↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら神の子ですが異世界が喧嘩を売ってきますが、生き残った人類が強すぎです。  作者: ネコ雲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/20

合同訓練と新たな出会い


 合同訓練をすると決まった翌日。


 私たちは、町の外にある訓練場へ向かっていた。


 町を出てしばらく歩くと、景色は一気に変わっていく。


 建物はほとんど残っていない。


 地面には大小さまざまな瓦礫が転がり、荒れ果てた大地が地平線の向こうまで続いている。


 崩れた壁。


 砕けた石。


 かつて建物だったものの残骸。


 風が吹くたび、砂埃が足元を転がっていく。


 その光景を見ていると、十年前の侵攻がどれほど凄まじかったのかが嫌でも伝わってくる。


 町の中では、人々が普通に暮らしている。


 けれど、一歩外へ出れば――。


 そこには、失われたものの跡が今も残っている。


 そんな荒れ地を三十分ほど歩いたところで、目的地が見えてきた。


「ここが訓練場ですか?」


 フレイが周囲を見回す。


「ああ」


 イザナさんが短く答える。


 訓練場と言っても、特別な建物があるわけではない。


 ただ地面が整備され、広い場所が確保されているだけだ。


 それでも、すでに先客がいた。


 少し離れた場所では、何人かの人たちが剣を交え、模擬戦をしている。


 剣と剣がぶつかる音が、乾いた空気の中に響いていた。


 別の場所では、一人で素振りを繰り返している人もいる。


 私たちも空いている場所を見つけ、荷物を置いた。


「よし、始めるぞ」


 イザナさんの声が響く。


 修行の始まりは、やはり瞑想だった。


 私たちは地面に座り、円になる。


 目を閉じ、意識を静かに整えていく。


 すると、いろいろな音が耳に入ってくる。


 鳥の鳴き声。


 風が荒れ地を撫でる音。


 遠くから聞こえる人々の掛け声。


 竹刀が空気を切る音。


 荒い息づかい。


 いくつもの音が重なり合い、それでも不思議と心は静かになっていった。


 三十分。


 瞑想を終える。


「次は素振り千本だ」


 イザナさんの言葉に、全員が立ち上がった。


 それぞれが武器を構える。


 るりだけは武器を持たず、正拳突きを始めた。


 他の者は竹刀や自分の剣を手に、素振りを繰り返していく。


 イザナさんの素振りは、相変わらず凄まじい。


 竹刀を振り下ろすたびに、鋭い風切り音が響く。


 ただ速いだけではない。


 一振り一振りに無駄がなく、竹刀が同じ軌道を正確に通っていく。


 まるで竹刀そのものが体の一部になっているようだった。


 そして、その隣ではゆうきも負けない勢いで剣を振っている。


 イザナさんには及ばない。


 それでも、その振りはかなり鋭い。


 以前見た時よりも、明らかに力が増している。


 あんなは魔法使いなのだから、当然杖を振るのだろうと思っていた。


 ところが――。


「……あれ?」


 あんなが持っているのは、やっぱり杖だった。


 ただし、振り方がおかしい。


 まるで杖を鈍器として使うかのように、ブンッ、ブンッと勢いよく振り回している。


「魔法使いって、ああいう素振りもするのね……」


 私が眺めていると、フレイもあんなの動きをじっと見ていた。


 しばらくすると、フレイも杖を構える。


 ブンッ。


 ブンッ。


 あんなを真似するように、杖を振り始めた。


「……」


 こうして見ると、真面目に剣を振っているのはイザナさん、ゆうき、私、タケミくらいになる。


 もちろん、他の皆が真面目にやっていないというわけではない。


 それぞれ自分に必要な修行をしているのだ。


 私とタケミも、以前より素振りが速くなっていた。


 短い期間とはいえ、毎日イザナさんの修行を受けている。


 少しずつだけれど、確実に力がついてきているのを感じる。


 そして――。


「次は模擬戦だ」


 イザナさんが告げた。


「テンたちと勇者一行でやってみろ」


「え?」


 思わず声が出た。


 勇者一行。


 つまり、ゆうき、るり、あんなとの対戦だ。


 神の子として、ここで負けるわけにはいかない。


 私は竹刀を握り直した。


「始め!」


 イザナさんの声が響く。


 同時に、私はゆうきへ向かって駆け出した。


「はあっ!」


 竹刀を振り下ろす。


 ――その瞬間。


 カンッ!


 鋭い音が響いた。


「え?」


 次の瞬間、私の竹刀が真ん中辺りから真っ二つに折れていた。


「……え?」


 手元に残った竹刀の先を見る。


 何が起きたのか理解できない。


 ゆうきの竹刀が、私の竹刀を斬った。


 竹刀なのに。


 まるで本物の剣で斬られたかのように。


「ちょ、ちょっと……!」


 驚いている暇もなかった。


 ゆうきが間合いを詰めてくる。


 私は慌てて後ろへ下がった。


 振り下ろされる竹刀をかわす。


 横薙ぎ。


 さらに一歩下がる。


 次の一撃が迫る。


「ちょっと、ゆうきまでなんなのよ!」


 必死に避けながら、心の中で叫ぶ。


 こんなの、まともに斬られたら怪我じゃ済まない。


 模擬戦のはずなのに、攻撃の一つ一つが本気すぎる。


 視界の端では、タケミもるりと対峙していた。


 こちらは竹刀と拳。


「くっ……!」


 タケミが竹刀を構える。


 るりが拳を突き出した。


「はっ!」


 何もないはずの空間を、拳が貫く。


 ――ドンッ!


