41.古の魔法使い
それからは、穏やかに数日が過ぎて行った。
幸か不幸か、リィン国は西隣の国からの攻撃を見事に防衛し、反撃に国境近くの一部地域を手に入れたとして、国中は大騒ぎで、魔法に関係がある貴族ばかり狙った殺人鬼の行方どころではなくなっていた。どの社の新聞も、リィン国の華麗なる戦果を称える記事ばかりが、見出しを飾っている。
「ほら。アダムの番だぞ」
ジャスパーの声に反応して、アダムは新聞から顔を上げる。チラリとチェスの盤面を見ては、考えたのか考えていないのか、すぐにビショップを三マス斜め上に動かした。途端にジャスパーは奇声を上げて頭を掻き毟る。
「だぁーっ!まただぁ!」
「おまえは本当に学習しないな。分かりやすい罠に簡単に引っかかって…」
「一つ目の罠には気づいたのに……おまえの打ち方が卑屈過ぎるんだよ!」
「はいはい」
アダムは再び新聞に視線を戻しながら、適当な返事をする。それでジャスパーは頬を膨らませてアダムを睨んだが、アダムは全く気にしていなかった。
「ご主人様。紅茶をどうぞ」
「ありがとう」
シュティレが差し出した紅茶を、アダムは微笑んで受け取る。その慈愛に満ちた微笑みをジャスパーがじっと眺めていると、それに気づいたアダムが「なんだ?」と真顔に戻る。
(うわぁ~面倒臭い……面倒臭いぞアダム!)
たぶん、シュティレに今見せた微笑みは無自覚だ。少なくとも、ジャスパーはアダムが、そんな表情が演技で出来る程の技量の持ち主ではないと思っていた。もし、出来るのだとしても、今それを使う必要はないのだし……。
「……あのさ、ちょっと考えたんだけど」
ツッコんでも仕方がないと思い、ジャスパーは話題を変えた。
「僕の母親の出身地が、リィン国の南にあるルベール帝国なんだけど、そこなら追手があっても手出し出来ないんじゃないかと思うんだけど、一緒に行かない?」
「ルベール…」
ルベール帝国と聞いて、アダムは渋い顔をした。
ルベール帝国は、大陸の半分程の面積を国土に持つ大国だった。リィン国のような小国が小競り合いをする中、その戦争に参加するでも、ましてや被害がある訳もなく、別世界のように平和な国だった。
そして、古の魔法使い五家のうちの一つ、"炎の申し子"と呼ばれたフォクス家が一部領地を治める国でもあった。
フォクス家はその名の通り、炎や水など、自然エネルギーを操るのを得意とした一族だ。現代の魔法使いの多くは、フォクス家の力に縁がある場合が多い。その理由としては、初代フォクスが、なかなかに浮き名の多い人物で、あちらこちらの女性と関係を持ち、子孫が多かったという名家にあるまじき不名誉な理由だった。
故に、現在のフォクス家はそれを恥じ、なかなかに厳粛な一族になっているとかいないとか……。
「ウェスペルを継ぎたくないおまえからしたら、近づきたくない土地かもしれないが、シュティレちゃんを護るにはうってつけじゃないか?ルベール帝国はこれ以上領地を広めたがるような野心家じゃないし、魔法使いは大事にされてる。リィン国やその周りみたいに、魔法を武力にしていないから、住心地はいいと思うけど?」
否定される前に押し切ろうと、ジャスパーは早口に語る。シュティレは興味を持ったようだったが、アダムの表情は暗い。
「おまえは五家と関係ないから、そんな気楽な事が言えるんだ。特にフォクス家なんて、最悪だ…」
「あら、良いじゃないですか。事情を話せば、フォクス領で匿ってもらえますよ」
アダムが渋っていると、クロがエプロンの裾で手を拭きながら近づいてきた。
「おまえ……それを本気で言っているのか?」
アダムの声が低くなる。それでもクロは「ええ」と調子を変えることなく頷いた。
「木を隠すなら森……でしたっけ?そんな言葉がありますよね。ルベール帝国なら、ご主人様が嫌うような魔法の使い方はしないでしょうし、むしろ要望を聞いてくれるかもしれませんよ」
「私、フォクス家の現当主に会ったことあるよ!年は私より四つ上だったから、今は……三十一歳かな?優しそうな男の人だったよ」
ミアまで会話に参加して、「僕も会いたいなぁ〜」とジャスパーはわざとらしく賛同した。
