイプ椅子の上で可憐に脚を斜めに流している。その絵面の破壊力は凄まじかった。

「……佐藤、あんた。もしかして、そっちの趣味に目覚めたの?」

部長の目が、心なしか怯えている。

「ち、違います! これは、骨盤の歪みを矯正するヨガのポーズでして……!」

「そう……。まあ、次の練習メニューだけど、あんたレシーブの時の重心が高すぎるから、もっと腰を落としなさいよ。わかった?」

「はい! 承知いたしましたッ!」

平野は勢いよく背筋を伸ばし、体育会系の敬語のつもりで返事をした。が、気合が入りすぎて声が「ソプラノ歌手」のように裏返り、ミーティング室の天井に不気味に響き渡った。

部員たちの視線が、一斉に平野に突き刺さる。

(もうダメだ、心が折れる……誰か助けて……!)

その瞬間。

ーーキーン、コーン、カーン、コーン。

予鈴のチャイムが、地獄のミーティング室に鳴り響いた。

「あ! じ、授業の予鈴が鳴ったので、失礼しますッ!」

平野は立ち上がるや否や、スカートの裾を両手で上品に押さえながら、内股の小走りでミーティング室を文字通り「脱出」した。背後から「佐藤、走り方……!」という部長の絶望に満ちた声が聞こえたが、もう振り返る余裕などなかった。

## 放課後へ続く

廊下の角を曲がったところで、猛ダッシュしてきた佐藤(中身:平野)と、内股で逃げてきた平野(中身:佐藤)が激突する。

「痛ったぁ……! ちょっと平野、あんた走り方どうにかしなさいよ!」

「うるせえ! お前こそ『木村くん』とか言ってんじゃねえよ! 心臓止まるかと思ったわ!」

二人の、尊厳をかけた本当の戦いは、放課後から本番を迎える。

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