「ぐっ!」


 タケミの体が吹き飛んだ。


「なっ……!」


 るりが正拳突きを繰り出すたび、見えない何かが飛んでくる。


 タケミは竹刀で防ぐものの、そのたびに後ろへ押し飛ばされる。


 なかなか距離を詰められない。


「クソ……なんなんだよ、あの技!」


 苦虫を噛み潰したような顔で、タケミが叫ぶ。


 一方、フレイとあんなは少し離れた場所にいた。


 二人は模擬戦ではなく、魔法の特訓をしている。


「もっと撃ってみて」


「あ、はい!」


 あんなの指示に、フレイが魔法を放つ。


 ドンッ!


 さらにもう一発。


 ドンッ!


 あんなも負けじと魔法を撃ち返す。


「魔法は数を撃つべし、よ」


「分かりました!」


 二人は、人のいない場所を選び、ひたすら魔法を撃ち続けている。


 そんな中、私とタケミの模擬戦は続いていた。


 避ける。


 受ける。


 踏み込む。


 それでも、なかなか相手を崩せない。


 何度攻めても、決定打にはならない。


 息が上がり、腕も重くなっていく。


 そして――。


 最後には、私とタケミの二人とも地面に倒れ込んでいた。


「はぁ……はぁ……」


 息を整えながら顔を上げる。


 すると、イザナさんがゆうきへ声をかけた。


「ゆうき、テンじゃ物足りなかっただろ。俺とやるか」


「はい!」


 ゆうきが嬉しそうに答えた。


「……」


 私は思わず頬を膨らませる。


 物足りないって何よ。


 こっちは必死だったんだけど。


 そんな私の気持ちなど知る由もなく、二人は向かい合った。


 そして――。


 模擬戦が始まった。


 凄い。


 ただ、それしか言葉が出てこなかった。


 竹刀同士が激しくぶつかる。


 カンッ!


 カンッ!


 打ち込んではかわし、かわしては打ち込む。


 イザナさんも、ゆうきも、私と戦っていた時とは明らかに違う。


 速い。


 重い。


 そして何より、二人とも一歩も引かない。


 私は思った。


 ――私と戦っている時は、手加減してくれていたんだ。


 十年前の侵攻を生き抜いた人間。


 勇者として異世界から帰ってきたゆうき。


 改めて、この二人の強さを思い知らされた。


 十分ほど激しい打ち合いが続いた。


 やがて二人は同時に距離を取る。


 竹刀を収めた。


「今日はここまでだな」


「ああ」


 模擬戦が終わる。


 私はその場で休み、乱れた息を整えていた。


 額に浮いた汗を手の甲で拭う。


 すると――。


「おーい!」


 遠くから声が聞こえてきた。


 顔を上げる。


 こちらへ歩いてくる人影が見えた。


「あら?」


 ツクヨさんだ。


 その隣にはタマ。


 そして、もう一人。


 前の戦いにもいた、ハサミを持った女性が一緒に歩いている。


「ツクヨさん?」


 ツクヨさんは私たちのところまで来ると、辺りを見回した。


「あら、ゆうき達もいるじゃない」


「お久しぶりです」


 ゆうきが挨拶する。


「久しぶり」


 るりも手を上げる。


 どうやら、ツクヨさんと勇者一行は以前から面識があるらしい。


 ツクヨさんは私たちにも挨拶をすると、隣にいる女性を紹介してくれた。


「この子はクチミよ」


 紹介された女性はマスクをつけている。


 そして、そのマスクをゆっくり外した。


「私って綺麗?」


「……」


 次の瞬間。


 ゴンッ!