「私、旧姓ラクリスだし、会ってくれると思う。それに、ウェスペル家のことは、心配してたみたいだったからね。アダムが一緒なら、なおのことかも」
ラクリス家も、五家の一端、"癒しのラクリス"と冠される一族だった。使い魔の治療など、医療面に特化した魔法を使うのは、以前説明した通りだ。
「へぇ~…」
魔法の始まりに関わった人達の子孫が集まろうとしていることに、シュティレはなんとも言えない高揚感を感じた。それでアダムの顔を覗き込んだが、
「……あ…」
それはシュティレが見たことがない表情だった。呆れているのか怒っているのか……とにかく、不機嫌であることは疑いようのない表情だ。どこか一点を睨むように、目を細めている。
「ねぇ?シュティレも興味あるでしょ?」
そんな主人の様子に気づかない筈がないのに、クロは明るい調子でシュティレの肩に手を置いた。
「え…あ――うん…」
ガタンッ!
シュティレが小さく答えた瞬間、アダムは椅子を倒す勢いで立ち上がった。クロ以外はギョッとして肩をすぼめる。
「行きたいなら、好きにしろ」
そう言ってアダムは、誰とも目を合わせずに二階にある自室に戻って行った。
「だ、そうですから、行きましょうか」
皆が押し黙る中、クロだけは動じない。
「え?でも、なんかアダムは、乗り気じゃないみたいだけど……」
ミアが窺うようにクロを見つめる。それにクロは頷いた。
「そうですね。ですが、ご主人様には必要なことですから、いいのです」
「クロ……ご主人様は、ウェスペルを継がないって…」
「ええ。だから、このままフォクス家の当主に会えないと思っているのでしょう。彼らはウェスペルの当主を探していたから――でもね、ご主人様には悪いけれど、ウェスペルの家督はともかく、継承した魔法は次代に継がなければならないのよ。今それが出来るのは、ご主人様だけ。だから、継承が済むまでは、当主のつもりで居てもらわないと困るの――それに、そろそろ"アレ"の時期だし…」
「"アレ"?」
首を傾げるシュティレとジャスパーの横で、「あっ!」とミアは声を上げた。
「そう。"再封印"をしないといけないのよ」
※
この世界で初めて魔法を使った人間、『ウィス・フォンス』ことマグノリア・ハーネットは、少し儚げな印象の女性だったと伝わる。
現代では、"暁の女神"と呼ばれて信仰する地域も存在した。
そんなマグノリアが、何故魔法を弟子に分けたのか……。
それは、人類にとって最大の敵、ドラゴンを倒す為だった。
ある日突然、どこからともなく現れたドラゴンは、好き放題暴れ回った。硬い鱗には剣も砲弾も効果がなく、対抗できたのはマグノリアが操る魔法のみだった。しかし、マグノリアだけでは倒すことが出来ず、マグノリアに協力を名乗り出て、魔力が定着出来た五人と力を合わせ、やっとの思いでドラゴンの封印に成功した。その封印された地が、ルベール帝国のフォクス領の中にある。
封印に協力した五人はそれぞれ名を貰い、ドラゴンを封印した時に使った魔法を遺す為に、貰った二つ名を家名として繋いできた。
『炎の申し子フォクス』、『宵闇のウェスペル』、『癒しのラクリス』、『賛美のリュト』、『探究者のテト』の五家だった。
「そのうちテトは、途絶えてしまって、代わりにテトから魔法を伝え聞いたディオン家が、今はテトの魔法を繋いでいるの」
「ディオン……クラウスさん?」
ミアの説明に、シュティレは驚く。まさか伝説の五家のうちの三家の人間と顔見知りだとは思わなかった。
「考えてみたら、すごいんだな……僕は小さい頃に絵本か何かでウィス・フォンスの伝説を読んだんだけど、まさか本当の話とは思ってなかったよ」
ジャスパーが唸ると、ミアは笑った。
「私も。五家はともかく、ウィス・フォンスとドラゴンは胡散臭いって思ってた。でも……」
そこでミアは、チラリとシュティレに目線を向ける。その目線を受けて、シュティレはスッと背筋を伸ばす。
「シュティレちゃんが現れてから、ウィス・フォンスは存在するんだって思ったら、ドラゴンだっているかもしれないって信じられるようになった」
