第9話〜引き返せないふたりの距離
週末の計画が、たった一つの落とし穴で崩壊する――。お互いの実家へと向かう電車の中で突きつけられた、あまりにも遅すぎた「真実」と、二人の間に流れる気まずい沈黙を描いた一幕です
「何でこんな大事な時に!」
改札を抜けた平野の声は、受話器越しでもひっくり返っているのが分かった。玄関前でカバンをひっくり返し、ポケットをすべて探っても、部屋の鍵は影も形もなかったのだ。
結局、平野は埼玉の実家へ、私は神奈川の実家へと引き返す最悪の事態になった。せっかくの週末が、たった一本の鍵のせいで台無しだ。電車に揺られながら、怒りと虚しさが交互に押し寄せてくる。
実家に着く直前、諦めきれない気持ちで平野に電話をかけた。
「ねえ、もう一度確認だけど、リュックの底とかも見た?」
『見たって! 全部出して探したもん……あ』
電話の向こうで、平野の動きがピタッと止まった。
『待って。……あったわ』
「は? どこに?」
『カバンの、一番奥のチャック付きの内ポケット……』
受話器の向こうの沈黙と、引き返せない距離まで来てしまった私たちの気まずい空気が、静かに響いていた。
お読みいただきありがとうございました!
せっかくの週末、2人きりで過ごすはずが、まさかの「鍵紛失」という大トラブルが発生してしまいました。
お互いの実家(しかも埼玉と神奈川という真逆の方向!)へと向かう電車の中で明かされる、あまりにも切なすぎる真実……。
物理的にも心理的にも距離が開いてしまった2人は、この最悪の週末をどう乗り越えるのか?
次回、第9話「引き返せないふたりの距離」に続きます。ぜひお楽しみ