 イザナさんがクチミさんの頭を叩いた。


「痛っ!」


「しつこい。何回も同じこと聞いてくるな」


「叩かなくてもいいじゃない!」


 クチミさんは頭を押さえながら、不満そうに頬を膨らませる。


「私の決まり文句みたいな物なんだから」


 どうやら、いつも同じことを聞いているらしい。


 そんなクチミさんを見て、タケミが口を開いた。


「俺は姉ちゃんのこと綺麗だと思うぞ」


「……え?」


 クチミさんが固まる。


 次の瞬間、両手で頬を押さえた。


「そ、そう……?」


 顔が真っ赤になっている。


 タケミは、そんなクチミさんを不思議そうに見ている。


 ただ、本当に思ったことを言っただけなのだろう。


 私たちは神の子として、皆を平等に愛するよう教えられてきた。


 だから、多少口が大きかったり、少し変わったところがあったりしても、タケミにとっては関係ない。


「タケミ、やるわね」


 ツクヨさんがニヤニヤしている。


「?」


 タケミは首を傾げている。


 神とはいえ、私たちはまだ子供だ。


 こういうことには、まだ疎い。


 そんなタケミを見て、ツクヨさんがさらに面白そうな顔をした。


「クチミ、あなたタケミと模擬戦してみなさいよ」


「え?」


 クチミさんが驚く。


「いいぞ。あんた、クチミって言うんだな。俺はタケミだ。よろしく」


「う、うん。よろしく……」


 クチミさんは顔を合わせようとせず、少し横を向いている。


 耳まで赤くなっていた。


「じゃあ、ちょっと模擬戦やってみるか」


「はい」


 二人は少し離れ、向かい合う。


 タケミは竹刀を構えた。


 対するクチミさんは、両手にハサミを握る。


「始め!」


 合図と同時にタケミが駆け出した。


「はあっ!」


 竹刀を振り下ろす。


 クチミさんはハサミを交差させ、それを受け止めた。


 ――ガキンッ!


「……あっ!」


 力を受け止めきれず、クチミさんの体が後ろへ弾かれる。


「あ~!」


 そのまま地面へ倒れ込んだ。


「大丈夫か?」


 タケミがすぐに手を差し出す。


「はい……」


 クチミさんは、その手を取って起き上がる。


 それを見た私は――。


「ちょっとどいて、タケミ。私が相手するわ」


「え?」


 思わず口を挟んだ。


 タケミは私にとって弟のような存在だ。


 そんなタケミに色目を使うクチミさんが、なぜか許せなかった。


「テン?」


「私がやるの」


 戸惑いながらも、タケミが下がる。


 クチミさんは私をじっと睨んだ。


 長い髪が、ふわりと逆立つ。


 さっきまで照れていた表情が消えている。


「……」


「……」


 二人の間に、妙な緊張が走った。


「始め!」


 合図と同時に、クチミさんが走り出した。


 速い。


「なっ……!」


 ハサミが二本。


 左右から、鋭い突きが次々と飛んでくる。


 私は竹刀で受けようとする。


 しかし――。


「くっ!」


 間に合わない。


 ギリギリでかわすものの、服の一部が斬り裂かれた。


 さらに一撃。


 また一撃。


 クチミさんの動きが速すぎる。


 私も攻勢に出ようと踏み込む。


 けれど、距離を詰める前にハサミが迫ってくる。


 防ぐ。


 かわす。


 また防ぐ。


 こちらから攻撃する暇がない。


「くっ……!」


 気づけば、服はあちこち切られていた。


 このまま続ければ、さすがに危ない。


「そこまで!」


 セイさんの声が響いた。


 模擬戦終了。


「……」


 私は竹刀を握ったまま、悔しさに歯を噛みしめる。


 意気込んで出ていったのに――完敗だった。


「なんだ、クチミ強いじゃねぇか」


 タケミが素直に言う。


「……!」


 クチミさんの頬が、また赤く染まった。


 そして私は――。


 ギロリ。


 タケミを睨みつけた。


「……」


 タケミは、なぜ睨まれているのか分かっていない。


 そんな、空気が戻りかけた――その瞬間だった。


 誰かが、イザナさんへ斬りかかった。


「!」


 空気が一変する。


 その攻撃に反応できたのは、イザナさん、ゆうき、るり、そしてツクヨさんだけだった。


 イザナさんが竹刀を抜く。


 迫ってきた刃を――。


 ガキンッ!


 正面から弾き飛ばした。


 そのまま相手を見据える。


「よ~イザナ。いつからそんなに沢山の子守りを始めたんだ?」


「なんだ、イナミか」


 イザナさんの声から、先ほどまでの緊張が消える。


「子守りで腕は鈍っていないようだな」


「バカを抜かせ。そんな訳あるか」


 二人は何事もなかったかのように話し始めた。


 突然現れた男を、私たちは呆然と見つめる。


 ツクヨさん以外は、どうやら誰も知らないらしい。


「イザナさん、この人は?」


 私が尋ねる。


「ああ」


 イザナさんが男を見る。


「こいつは、同じ師匠の元で学んだ……あれだ」


「……あれ?」


 思わず首を傾げる。


 紹介する気があるのかないのか、よく分からない。


 すると、ツクヨさんが呆れたように補足した。


「同じ師匠を持つ、弟子同士なんでしょ」


「そうなんだが、俺の方が先輩だ」


 イザナさんは澄ました顔で胸を張る。


 確かに、目の前のイナミという男性は、イザナさんよりだいぶ若く見える。


「けど、俺の方が強い」


 今度はイナミが胸を張った。


「寝言は寝て言え」


 即座に返すイザナさん。


「なんだと?」


「事実だろ」


「どこがだ」


 二人の言い合いが始まる。


 さっきまでの緊張感は、もうどこにもない。


 私たちは少し離れた場所から、その様子を眺める。


 どうやら――。


 この二人、かなり仲が良いらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。