↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
45/52

05:シェルが死ぬまで、あと五年

「お前、聞いてた? 俺の話」

「……え、なにがですか」

「だーかーらー。フィジカルが大事って話」


 一瞬で大事な話ではないと察したロアは、とりあえず「大事ですよね」とガインに相槌をうった。


「おはよう、ガイン」


 聞き覚えがある穏やかな声に、ロアは振り返った。


「おう、おはよ」


 廊下の向こうには、制服を身に着けたルーンがいた。彼の背中では、黄色のマントが翻っている。

 ひらひらと手を振るルーンを見て、この人、普通に昼もいるんだと思った。


 こちらに向かって歩いてくるルーンはなぜか、昨日と違いとても爽やかだ。

 例えるなら、レモンソーダのような。

 青春恋愛マンガの、憧れの先輩のような。


「ロアもおはよう」


 あの色気は出し入れ可能なんだな。そんな事を考えているロアは我に返り、背筋を伸ばした。


「おはようございます、ルーン元帥、」


 〝社会人〟としてごく自然に頭を下げるロアの肩に、ルーンの手が触れる。

 ルーンは顔を上げたロアの目を覗き込むように見たあと、肩を二回たたいて腕を下ろした。


「そんなことしなくていい。もっと気楽に呼んでよ。人生のちょっと先輩くらいに思ってさ」


 ルーンはロアにほほ笑むと、返事も聞かずにガインに視線を移した。


「仕事サボってない? 新人くんたち、ちゃんと見てあげてるの?」

「見てなかったらここに来てねーだろが」


 なにか恨みでもあるのかガインの態度が悪いが、ルーンは、「ならいいけど」と楽しそうに笑っている。


「ガインと僕は同期なんだよ。ガイン、態度悪いと思わない? ロア」

「……いや、どっちもどっちだと思うんですけど」

「僕の味方になってくれないの? 怒ってる? 昨日の夜は待ってって言って、僕を引き留めてくれたのに」

「本当にやめてください。誤解を招きます」


 この人が。こんな人が。直属の上司?

 不安すぎるんだけど。


 生き生きしているルーンと絶望しているロアを見て、ガインが問いかけた。


「お前ら知り合い?」

「うん。でも僕はこの姿では、八年ぶり」

「ああ、そっか。ロア・リーヴな。シェルさまが魔法使ったときの」


 ガインはそう言うと、思い出したようにふっと笑った。


「あん時凄かったよな。みんなパニックで」

「あれだけ騒ぐなら、最初から完全抑止の道具を作ればよかったのにね」


 高速回転するような音を立てて外れた、シェルのブレスレットを思い出した。

 小さな村で起こった出来事は、王都の大きな研究施設がパニックになるほどの大事だったのか。


「お前よくベルトラード公爵について行ったよな。俺、絶対嫌だったもん」

「あ、ガインまただよ」

「あ?」

「僕は今、君の上司。敬語を正しく使おうね」


 ガインは舌打ちをして至極面白そうにしているルーンを睨んだ。


「どーもスミマセンデシタぁ!」


 思いきり馬鹿にした様子を見せるガインだが、ルーンはやはり嬉しそうに笑っている。


 シェルは研究施設がパニックになることも、わかっていたはずだ。

 それでも、魔法を見せてくれた。


 『俺はロアに見せたいよ。俺が見てるもの、全部』


 あの日を思い出して、手を握りしめた。


「あの、ルーンさん。おすすめの魔法の入門書はありますか?」

「魔法の入門書? どうして?」

「私、魔法少しも使えないんです」

「うん。知ってるよ」

「だから、少しくらい使えるようになった方がいいのかなって」


 ロアの答えを聞いたルーンは少し考えるそぶりを見せて、それから口を開いた。


「でもロア、今まで一度も発動したことないんだよね?」

「はい」

「じゃあフツーに魔法の才能ないんじゃない?」


 ルーンは悪びれる様子もなく、殺傷力の高い言葉を投げつける。


「あのリディアの孫なのに」


 ガインに別方向から抉られ、泣きそうになった。


「……ふたりとも、ひどくないですか?」

「だってここは、苦手を人並みにする場所じゃない。得意を最大値にする場所だよ」


 ルーンは当然のように言う。

 その得意がわからないから、困っているのに。


「焦ってるね、ロア」


 シェルが死ぬ未来は、待ってくれない。


「……私、自分になにが必要なのか、どうしたらいいのか、なにも分からなくなっちゃって」


 陸の見えない、広い海に放り出されたような気持ちだ。


 がむしゃらに本を読んで、考えて。

 なにもわからないから、せめてシェルのいる世界に近付くために、騎士になった。


 だけど騎士になっても、なにもわからない。

 誰がシェルを殺したのか、どうして殺されたのか。

 シェルが今、なにをしているのかさえ。


「考えてもわからないなら、気分転換に外に出ておいで」

「……え?」

「明日から初任務ってこと」

「任務、ですか? そんな急に……?」

「いい気分転換になるよ。きっと。あ、ガインもね」

「はあ? お前……。俺の仕事どうすんだよ」


 ガインは唖然とした様子でルーンにそう言うが、彼は考えを変える気はないらしい。


「任務ってどこへ行くんですか……?」

「パムール鉱山」


 ――パムール鉱山。


「遥か昔。初代国王アルマートが、マーテルを興すきっかけになった場所。楽しそうだと思わない? ロア」


 ルーンはロアを見ると、にやりと笑った。


 初めて本を読んだ日、アルマートを知った。

 マーテル始まりの地を見ることができる。


 一体、どんな場所なんだろう。


 自分の得意が分からない。

 シェルを救う方法も、分からない。


 それなのに、この世界はまだ、楽しいものに溢れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。