↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
51/52

06:制服盗難事件

 〝パムール鉱山――マーテル初代国王・アルマートが国を興すことを決意した地〟


 小さな木の看板にはそう書かれていた。


 ロアは少し離れた所から、岩を掘ってできた坑口を見ていた。

 中からはトロッコの音と怒鳴り声が聞こえる。


 坑口から出てくる人はみんな疲れ切った顔をしていて、隅に溜まってタバコをふかしていた。


 てっきり世界遺産のような観光地を想像していたが、全く違うらしい。


 でもここが、あのパムール鉱山か。


 比較的綺麗な身なりをした男はロアに気づくと、詰所から出て来て笑顔で近づいた。


「ようこそいらっしゃいましたパムール鉱山へ。おやまあまた、随分お若い。……中を見学されますでしょう?」

「中、見られるんですか?」

「勿論です。しかし、制服が汚れますから制服は脱いだ方がいいかと思いますが……ほら! さっさとお預かりせんか!」


 身なりのいい男は、これから鉱山へ入ろうとしていた二人の鉱夫のうち、一人を呼び止めた。


「お願いします」


 ロアはそう言って、きょとんとした様子で立つ鉱夫にマントと制服の上着を差し出した。鉱夫は制服を受け取ると、ぺこりと頭を下げた。


 坑口から坑道へ入ると、鉱石を乗せたトロッコがレールの上を走っていく。積まれた石がいくつか零れ落ちると、身なりのいい案内役の男は、大声で鉱夫を叱り飛ばした。


 中は松明の火も相まってサウナのように蒸し暑く、鉱夫たちは袖口や布で汗をぬぐいながら作業をしていた。

 案内役の男は、地面に積まれた石の中から一つを手に取った。


「これが、魔法石でございます」

「綺麗ですね」

「マーテルでは〝天然石〟と呼ぶのでしょう?」

「魔法研究課では、そう呼んでいるみたいです」


 彼の手の中にある石からは、青と紫の光が覗いていた。


 ふと視線を感じて、ロアは顔を上げた。

 鉱夫たちはロアを睨むように見ていたが、目が合うとさっと逸らして作業に戻った。


 命を落とすこともある過酷な現場を見物されて、いい気はしないだろう。


 深々と頭を下げる案内役の男に見送られながら、ロアは鉱山から降りた。

 そして昨夜、怪奇現象が起きた家の前で立ち止まる。


 あんなふうに苦労して掘り出した魔法石を、壊してしまった。


「気になるならノックしてみたら?」


 すぐ後ろからガインの声が聞こえて、ロアは家から目を離さないまま口を開いた。


「なんて声をかけていいのかわからないんです。でも……もっと、私にできる事があったんじゃないかって」

「あったかもな。でも、昨日のお前にはできなかった」


 今もどうすべきだったのか、わからない。

 ロアはゆっくりと息を吐いた。


「ってかお前、制服どうした?」


 ガインにそう言われて、ロアは自分の姿を見た。


「上に忘れてきました。ちょっと、取ってきます」


 ロアは坂を上がり、詰所にいた案内役の男に声をかけた。


「ちょっとお待ちくださいね。すぐ確認を。あれ、ここにはないなあ……おい。あの、住み込みの臨時はどこで作業してる? いつも二人でいる方の片割れだ」


 別の男は名簿を確認してから口を開いた。


「今日は休みですね」

「そんな訳あるか! さっきこちらの騎士さまの制服を、あの男に預けたんだ!」

「体調不良で欠席と書いてありますが。二人組のもう一人も」


 一瞬で、頭の中が真っ白になる。

 ロアは案内役の言葉を待った。男はやっとロアに向き直り、笑顔を貼り付けた。


「……お返ししたんじゃなかったですかねえ? 帰り際は着ていらっしゃったような気がしましたけど」


 はっきりとした、嫌な予感だった。


「そんな訳ないでしょ? だって、」

「おーい」


 声が聞こえて振り返ると、そこにはガインとアメリアとグレイヴ、それからルイスがいた。

 なにも言えないロアを見て、ガインは口を開いた。


「あーあ、ロア。失くしたな?」


 認めたくなくて答えられずにいると、ガインの後ろにいたアメリアと目が合った。

 彼女は眉を潜めて口を開いた。


「どうやったら制服がなくなるの?」


 アメリアの純粋な疑問が、ロアの胸をグサリと刺した。


「だから言ったろーが。この制服は高いって。解雇かもなあ」

「探そう、ロア」


 ガインにとどめを刺されて真っ青になるロアに、ルイスがそう言った。


 それからルイスとロアはパムール鉱山から降りて、レイラの村を歩き回った。

 鉱夫、加工職人、観光客に聞いてみるが、それらしい情報は全く得られない。


 なんの糸口も掴めないまま日は落ちて、パムール鉱山の鐘が鳴った。


 このまま見つからなければ、本当に解雇されてしまうのだろうか。

 そう思ったロアの視界に、大あくびしながら公爵邸へ向かう坂を登るグレイヴが映った。


 思い出したのは、馬車が壊れた時のこと。


 『直せるなら最初から言えよ!』

 『じゃあ最初から直せるヤツいる? って聞けよ』


「あのっ!」


 ロアがそう言うと、グレイヴは立ち止まり、少しめんどくさそうにロアを見た。


「……心当たりない? 私の制服」

「この辺りでは闇取引が増えてる。夜中に村を出る荷車は、だいたい怪しい」


 やっぱり知ってた。

 知ってるなら言えよ、そう思いながらも一安心して、ロアは息をついた。


「拠点とか知らない? どこに荷物がまとめてあるかとか……」

「観光地の裏路地だろ。あそこが一番目立ちにくい」


 グレイヴはそう言うと、坂を上がって行く。ルイスはグレイヴからロアに視線を移して問いかけた。


「ロア、どうする?」

「……夜は出入り口で見張ろうと思う。でも今から、観光地の裏路地に行ってみる」

「わかった。じゃあ、一緒に行こう」


 ロアとルイスは観光地の裏路地に向かった。観光客の姿はなく、商売人や鉱夫が歩いていた。


 ロアは荷車に荷物を積み込むひとりの男に事情を話した。


「そういやこの辺りで闇取引みたいなのが横行してるらしい」


 男はそう言うと、タバコを持っていない方の手を上げ、指輪をロアに見せた。


「この魔法石があるだろ。こういう指輪を改造して使うヤツがいるんだと。相当な金になるらしいなあ。もしそんなやつらが騎士の制服を手に入れたんだったら大喜びだろうよ。しばらくは遊んで暮らせる」

「見当がつく人はいませんか?」


 ロアの問いかけに、男は辺りを示すように手を広げた。


「この辺りならいくらでも」


 その裏路地にはたくさんの荷車が並び、木箱が積まれている。

 ルイスが身に着けた騎士の制服を見た何人かは、息を呑んで建物の中へ身を隠した。


 一つ一つを探していてはキリがない。

 そう思ったロアは男に礼を言って、夜を待った。


 ロアはレイラの村の出入り口を、ルイスとガインと共に見張っていた。


 村が完全に眠った真夜中。一台の荷車が、レイラの村を出た。


「声かけてきます」

「まだ待ってろ」

「どうしてですか?」

「もし戦闘になった時、人を巻き込む位置だ」


 早く制服を取り戻したい。

 それでもロアは、ガインの言葉を信じて足を止めた。


 荷車は村からどんどん離れて行く。三人は木や草の影に隠れながら、荷車を追った。

 木箱がいくつも積まれていて、白い布で覆われている。


 その隙間から、青い制服の袖が見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。