第3話〜脱出の時
身体の不協和音、あるいは平穏への全力疾走
危機一髪の保健室脱出劇。しかし、本当に恐ろしいのは迫り来る追手ではなく、自分のものではなくなった「この身体」だった。
視点の高さも、手足の長さも、服の重みすらもチグハグな二人。慣れないスカートの裾に焦る男子と、男物のローファーに足を取られる女子の逃避行は、一歩進むごとに新たなトラブルを巻き起こしていく。
木村の猛追をかわし、この異常事態の真相へとたどり着くために。相性最悪な二人の、奇妙で過酷な「入れ替わりライフ」の第二幕が、今ここに幕を開ける
「窓だ! 窓から逃げるぞ!」
平野がガタガタと窓の鍵を開け、外の様子をうかがう。幸いにも保健室は1階、裏庭へと繋がる植え込みがあるだけだ。
「ちょっと待って、ベッドをそのままにしたらすぐバレるわ! 枕とシーツでごまかして!」
佐藤がテキパキと指示を飛ばし、二人は猛スピードでベッドの上に「布団を被った謎の塊」を作り上げた。見た目は完全に、先ほど「生肉……」とうめいていた重病者だ。
「よし、行くぞ。ほら、手ぇ貸して!」
平野が窓枠に足をかけ、スカートの裾も気にせずひらりと裏庭へ飛び降りる。続いて、佐藤も慣れない男物のローファーで危なっかしく地面に着地した。
その直後――。
『こっちです先生! 本当にヤバいんですって!』
保健室の入り口から、木村の金切り声とガラガラと激しく引き戸が開く音が響いた。
「ひっ……!」
二人は息を殺し、窓の下の植え込みに身を潜めた。心臓の音がうるさいほど高鳴る中、開いた窓の隙間から、保健室の中の様子が手に取るように伝わってくる。
『平野さん!? ……あれ、いない? 先生、ベッド! ベッドの中にまだいます!』
『これ、本当に感染症なのか……? もしもし、平野さん? 大丈夫ですか?』
先生がおそるおそるベッドの布団に手をかけ、一気にめくりあげる気配がした。
直後、保健室の中に張り詰めた沈黙が流れる。
『……木村。これはどう見ても、枕とパイプ椅子だな』
『えっ!? いや、さっきまで確かにそこに生肉を求める野獣が……!』
「ぷっ……!」
危機的状況だというのに、平野の体を借りた男子は、自分の置いたパイプ椅子が野獣扱いされていたことに耐えきれず吹き出しそうになった。すかさず、佐藤の体を借りた平野が慌ててその口を大きな手で塞ぐ。
『とにかく、二人がここにいないのは確かね。でも、遠くへは行ってないはずよ……!』
木村の鋭い声が響く。嵐の第2波が来る前に、完全にこの場を離れなければならない。
二人は四つん這いのまま、チグハグな体に振り回されながら裏庭の茂みを突き進み始めた。相性最悪な二人の、本当の戦いはここからだった。
第2幕の幕開けにふさわしい、ハラハラと笑いが詰まった第3話をお届けしました。
身体のサイズ感や衣服の違いに翻弄される二人のドタバタ感、楽しんでいただけていたら嬉しいです。保健室からはなんとか脱出したものの、執拗に追いかけてくる木村の存在が不穏な影を落としていますね。
次回、ようやくこの異常事態の「真相」へと繋がる最初の手がかりが明らかになります。慣れない身体のまま、二人はこの危機をどう切り抜けるのか――。
第4話もどうぞお楽しみに!




