人外×メイド
どうしてこうなった?
本棚に囲まれた書斎の中で、私は両手でティーポットを持ちながらふと窓の外を見る。窓から広がる景色は大きなお庭や噴水、それから空にはプチドラゴンっぽい生き物が自由気ままに飛んでいた。
「おい、メイド。飲み物はまだか?」
「申し訳ございません」
トカゲみたいな緑色のゴツゴツした指先を器用に動かしながら上等な紙に羽ペンを走らす主に飲み物を催促された。
確かに私はメイドの部類に所属しているけど広瀬 香奈って言う名前があるの!
そう、反論したいけどなんせ相手がここの屋敷の主で尚且つ私の主だ。しかも、言葉を話すトカゲ人間の人外なんだよね〜。
反論したら何されるか分からない。食べられるかもしれないし、売られちゃうかもしれない。
だから、ここは大人しく従うのが賢明だとこの1ヶ月で学んだ。
「遅い、早くしろ」
「はい」
ことが起きたのはつい1ヶ月前。
私は普通に一人で学校から家へと帰っている途中、背後から誰かに目と口を押さえられ何かを嗅がされて気を失った。
そして、目が覚めてみればなぜか牢屋の中にいて、手首には鉄の手錠がはめられていた。ちょっと待ってここはどこ、なんで私がこんな目に遭うの!そう言いながら檻をガンガン叩いていると、どうやら同じ檻の中にいた狼の獣人が懇切丁寧に色々、説明してくれたの。
言葉が通じる!とか、なぜ狼の獣人⁉︎とかのツッコミは無しで。
簡単にまとめると私は日本から異世界へと拉致られたらしい。そんでもって、今から競売にかけられ誰かに買われる。
実は今、私がいる世界では『人間』という種族はとても珍しく貴重で高値で売れるとのこと。
まぁ、そこから色々ありまして結局私は今の主、もといトカゲ人間に買われてトカゲ人間の専属メイドとして働いておりまーす。
おっとと、そんな昔話を思い出しても今からどうすることも出来ないので私は今やるべきことを終わらせることにした。
とりあえず私は、この屋敷に来てメイドの基礎を教えてくれた私の教育係兼、執事のデュラさんから教わったお茶の淹れ方でティーカップにお茶を注ぐ。それからミルク少々と砂糖を1杯。
「どうぞ」
トカゲ人間に差し出したのは変な生き物をすり潰して粉にしたものを溶かしたゲテモノティーではないよ。大丈夫、これはミルクティーだからね。
作業をしていた手を休め、ミルクティーを一口飲んだトカゲ人間がゆっくりと口を開いた。
「マズイ」
左様ですか。
「紅茶一つもろくに淹れられないのか。このポンコツ。屋敷に来てからどれくらい経っていると思う、もう1ヶ月だぞ。それくらい時間があればシルキーだって皿回しの一つくらい出来るようになる。全くなぜ、お前はこうも物覚えが悪いんだ。そもそも人間の全てはこうも物覚えが悪いのか?本っ当、なぜこんなポンコツが無駄に希少価値が高いのだろうか不思議で仕方がない」
あっそうそう、この1ヶ月トカゲ人間に仕えていて分かったことなんだけど。この野郎、説教が長くて毒舌で傲慢でうざくて、何より小さなことでぐちぐち責める、非常に面倒くさいトカゲ人間なんだよ。
「申し訳ございません」
偉そうな口で……ふざけんなよこのトカゲ人間が!と、思っても。とにかく、ここは謝るのが鉄則。
本当なら主さまと呼ばなければいけないんだけど、私は心の奥底で主とは認めてないからトカゲ人間と呼んでいる。
「もういい、お前は他の仕事をしろ。と言うかさっさと部屋から出ていけ」
「分かりました」
こんな感じの下りは毎回のことのようなので私はドアの前で一礼をし、静かに部屋からでる。
一応、私の仕事は基本、トカゲ人間の身の回りのお世話をしているけど今みたいなことがあり時間が出来れば、他のメイドたちの仕事を手伝ったり調理場に行って料理人たちのお手伝いをしているんだ。
今は大体、夕方。
そう言えば今日は夜の8時くらいからこの屋敷にトカゲ人間の知り合いだとか言うお偉いさんが来て食事会を開くとか今朝のメイド、料理人たちだけの朝会でデュラさんが言ってたなぁ。
多分、今くらいの時間から夕飯の支度をしている頃だろうし、調理場に行ってお手伝いしますか。
「カナさん、こんなところでどうかなされたのですか?」
「あっ、デュラさん」
調理場へ向かう途中、数メートル先の扉から執事のデュラさんが出てきた。いや〜、いつ見ても燕尾服が似合ってるね。首から上がないけど。
「また、追い出されたのですか?」
「はい、申し訳ございません」
「いえいえ、カナさんが謝ることではありませんよ」
デュラさんは執事の象徴である燕尾服を着ていて、首から上がない人外だ。でも、トカゲ人間とは大違いでめちゃくちゃ教え方も丁寧で優しい紳士な執事さん。
「ミルクティーを淹れたらマズイと言われまして」
顔が無いのにどうやって周りのことが見えているのかと、どうやって会話することが可能なのかと言うのは不思議だけど意思疎通が出来るなら問題なし。それに、すっごく優しいからね。
「全く、あの方は」
デュラさんは肩をすくめて困ったと言う表現をしている。
「まぁ時間があるのでしたら、調理場の方に行って下さいますか?」
「はい、今日は夜にお客さまがお見えですよね」
「助かります。後でメイドのメデュー3姉妹を調理場に送りますので」
メデュー3姉妹とは、私と同じ屋敷の離れに住み込みで働く蛇女の3姉妹。それぞれ、個性的な性格をしていて面白いけどちょっと大変な人外たち。
「分かりました。では、そのように料理長にもお伝えしますね」
デュラさんと別れた私は調理場へと向かった。
トカゲ人間以外、メイドたちや料理人たちはみんな優しくて面白くて良い性格をしているけど、ちょっと個性があり過ぎて大変かも。
ここの暮らしに楽しいか楽しくないかと聞かれたらトカゲ人間のことは抜いて、楽しいと答えるだろう。
でも、やっぱり私は元の世界に帰りたいのが本音。だから、密かにメイドとして生きながら私は水面下で元の世界に帰る方法を探している。
「絶対に元の世界に帰ってやるんだから!」
片腕を天井まで伸ばすように突き上げて私は誓った。
天の声『Q、何をしたかった?』
ーーメイドのお話が執筆したかった、ただそれだけです。
天の声『Q、なぜ人外を選んだ!しかもトカゲ人間って……』
ーー元々は獣人の予定でしたが、ケモミミよりもトカゲ人間の方が面白そうだと。強いと言うなら出来心?
それでは、お次は『人外×メイド②』




