第5話〜その少女、大股開きにつき
ひょんなことから心と体が入れ替わってしまった、地味系女子の佐藤と、だるそうな姿勢がデフォルトの男子・平野。
お互いの「いつものキャラ」を演じる約束を交わし、それぞれの教室へと向かった二人だったが、登校早々、あまりにも高すぎるハードルが待ち受けていた。
女子の丁寧さが抜けず、クラスメイトの木村に怪しまれる佐藤(中身)。
一方、男子のノリとガサツさが抜けず、女子バレー部部長の前で大股開きをかましてしまう平野(中身)。
性別の壁、そして染みついた「癖」の壁。
誰にも言えない秘密を抱えた二人の、己の尊厳と日常を守るための、絶対に負けられない戦いが幕を開ける――!
おい平野! マジで生きてたか!?」
教室のドアを開けた瞬間、木村がものすごい勢いで肩を掴んできた。佐藤(中身)は心臓が跳ね上がるのを必死に抑え、平野らしい「だるそうな表情」を作ろうと試みる。
「……あー、うん。生きてるよ。ちょっと疲れただけ」
「声ちっさ! ってかお前、なんでそんなに背筋ピンとしてんだ? いつも猫背のくせに。……おい、まさか本当に精神やられたのか?」
至近距離で顔を覗き込まれ、佐藤は冷や汗が止まらない。平野の普段の姿勢が「猫背」だなんて聞いていない。慌てて背中を丸め、ポケットに手を突っ込もうとしたが、男物のズボンのポケットの位置が深すぎて一瞬空振る。
「おいおい、挙動不審すぎだろ。あ、次の授業のノート、お前の分も取っといてやったからな」
「え、あ、ありがとう、木村くん……じゃなくて、木村」
「くん!?」
木村が完全にフリーズした。女子の丁寧さが1ミリ秒で漏れ出た瞬間だった。
部活ミーティングの戦場:佐藤(中身:平野)
一方、旧校舎のミーティング室。パイプ椅子に腰掛けた平野(中身)は、極限状態の緊張感の中にいた。
「おい、佐藤。さっきから何なんだその座り方は」
女子バレー部部長の鋭い視線が突き刺さる。
「えっ? 何がですか、先輩」
「何がですか、じゃないわよ。膝が完全にガバッと開いてるんだけど。あんた、中にスパッツ穿いてるからって気抜きすぎじゃない?」
「あ……」
平野は血の気が引いた。男の癖で、無意識に大股開きで椅子に座っていたのだ。慌てて内股に力を込めて膝を閉じる。しかし、今度は窮屈すぎて太ももがプルプルと震えだす。
「あと、さっきから何でずっと頭ガリガリ掻いてんのよ。フケでも出た?」
「いや、その、ちょっとダニが……じゃなくて、考え事をしてまして!」
「変な佐藤。……まあいいわ。次の練習メニューだけど――」
先輩の説教は続くが、慣れない女子の敬語と、スカートの裾を死守するための内転筋の限界で、平野の脳のキャパシティはすでに限界を迎えていた。
お互いの尊厳を守るための戦いは、まだ始まったばかり。次の授業のチャイムが鳴るまでに、二人はこの窮地を乗り切れるのでしょうか?
作者より】
第5話をお読みいただきありがとうございました!
ついに始まってしまった佐藤と平野の入れ替わり生活。登校初日からお互いの「癖」が暴走して大ピンチですが、皆様はどちらのハプニングがニヤニヤできましたか?(個人的には平野の中身である佐藤の大股開きがツボです)
次回、さらなる性別の壁とハプニングが二人を襲います。はたして二人は己の尊厳を守り抜くことができるのか……!?
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