「そうだよなぁ〜」
「私も長い時を生きていますけれど、ドラゴンには会ったことがないですね」
「そうなの?」
驚くシュティレに、クロは苦笑いを浮かべる。
「恐らく、ドラゴンが暴れていた頃には私は魔界に居ましたし、私がこちらの世界に来た時には既にウェスペル家はありましたから、きっと封印の後だったのでしょうね」
「そうなんだ…」
「そういえば、クロはなんでウェスペル家の魔法について心配するんだ?最初は無理矢理、使い魔にされたんだろ?」
ジャスパーの問いに、クロの笑みは深くなる。
「ええ。確かに無理矢理でしたけど……条件が良かったので。魔力の高い人間の心臓を定期的に喰らえるだなんて、願ったり叶ったりでしたからね。それに……」
そこでクロは少し遠くを見るようにする。
「初代ウェスペルだった男に、聞いた話が気になっているんです。"五百年後に封印が解けるから、掛け直しが必要だ"と。本当にそうなのか、気になるじゃないですか」
「もしかして……ウェスペル家にずっと仕えていたのはその為?」
ミアが顔を顰めるが、クロは逆に嬉しそうに笑った。
「ええ。初代の契約条件でウェスペルを絶やすなともありましたが、一番の理由はそこです」
「呆れた……流石は悪魔ね…」
首を振るミアの横で、シュティレは別の感想を持っていた。
(でも、その理由が、ご主人様のお祖母さんに出会ってから変わったんだ…)
そう思っていると、シュティレはクロと目が合った。クロはシュティレの心を読んだのか、瞳を細めてみせる。
「どんな理由があるにせよ、ご主人様が嫌がることを、無理にはさせられないよ」
ふとシロが大皿にクッキーを載せて現れた。皆、歓声を上げて食べ始めたがしかし、シュティレは一つ食べては、「シロ。これ、ご主人様に持って行ってもいい?」と訊いた。
シュティレは、先程のアダムの様子が気掛かりだった。自分がルベール帝国や魔法使いの五家に興味を持ったせいで、ルベール帝国行きが確定してしまったようで、申し訳なくなったのだ。アダムの味方をすると言いながら、アダムに無理強いしてしまった。
「もちろん!お願いするね♪」
そんなシュティレの気持ちが分かったように、シロは大きく頷いて、取り分け皿を取りに行った。
※
その後、クッキーと紅茶を載せたトレイを持って、シュティレは二階に上がった。上がってすぐの、向かって右手にはシュティレの部屋。その向かいに書斎と『当主の部屋』。当主の部屋の隣が、アダムの部屋だった。
アダムの部屋をノックしながら、すっかりアダムが部屋にいる時に、窺いに行く担当のようになってしまったなと考えて、シュティレは可笑しく思った。実際、シュティレが行ったほうが、他の二匹が行くより、角が立たないというのがシュティレが来てからの定石となりつつあった。
「ご主人様。シュティレです。シロがクッキーを焼いてくれたので、持ってきたんですけど、入っても良いですか?」
先程は怒っているようだったし、入れてくれないかもしれないと、シュティレは半ば諦めながら待っていた。
数秒待つが、案の定返事がないので、諦めて帰ろうとドアに背を向けかけると、ギィ…とドアが開く音がして、シュティレは慌てて振り返った。見れば、ドアが細く開いていて、そこからアダムの顔が覗いている。
「――入れ」
そう低い声で言いながら、ドアを広く開けてくれる。
「はい。失礼します」
少し緊張しながらシュティレが部屋に入ると、アダムはすぐにドアを閉めた。
「ここに置いてもいいですか?」
シュティレがテーブルを指して言うと、「ああ」とアダムは頷いた。それでシュティレがテーブルにトレイを置くと、「ただ置きにきただけじゃないんだろう?そこに座れ」と、アダムはシュティレに二人掛けのソファーを勧めた。
「はい」
大人しくシュティレがソファーに掛ければ、アダムはシュティレの隣に座った。
「!」
これほどまでに近い距離は久しぶりで、シュティレの体は、緊張で鳥肌が立っていた。
「何を身構えることがある?何もしやしないから、楽にしろ」
「す、すみません…」
