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番外編②あの日の風の、その続き 〜最強の男〜




※本作は本編完結後の後日談(番外編)です。









二人は、その答えを知っている。



そしてリクがそれを知るきっかけは、翌日に訪れた。






午前中は、いつもの訓練だった。



その空気が変わったのは、午後の訓練が始まってすぐのこと。



ざわざわ、と、訓練場の空気が、不意に揺れた。



みんなの視線が、一斉に一方向へ流れる。




「……?」




リクも、顔を上げた。



人の間を抜けるようにして、その先を見る。



そして。




「――」




言葉が、出なかった。




そこに立っていたのは、青銀の髪に金色の瞳。



滅多に姿を見せないはずの、



その男の名は——ゼン・ロザリア王配。



ただ立っているだけなのに、空気が変わる。




訓練場の空気が、張り詰める。





「父上……」




隣で、小さくエレンが呟いた。



その声は、いつもの冷静なエレンとは少し違う……わずかに、緊張を帯びていた。




リクは気づく。



エレンの背筋が、すっと伸びたことに。



ほんのわずか。



けれど、確かに。



エレンが、一歩、前に出た。



おそらく、無意識に。




「……」




その動きを、ゼンは見ていた。



ほんの一瞬だけ、視線が交わる。



二人の間に、言葉はなかった。



けれど、それだけで十分だった。



エレンは何も言わずに、ただそこに立っていた。



逃げるでもなく、誇るでもなく。



ただ、向き合うように。




ゼンは、エレンから視線を動かすと、訓練生たちを見渡し、ふ、と優しく笑った。



「……そう、緊張しないでくれ。少し、様子を見に来ただけだ」




ゼンの雰囲気は柔らかいのに、誰も気が抜けなかった。




リクは、無意識に拳を握る。



これが。



エレンが見ている背中か。






「……わ、私とお手合わせ、願えますか」



その時、


訓練生の中でも上級生の若い騎士が、声を上げる。



その声は、少し震えていた。



無理もない。



相手は、あの人だ。




ゼンは、わずかに目を細める。



そして。




「いいだろう」




短く、応じた。



目つきが変わる。



次の瞬間。




――速い。




リクの目では、ほとんど捉えられなかった。



気づいたときには、勝負が終わっていた。



地面に膝をつく騎士。



立ったままのゼン。



ただ、それだけで十分だった。




「……まだ、踏み込みが甘いな。」




低い声が落ちる。



静かで、余計な感情はない。



ただ事実だけを置くような声。



リクは、息を呑んだ。





強い。



——そんな言葉じゃ、足りなかった。





「……」




隣で、エレンは何も言わない。



けれど、その目は――



昨日、リクに向けたものと同じだった。



分かっている、という目。




「……っ」




リクはわずかに歯を食いしばる。



悔しいのか、焦っているのか、自分でも分からない。



ただ。あの背中から、目が離せなかった。




そのとき。



ゼンが、ふと視線を外す。



向けた先にいたのは――




「エリシア」




ゼンの空気が、変わる。



さっきまでとは違う、柔らかく、そしてとても優しい目だった。



「……すぐ戻ると言っただろう。」



少しだけ困ったような声。



エリシアが、呆れたようにため息をついた。



「ゼン。訓練の様子を見るだけだって言ったじゃない。本気で剣を抜かなくても……。」



「私だってたまには剣を抜かないと腕が鈍るだろう。」



「そういう問題ではないのよ」




大丈夫?




そういってエリシアは、先ほどゼンに負けて膝をついた騎士に手を差し出した。



騎士は焦ったように自分で立ち上がり、慌てて頭を深く下げた。




「し、失礼いたしました!じょ、女王陛下にご挨拶申し上げます!」



騎士のその挨拶に、その場にいた他の訓練生たちも慌てて手を体の前に持っていき頭を深く下げる。



「いいのよ、それよりごめんなさい。訓練中だったのに中断させてしまって。」



「と、とんでもありません!大変光栄なことであります!」




ふんわりと優しい雰囲気をまとう人形のようなその姿、金色の髪に青い瞳は、エレーナにそっくりで。



リクは、その2人の姿を、不思議そうに見つめる。





隣に立つ夫婦。



当たり前みたいに。



2人の間には、絶対的な信頼と、安心感。




ゼンとエリシアのその姿に、自分の両親の姿が重なった気がした。




「……なんで」




気づけば、また呟いていた。






あんな強さがあって。



あんな危ないことをして。




それでも、止めずに、隣で笑っていられるのか。




その意味が、まだ分からない。




けれど――




昨日までよりは、ほんの少しだけ。




分かりかけている気がした。








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