そうは言われても、少しでも動けば肩や腕が触れてしまうほどの至近距離であることを意識しないのは、シュティレには不可能だった。結局まだ、落ち着かずに視線が右往左往する。
「本当におまえは――」
言いながらアダムは、シュティレの左肩に左腕を回して肩を抱き寄せ、右手をシュティレの頬に添えた。顔の距離が一気に近づいて、シュティレは反射的に目を閉じた。
アダムはそのまま唇を重ねようとしたが、寸前でピタリと動きを止めた。どこかが痛むかのように顔を歪めては、そっとシュティレから離れる。
「…?」
何も起こらないことを不思議に思ったシュティレが目を開ける頃には、アダムは紅茶を飲んでいた。
「ご主人様…」
シュティレが声を掛けても、しばらくアダムは無言でティーカップの中身を見つめているばかりだった。
やがてシュティレが沈黙に耐えきれなくなって意味もなく服を撫でつけ始めると、「……悪い」とアダムが呟いた。目線はまだカップの中身だ。
「大丈夫ですよ」
シュティレは努めて明るく返したが、内心は少し寂しかった。あのまま、唇を重ねて欲しかったという言葉を、なんとか呑み込む。
「――シュティレは……ルベール帝国に行きたいか?」
相変わらずカップを見つめたままのアダムの内面は、窺い知れない。なんと答えるべきかシュティレには分からなかったので、それで結局、「……はい」と正直な気持ちを伝えた。
「そうか……」
アダムはそう言ったきり、また黙ってしまう。
「で、でも!ご主人様が嫌なら、行きたくないです。私は、ご主人様の道具ですから……」
「……いや。いいんだ――俺も、覚悟を決める」
「あの……無理をしなくても…」
「違う。無理とかではなくてな……迷ってたんだ」
「?」
シュティレが不思議そうに首を傾げると、アダムはそんなシュティレを一瞬見て、表情を和らげた。
「俺はウェスペルを継ぐ気はなかったし、魔法使いだって、やるつもりはなかった――だが、復讐の駒としておまえを手に入れ、共に過ごすうち、考えが少しずつ変わって行った。……俺はおまえの主人として、おまえに自由をやる。その為にウェスペルの当主という立場も利用価値があると判断した。俺の代でウェスペルは終わりかもしれないから、存分に使ってから、捨てようと思う」
復讐としての駒が、今はどんな存在なのかは、アダムは言ってくれない……けれど、シュティレは信じていた。シュティレが真っ直ぐにアダムに向けた愛が、アダムに届いていると。だからこそ、シュティレの気持ちを優先してくれるのだ。
(だけど……)
愛は届いても、完全には受け取ってはいない。だからこそ、先程シュティレにキスをしなかったのだろう。いつでも手を離せるように、深入りしないつもりなのだ。
「……ご主人様。私はもう充分、自由にさせてもらっています。愛する人と一緒に居られるだけで、満足です」
「だから……俺と居るのが駄目なんだと言っているだろ」
「でしたら、なんであの時……」
熱を出して寝込んでいた時、シュティレの告白を受け入れ、触れてくれたのか……そう訊こうとして、シュティレはまた言葉を呑み込んだ。
(あれはきっと、反射というか、状況に流されたに近いのかな…)
悪夢を見てうなされていたようだったし、そこに意図せず、シュティレがつけ込んだ形だったのだろう。正常な状態なら、アダムはシュティレを求めるようなことはしなかったに違いない――そう考えると、シュティレは胸の奥が冷える心地がしたが、アダムを責める気にはなれなかった。
(ご主人様の事情も知らないで、私が勝手に愛してしまっただけだ……愛しているなら、もっとご主人様の事を考えてあげないと)
アダムはいつでも、シュティレを気遣っていた。それが戦略的でも、シュティレが恩義を感じる程に。だったら自分も、自分の欲を押し付けるのではなく、相手の為になることをしなければなるまい。
「ごめんなさい……なんでもありません。――クッキー、おいしいですよ。ご主人様も、お一つどうぞ!」
シュティレは気分を変えようと、菓子皿をアダムに差し出す。「ありがとう」とアダムはクッキーを一つ取って食べた。
(私がご主人様にしてあげられることって、なんだろう?)
どこか物憂げにクッキーを食べるアダムの横顔を眺めながら、シュティレは考えていた。
「……シュティレ」
「え?…はい」
「気を遣わせてすまない」
「い、いえ……私は、何も……」
シュティレは慌てて手を振る。そんなシュティレをアダムはぼんやりと眺めた。
「やっぱり……キスしていいか?」
「へ?……あ……はい……」
シュティレが顔を紅くしながら頷けば、アダムはそっとシュティレに顔を近づける。互いに目を閉じて、あと僅かで唇が重なるというとき――
コンコンコン!
ドアをノックする音が響いて、二人は体を離した。
「ご主人様〜!何だか、お客さんが来たみたいですよ〜」と、シロの間延びた声がする。
「何者だ?」
「親戚の人じゃないかって、クロが……」
「親戚……分かった。今行く」
「ご主人様…」
立ち上がるアダムに、シュティレは声を掛ける。
「大丈夫。……そろそろ、相手してやるか。――おまえは、顔を出すなよ」
不安そうにするシュティレを、安心させるようにアダムは言って、微かに笑った。
「分かりました。……あの……無理は、しないで下さいね…」
「ああ。……ありがとう」
アダムはそう言ってシュティレの髪を撫でた。
伝説も、魔法使いの五家も、アダムにとってはどうでもいいし、むしろ自分を縛る迷惑な鎖に過ぎなかった。だが、その鎖がシュティレを守る為に役に立つなら、使わない手はない。
(俺の傍に居るのが、幸せだと言ってくれるなら、そう思わせた責任は取らないとな…)
そう自分に言い聞かせながら、単純に自分がシュティレを手放せないだけだというのも、理解していた。
アダムは、名残惜しそうにシュティレから手を離して、シュティレに背を向ける。そのまま部屋を出ようとすると、「ご主人様」と呼び止められた。
「ん?…っ!」
まだ話があるのかとアダムが振り向いた瞬間、シュティレが伸び上がって、アダムと唇を重ねた。僅かな時間でシュティレは体を離したが、アダムはしばし放心状態だった。
「困ったら、私も呼んで下さい。役に立ってみせます!」
シュティレは宣言するようにハキハキと言いながらも、頬を赤らめ、照れ臭そうに笑っていた。
「――ああ……期待している…」
捨て台詞のようにアダムは言って、今度こそシュティレに背を向けて部屋を出ながら、口元を右手で押さえた。何度か深呼吸をして、顔の火照りを落ち着ける。
「……今のは、ずるい…」
守るつもりでいたのに、シュティレは守られるだけで落ち着くつもりはないらしい。
(本当に、恐ろしいやつだ…)
恐ろしい反面、嬉しいとも思ってしまう自分を律する。
階段を降りきる頃には、すっかりいつものポーカーフェイスに戻っていた。
お読み頂き、ありがとうございました。
今話から第四部としています。
急に古の魔法使いの旧家五家とか出てきてしまいましたが、今までうっすらあった設定で、出すかどうか迷っていました。それでも、五家の成り立ちや扱いなどのエピソードがはっきりして来たので、アダムには悪いですが、もう少し掘り下げさせてもらおうと思います。
アダムが自分の人生にどう向き合うのか……そんな章になればと思っています。




